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imotaさんのオイランルージュ -花魁艶紅-の長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
オイランルージュ -花魁艶紅-
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
80
参照数
2341

一言コメント

吉原遊女が見せるは一夜の夢だが、吉原の名は末永く語り継がれる。嘘屋が見せる楼主一代の夢は、亡八になりきれぬ奇麗事かもしれねぇが、江戸の息吹を感じる見世を冷やかしたぁ勿体ないですぜ、旦那。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

なーんて言いつつ、ライアー作品はマスクド上海以来という冷やかし客が私です。
こちとらエンバレやら七橋やらLOVE&DEADやら色々と積んでるんだよ、文句あっか!ごめんなさい!(DOGEZA)

ライアーソフトといえば業界の異端児。
古今東西の事象をモチーフに、真面目に不真面目にネタにし、あの手この手のミニゲームを入れ、小粋なB級エロゲに仕立て上げる。
エロと声なんて飾りです、とばかりに趣味に走るメーカー。そんなイメージだろうか。

しかし、私はあえて言いたい。ライアーは頑張ればエロも結構出来る子なんです!と。
もちろん昨今の卑語全開ゲーに比べたら大人しいものだが、そもそも卑語を避けて「濡れ場」「凌辱」と呼ぶに相応しいものになっている。
下記の作品は、単純に抜き目的では少ないかもしれないが、少ないからこそ引き立つ味わいを求めるならば、損はしないと思います。

サフィズムの舷窓とラブ・ネゴシエイターでは、百合やギャグな世界をあざ笑うように硬質な凌辱が行われ、その落差に眩暈しつつ勃起した。
腐り姫では、全編が退廃的な交わり。特に元祖キモウト樹里との熱病の部屋は圧巻。事前情報なしで買った初心者な俺にモチを振舞いたい。
マスクド上海では、ラブネゴよりは減少したBAD凌辱。アイリーンの媚薬、監禁調教が突出しており、まさかのスカにびっくり。後略にがっかり。

こんな江戸っ子ならぬ江炉っ子な私だから、本作を起動即回想を冷やかすのは当然。
そしたら何と抜きゲー並に数があるじゃないですかやったー!
ってな感じで、期待に胸躍らせて二次元の大門を通り抜けたのでしたとさ。



太夫達との熱い夜を終えて日常へと戻ってきたのだが、結論から言うと旦那様方とのシーンは期待ほどは使えなかった。
『蝶の夢』級は求めないが、やはりノーマル寄りすぎた。同CGで三段階あるが、不慣れ⇒慣れ⇒熟練といった調教的な段階が弱かった。
あと寝取らせ的に興奮するかと思いきや、意外に冷静に見ている自分に驚いた。これは濡れ場以外との関わりがある気がする。

本作は単なるADVではなく、経営SLGが主である。SLGとは如何にキャラ設定で包んでも、本質は数字のやり取りだ。
そこでは天音も氷笹も珠琴も、モブ遊女と同じ商売の為の商品になる。これは良し悪しではなく、楼主たる嘉門の目線に近いものだと思う。
SLGパートは簡単だが、コンプは大変。様々な采配イベントを通じて、当時の風俗は素人な私にも理解できるのはありがたい。

嘉門は、見世を再興させる為に形振り構わないが、遊女を使い捨てにせず大事に育て、しかし実の妹でも楼主と遊女の一線は譲らない。
ヒロイン達も遊女として生きていく覚悟を持っており、前向きな心根故に悲壮感はなく、それに太夫と大見世に上り詰める物語が華を添える。
それらは個別ルートで綻びを見せ始めるが、嘉門とヒロイン達には変わらぬ心根が、変わった事で二人の間で繋がる情がある。

その辺りの吉原らしいドラマと、それと対照的な遊女としてのヒロイン達の丁寧な日常描写が、本作の一番の魅力だと思う。
イベントは飛び飛びで数も多い訳ではないが、旦那様との濡れ場を含めてキャラ立てが自然なので、普段の情景も読み手が想像しやすい。
おかげで禿(かむろ)をハゲと読んでしまったあっしも、今ではいっぱしの馴染み客になりましたさぁ!…なったよな、鉄つぁん?

というか番頭という役職ゆえ出番多いのは当然だが、鉄つぁんゲーだよこれ。
次いで出番が多いのが、遊女達の世話役のお増姐さんって…分かるけど、いや分かるんだけど。
ライバル見世の太夫や陰のある人物はいないけど、脇役や端役が皆いいキャラしてるから良し。特に医者バカ一代な良潤先生にはやられたねぇ。


ここまで書いて、ようやくヒロイン達の話ができそうだ。

外堀から埋めていったら時間がかかってしまったが、吉原の初会⇒裏を返す⇒馴染みになる様式みたいで粋じゃねぇか。
攻略は各人を重点的に投資し続ければルート確定で、ハッピーエンドは簡単だが逆にバッドエンドは難しいかも。
声は相変わらずのパートボイスだが、重要イベントには大体あって、声も各キャラに合っているので、がっかりする事は少ないと思う。

