ErogameScape -エロゲー批評空間-

imotaさんのヴィザルの日記の長文感想

ユーザー
imota
ゲーム
ヴィザルの日記
ブランド
雨傘日傘事務所
得点
100
参照数
1041

一言コメント

人ならざる我が身じゃが、セントサウス西区、無法だが活気あるこの町の者達との毎日は、とても楽しいものじゃった。ツンデレな我が主、怠惰な娼婦の娘、人の見分けのつかぬ猫人、サボってばかりの館長殿、彼の尻を叩く女装秘書、我を受け入れる町の人々。その営みは、正しくも美しくもなく、復讐者に滅ぼされる命運かもしれぬが、ビスケットの如くただ食われる訳にはいかんのじゃ!(しゃくしゃくしゃく)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

わしが長き眠りより目覚めた時、赤髪の娘がニタニタと我が中身を暴こうとするところじゃった。
「……いい? そのコト皆に言ったら」 ひぃ…!!!
おお、そうだ。ね、寝ぼけておった。わしは新たな主人の優しき愛撫によって目覚めたのじゃ!

この娘、名をヴィザルといい、応接間兼事務所兼寝室の狭い一室でひとり、人脈を活かして色々と斡旋するヤーさんみたいな
「だからヤーさんじゃないって言ってんでしょーがコルク!!」 ひぃ…!!!

ま、まったく我が主は横暴じゃのう。人ならざる我が重量を軽々と抱えるのだから怖いのぅ怖いのぅ。
その癖実は世話焼きで心配性で、でも肝心な本音は見せない、正に天然モノのツンデレ娘じゃ。

「ビスケットは缶々に多めに入れとくからね」「足りなかったらこのお金で買いなさい」「出かける時はローズ婆さんに声かけるのよ」
「鍵掛けるとなくした時困るから開けたままでいいからね」「寂しい時は私の声聞けるようにコレ渡すわ」「あとは、ええとええと…」
ヴィザル、ヴィザル。はよう出かけぬと今日中に着かぬぞ。

…ヴィザル、のぅヴィザルよ。抱き枕代わりは良いが、頭に爪跡つけたり顎かっくんしたり角回すのはやめてくれんかのぅ。
「…あによ。私がこういう事しちゃいけないってわけ?」「ふん、コルクのくせに……」
何やら怒ってるか拗ねてるようじゃが、理由を教えてほしいのう…。でもヴィザルのおかげで暗闇も怖くなくなったのじゃ。


この時点でプレイ前の印象とギャップを感じておったが、一番のびっくりはアレじゃ、入れ歯じゃ。
彼女が眠る特性ソファー前のテーブルに置いてある不可思議な物体、「おひゃおー…」とフガフガ喋る彼女がやおら

「合体!ビルドイン!!(ガキーン)」「ビルドアウト!!(スポーン)」
おお?! おおおお!!!!! (興奮で腕ぶんがぶんがぶんが)

どうやら昔娼館で働いていた時に調教の一環として抜歯、肉体改造を受けておったらしい。
らしいというのは、本人が言ったでなく、ヴィザルの日記から知り得たのじゃ。
我が身は木偶人形、預言師に作られしゴーレム、本人の日記の日付を見るだけで当時の記憶を知ることができるのじゃ。
ちなみにわしの動力源はヒトの記憶とビスケットじゃ。ビスケットは美味じゃのう!(しゃくしゃくしゃく)



ヴィザルの事務所に出入りするは胡散臭い者が多いのじゃが、人ならざる我にとって善悪は判断基準にはならぬ。

わしをヴィザルに引き合わせた亜人娼館「逢魔刻」の主サブナックは、下層街の顔役でもあり、ヒトに知恵を授ける蛇でもあった。
刑場でいつもニコニコ磔になってる街娼のメイコは、ルーズで学もないが、見知らぬ困った人にも手を差し伸べる娘じゃった。
ヒト覚え最悪な猫の獣人クリノラスは、無駄飯喰らいとして弄られキャラであったが、友情に熱くて往生際の悪い男じゃった。
逢魔刻の辣腕女装秘書フラウは、我の性別をも惑わす淫乱サドであったが、我をかわいがる愛情は本物じゃった。

