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imotaさんのぼくのゆめみるみらいの長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
ぼくのゆめみるみらい
ブランド
夢見奏
得点
80
参照数
1167

一言コメント

孝さんの忘れ物。椎子さんのわすれもの。神さまがくれた時間。そして残されたもの。期待通りに大人向けの上質な絵本でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

――最期のときがいつ来るのかなんて分からない。別れや後始末もできず、想いを残して人は死んでいく。
じゃあ、予め命の期限を告げられていれば、誰もが心満ち足りて旅立てるのだろうか。

そんな語りかけで始まる物語は、予想通りに終わりへと向かいながら予想通りには終わらず、主人公同様に泣き笑いしてしまう。
悲しみを通奏低音としながらも明るく温かく描かれる日々は、どこか家庭的で彼岸的なシューベルトの長調作品を思い起こさせる。
漫画でいえば遠藤淑子の心の家路の読後感に近いだろうか。少なくても仏作って魂入れずなお涙頂戴作品ではありません。

普段エロエロな発言ばかりで説得力はないかもしれないが、感動成分はコスト的にエロゲ以外で摂取する事が多いのです。
人の多面性の実例を知りたければ、シナリオのシルエットさくらさんのHPを覗いて見るのをおすすめしますがご注意を。
多芸な彼女もシナリオではどうなのかと後発スタートになったけど、山田モブ氏の絵柄に見合った作風になってるのでご安心を。

冒頭すぐ事故に遭う椎子さん。この時点では読み手はまだ主人公の絶望に共感はし切れないだろう。
逆に合法ロリキター!などと不謹慎な変態紳士もいるかもしれない(自分を棚に上げながら
この後当たり前だった幸せを噛み締めるように、小さくなった椎子さんと街、山、お祭りへお出かけしながら暮らしていく。

その時々交わらされる会話、恋人の気恥ずかしいものとは異なる夫婦の何気ない会話が、主人公の内省と共に読み手へ染み入ってくる。
主人公は絵本作家見習いの挿絵屋なので、やや繊細で夢想的でモノローグも多いが、らしい感じで特に気にならず。

小さくなっても椎子さんには夜のオツトメは当然、非ロリな孝さんは身体を気遣って中々しない。抜ける類ではないが意味のあるセックス。
でもロリ化した椎子さんの初めてを再びもらうのは、倒錯的で興奮しました。何となくごめんなさい。

椎子の親友の医者、由利絵も良い感じに研究バカで、椎子を蘇らせたり経過報告に訪問したりと意外に重要キャラ。
さらりと語られる彼女の秘密も作品に深みを与えていると思う。堅物眼鏡っ娘ルートはー?と一瞬思ってしまった自分は川に沈んで良い。
伏線とまではいかないけれど、何気ないものが後になって大切なものになるというのは、示唆的で印象深い。

そしていよいよせまる時間。せまられる決断。悔悟する主人公に優しく語りかける椎子さん。
既に孝さんになっていた自分も正面から、背後から揺さぶられて、モニター画面が滲む不具合に悩む羽目に。
うん、これは汗だ、目から出る汗だよ。

普段エロいゲームばかりしてるから、こういうシナリオゲーに弱いだけと言われれば否定できません。虐襲3や犬神ノ妻でも泣いたし。
ただ現金にその類の単行本や映画鑑賞と値段的に比べても、満足感は劣らなかったです。
読後感も良いので、出来れば普段DLsiteを利用する抜きゲ愛好家の手にも届く事を願ってます。


おやすみなさい、またいつか。