ヒロインは外見、性格ともに三者三様。
吉原遊女の伝統と張りを背負う氷笹太夫、逆に天真爛漫に我を貫く珠琴、真ん中に田舎娘から遊女へと成長する清楚で優しい天音。
前二人の魅力は分かりやすいが、空気化しがちなメインヒロインを「何かを持っている」娘としてきちんと描けたのは賞賛に値する。

これは眼力、雰囲気ある絵を描くめいびい氏の力も大きい。成年漫画より夕子さんの方がエロい困った人だが、ライアー塗りとの相性は良し。
ライアーの原画発掘力はすごいが、大成した絵師はそのまま巣立ってしまう中、こうして手間のかかる和風絵を描いてくれた事にも感謝。
差分は少ないが一枚絵で十分に栄えるので、文句は言わずに己の想像で補うのが江炉っ子ってもんよ。


ここからは更にヒロイン個別の、ネタバレとなる話をしよう。

天音ルートでは、嘘だらけの吉原で真心を感じさせる彼女が、御忍び中の将軍様に見初められて、身請け話を持ちかけられる。
飄々としながら底知れぬ圧力を感じさせる上様に、返事保留がやっとの嘉門。吉原一の太夫、見世の宝となった彼女の処遇に苦悩する。

身請けを聞かされ「父御どののお言葉なら…」と従う天音。着々と進む身請け話。
しかし、恋を知らずに吉原に売られた田舎娘を大切に育ててくれた高瀬屋、嘉門の存在は、彼女の中でとても大きなものになっていた。
話がまとまりそうなめでたい席で、無自覚に零れる涙とお酌。夜中に上様との床を離れて、父御どのへ扉ごしに切々と語りかける天音…。

この場面に声がなかったのは非常に残念だった。私は行殺新選組でも入り込めたけど、人によっては性急な物語に見えるかもしれない。
あまりの名器に挿入即射精しそうな上様には笑ったが、特定客との相手は寝取られ的にもやもやして、苦美味しゅう御座いました。
ハッピーエンドでは天音とくんずほぐれつな連戦、最後に情熱的に接吻しつつ蛞蝓の如くまぐわう姿は、良潤先生のと並ぶご馳走でした。


氷笹ルートでは、吉原一の太夫ですら一皮むけば只の女である事が分かる。いや俺には分からねぇよ。
吉原で生まれ育ち、外の世界を全く知らぬ彼女が、あと2年ばかりの年季明けまで抑えてきた思い。それに甲斐性なしの間夫が火をつける。
一度夢を見てしまうと、この高瀬屋ですら苦界に見える。父御どの不器用な気遣いで表面は落ち着くも、次第に追い詰められる氷笹…。

「吉原遊女の張り、誇りなんて言っても、所詮は商売女が絶望しない為の見栄、強がりさ…」と自嘲するも、それに縋るしかない生き方。
氷笹以外もバッドの方が吉原ものらしく味わい深いかもしれねぇが、それでも幸せそうに赤子に乳をやる氷笹の姿に救われるんだ俺ぁ。
あと氷笹ルートで明かされる重要な事実は、嘉門が品調べで氷笹の処女も散らしていた事。これで処女好きな旦那も安心ですな。


珠琴ルートでは、心に澱が溜まっていく氷笹と対照的に、無茶をして身体を壊していく物語。
そんな事をする理由は、珠琴が淫に耽りやすり体質なのもあるが、全ての大元は「どんな形でも兄様の側にいたい」という愚直な想い。
奔放すぎる珠琴と煮え切らない嘉門に途中イライラするも、良潤先生やお増といった脇役達の支えで、お玉の笑顔を見れました。

単純に妹萌えするには難しいところだが、品調べや最後の和姦でつい「父御どの」でなく「兄様」と呼んでしまうのはやはり良い。
あと途中のト書きのみで流されたアナル描写に地団駄踏んでたら、最後にひとつ入れてくれたのは不意打ちでうれしかった。


不意打ちといえば、全く男女の仲でない良潤先生から突然誘われて、馬乗りにされて、中出し懇願にはしてやられた。
察するに、我が身を顧みず患者第一の彼女が、中絶手術をしてしまったショックによるもの。こっちは先生が非処女でショックでさぁ!
その後、全くいつも通りに戻るのだが、忘れた頃に「また世話になるよ、ご主人」と誘惑してくる良潤先生ルートは何処でしょうか。


結構削ったつもりなのに長文になってしまったなぁ。

腹八分で食い足りなさが残るのがライアーらしいが、ネタの選択と豊富さには頭が下がります。
「身体を売る」抜きゲ的な面では物足りなかったが、魅力的な遊女、太夫と馴染みになれたんだから、俺ぁ満足さ。
久方の嘘屋は心地良く、気が向いたら原画繋がりで霞外籠逗留記にでも逗留しようかと思いつつ、二次の大門を出たのでしたとさ。

ってお夏のエロを見るまでは出れねぇよ!