わしはちゃんと人を見ておるのだからの。
いつも皆にビスケットをもらって(しゃくしゃくしゃく)餌付けされてるように(しゃくしゃくしゃく)見えるのは気のせいじゃ。
酒場兼大家で偏屈なローズ婆さんも、娼婦たちも、市場の人々も、この活気溢れる町は愛すべき場所じゃった。

こやつらとの毎日は楽しいものじゃった。

「クリノラスだって何か仕事しないと穀潰しすぎるものね」「ヴィザルよ、事実は人を傷つけると言っておろう」「穀潰しですいません…」
「む、事件か! クリノラスよ、獣機合体じゃ!」「…単なる肩車じゃねーか。重いぞくそっ」「ぐちぐち言うでない」「うぃーす。ガシャーンガシャーン」
「こんな落書きひどいよぅ」「おお、これは業物じゃな」「そうだろうとも。銭湯で洗えば大丈夫」「だがお断りじゃろな」「えーん」「大丈夫(ry
「買い物帰りかい? 荷物持つの手伝うよ」「館長殿は悪人の割に親切じゃな」「ふふ、悪人だから数少ない友人を大事にするのさ」

しかしどうにもわしの周りの男共は情けないのう。
館長殿もクリノラスも余計な一言でいつもヴィザルにモミアゲやら抜かれまくりじゃ。

「冗談だよ。ちゃんとお土産もあるから安心したまえ、ほら」 ぶっちーん!!! 「今時ペナントで喜ぶやつがいるか!」
「お、ローズ婆さん、何でこんなとこにいるんだ?」 ぶっちーん!!! 「みぎゃああああ!!!!」

まあこれは所謂お約束。意外といえばメイコじゃ。
彼女は一見アホの子で説明終了しそうなのじゃが、夜中にふと訪ねてきたメイコを送り届ける帰り道は普段とは違っておった。

人の如き肉体的差異がなく、性別について悩むわしに対して
「そーんなの、簡単だよぉー。コルク先生は男の子!」「だって女心を全然分かってないもん」
…!!!

そして彼女が連れてきた特別な場所、この町で最も古い建物の裏手壁、そこに書き記された無数の、無名の人々の生きた証。
そこに文字を刻みながら、彼女は笑顔のまま、今日入水してしまった娼婦仲間との思い出を語り続ける。
わしは上手く書けぬ彼女と代わり、やがてメイコに文字を教える事となったのじゃ。メイコよ、向上心こそが人間の証じゃ。



だが人生とは皮肉なものじゃ。彼女が文字を覚えたばかりに悲劇に遭ってしまうのだから。

逢魔刻へと売られたエルフのセイル、その義母を救いに向かうリアン、その彼を導くレヴィアル。
彼らには彼らの立場があるのだろうが、それは我が愛する町に厄災を持ち込むことに他ならぬ。
だからそれを危惧したヴィザルは、仕事の範疇でその回避に手を尽くしたのじゃ。

しかし、様々な思惑によって事態は最悪となってしまった。
「母親を取り戻す旅」というファンタジーが破綻した今、此度は町が破滅を向かえる番となった。
「死ね!!皆殺してやる!!!きゃははははははは!!!!!」

その光景は、いつか見た未来の終焉の時と同じものだった。
知人や友人は、次々と倒れ、ヴィザルとも離れ離れのまま。あまりの恐怖に視界が真っ黒となり、逃げ惑い絶叫する。

ああ!!ああーー!!!ああああああ!!!!


しかし、その暗闇をヴィザルは一言で、たった一言で晴らしてくれた。
やっぱりヴィザルはすごい。もうこわくない。例え全てを失おうとも彼の者を止めねば、教えねばならぬ!!!



