一見ポップな変化球だが、その実真面目で丁寧な作品。短いながらもエロに偏らない青春模様、変わってしまった関係と変わらない関係を、余韻を持たせて描いた良作だと思います。
エロゲではTS(性転換)キャラは主人公となる事が多いが、本作は珍しく攻略対象となっている。
しかも、その相手が長年の親友とあっては、一般人にとって当然ながら越えるべきハードルは高い。
ご褒美とか言ってる逸般人は、お前じゃねぇ座ってろ。
だから、主人公が戸惑い、実は同じ様に戸惑っていた親友に対し、変わった姿を受け入れない選択をするのも納得できる。
逆に、姿は変わっても中身は変わっていない親友に対し、逡巡しながらも今の姿を受け入れる選択もできる。
更には、無愛想だが何故か面倒見の良い、しかし報われないサブヒロインに対し、目を向ける事もできる。
TSゲーは戸惑う反応こそが肝ではあるが、本作の距離感は低価格抜きゲらしからぬものに見える。
久々に再会するも元親友と気づかず「あんた誰？」で、転校生紹介で気づくも、色々な気まずさと一匹狼⇔人気者の壁が。
親友曰く「優しいフランケンシュタイン」とはいえ、再会一週間でもまともに会話ないとか不器用すぎるよ！
あゆむもあゆむで、自分が女の身体になった事に現実感がなく、無防備で天然極まりない、ふらふら危なっかしい状態。
世話焼きの一條さんも必要以上には動かないから、結局は主人公が野郎共の魔の手からでかい身体を張って守るしかない。
でも助けても、入院中や退院後の応対がしこりになって、昔みたいに素直に話せないとかツンデレすぎるよ！
とにかく今のあゆむの危なっかしさは半端じゃなく、男から付き合ってと言われても、(男同士の遊びだし)いいよーと全部OKで逆にKO。
痴漢や男子生徒からのセクハラも、まあぼくは男だし気持ちも分かるから仕方ない、はいはい楽しいですかー？(棒読み)
だがそうは言っても身体は女で、昔みたいに上手く逃げる力も失い、病み上がり故に普通に真っ直ぐ歩くのも覚束ない。
そして、親友の主人公に対しては「こんな女の身体になっちゃって、気持ち悪いよね…？」と諦めた、でもいつものニヘラ顔で話す。
男共とのエッチでも基本無反応なのに、好きな相手を意識してしまうと途端に反応が良くなる、無自覚な乙女モード。
何ていうか、すごくいじらしくてかわいいんですよ！
主人公が助けると、少し遠慮しつつもすごく喜ぶし、傷付いた主人公の看病も、間違えて精力剤を買ってきてしまうくらいに必死。
治まらないアレを「ぼくの責任だから…気持ち悪くないよう目つぶってね…」とお口でお世話。途中見られてるのに気づくと手で目線隠し。
お風呂あがりの裸Yシャツ姿へのチラ見に「男の視線って分かるよねー、ムッツリ～」と軽口叩くも、ガン見されると恥ずかしがる。
女として生きる覚悟ができ、一條さんにお願いして私服のお買い物。その姿を見て、可愛いと言ってもらう為だけにまた主人公宅へ。
ところが既に覚悟完了な主人公から「可愛い」どころかキスまでされて、このまま初体験かと思えば、動揺して全力逃走。
でも一日経って何とか落ち着き、可愛い服着たあゆむとデート。ミュールも履いて上手く歩けないあゆむの為に腕を組んでエスコート。
「わあ、こんなに楽に歩けてうれしい…！ でも、これじゃもうひとりじゃ生きられなくなっちゃうよ…？」
とかあらすじを書いてて、ああもう！ああもう！
でもいじらしいのはあゆむ一人ではなく、密かに主人公へ恋心を抱いていた一條さんも、サブヒロインなのが勿体無い。
ちょっとした感謝や好意の言葉に無言で、しかし微妙に赤面する姿。間接キスに一人気づいて、迷った末に中身をそのまま持ち帰る姿。
そして、あゆむルートで服の買い物に付き合い、交差点でのあゆむの告白を聞き、そっと自分の想いを諦める姿。
あゆむを守る為に暴力を解禁しようとするも、一條との約束を思い出し、耐えて傷付く主人公。
偽善かと悩む彼女に「お前の正しさを信じてる」「昔の自分が生んだ因縁だからお前が気にするな」と言う主人公。
しかし「私は正しくない…私との約束の為に傷付く姿を美しいと思ったんだ」「好きだから一緒の傷にしてほしい」という意外な返答。
そのまま自然と押し倒され、「下の名前で呼んでほしい」「お前嫌がってたんじゃ」「好きな人には呼ばれたいの…！」
ああもう！ああもう！
直前に疑問な幼馴染関係を見た為か、親友同士らしい余計な説明を省いた会話が心地良く、声付きだったらと想像すると恐ろしい。
寝取られルートも丁寧だが、主人公に見捨てられ自暴自棄になった、でも変わらず主人公を想い続ける、あゆむの姿が痛々しい。
最後には一條さんまでが巻き込まれ、文字通りのBADEND。エロいけど可哀想で抜けなかった。抜いたけど。
これで声付きで、あゆむきゅんの男時代の立ち絵があれば、値段が倍以上でも私は一向に構わんッ！
まあニッチジャンルにもっと冒険しろというのは、気楽な客の我がままなので、脳内補完で済ませます。
男の娘ヒロインが定着した昨今、TSヒロインまでもう一歩踏み出すだけ。
本作がその一歩の助けになれば、このジャンルを支援する者として私もうれしいです。
しかし、スペシャルサンクスにF4U氏が入ってたのは不思議すぎる。誰か分かったら教えて下さい。