そして人形劇は終劇を迎え、最後の力を振り絞り、楔を打ち込み、主へ優しき嘘を伝える。
いつ戻れるか分からぬ我が身だが、ヴィザルは毒づきつつも待っていると言ってくれた。…まったく本当にツンデレだのう。

我が日記は、とりあえずここまでじゃ。
物語をなぞる事など無駄かもしれぬが、この批評空間の壁に刻み込む事で我が記憶も込めたのじゃ。
願わくばこの壁が末永く存在し続けることを。



よし、ここからはネタバレ全開、普段の口調に戻ろうぞ!

笑いあり涙あり燃えありエロありと欲張りに詰め込んだ名作だけど、色々とツッコミどころがあるのも事実です。
他の方も言ってますが、リアルなメタネタ、キャラの行動原理に厨二設定、キャラの活躍や声の質のムラ。

私もいいおっさんなので、素直に燃えにくいシーンもあり、紅湖の皇子が未読故に立場に偏りがあったかもしれない。
ただ、それでも「愛するこの町を守る為に戦う」というベタなメッセージに、強い説得力を与えた本作は素晴らしいと断言できます。

日記で書いたような、くだらなくも温かい日常。
それが、理不尽に苦しんだ者達の復讐によって一瞬で崩壊する理不尽、絶望。
それに立ち向かう為の勇気、ヴィザルとコルクの絆。
力尽きる瞬間に蘇る、町の人々が生きた証。

あの晩、メイコが見せた壁面。ひたすら中立だったライエが、最後にほんの少しだけした手助け。
クライマックスで無音となった後、突然歌が流れてきた時、溢れる感情が抑えきれなかった。

「世界はいろいろなものでできている」
想いが繋がる感動というものは、普遍的であるが故に芯から揺さぶるものなのだ。



私は全ての人物を理解する事はできなかったけれども、少なくともコルクとヴィザルの物語としては完成していた。
想像の余地を残す物語の終わり方は、ナレット同様に、やや分かりづらくもあるけれども。

ヴィザルはコルクの下手な嘘に気づいていたが、それを咎めなかった。あるいは聞く事ができなかった。
二人は性的な関係でなく、家族のような主従関係のままだったからこそ、より深い関係へと成り得たのかもしれない。

コルクは、人外+ショタ+ジジイという無茶苦茶な属性だが、ロリババア同様に保護欲と非保護欲を刺激されるのがたまらない。
性別不明との事だが、物語を読むにやはり男性キャラだと思う。預言者の日記を見るに少女人格の可能性もなくはないが破棄!

ヴィザルの過去は、本人の口から語られる事はないが、中々に複雑である。
潜入任務とはいえヴィザルが抜歯までするのは理解できないって? エロは考えるんじゃねぇ、感じるんだ!(暴論)
ガチな抜歯フェラまでいけば超俺得だったのけれど、歯茎を指で愛撫する客もいたり、ごっくん後に口内見せもあり満足じゃ。

エロといえば、HPのキャラ紹介も読まずに始めたので、フラウが不意打ち女装でマジびっくりご褒美でした。
まあ1シーンしかないんですけどね! セイル削ってヴィザル共々増えれば良かったのにのぅ。

セイルは猫かぶりしてたのと、声が合わなくて使えなかった。露出でハァハァしてるのはエロくて良かったけれど。
メイコの1シーンは、獣機合体のインパクトが強くて笑ってダメだ! 「ママと同じくらい好きだよ」はいつか使いたい台詞。



サブキャラも含めた、この人間関係の妙味は、同じような会話を繰り返しているのに何とも心地よかった。
今でもたまにセントサウスの温かな日常を覗きにいっている人がいるのにも納得した。多分自分も同じことをするのだろう。

そして新たにプレイするコルク先生の為に、自分も美味しいビスケットを作っておくのだ。