頭脳戦がウリと思われているが劇中で魔王自身(あるいはライター自身)が「遊び」と称しているように、本当のウリは最終章の人間ドラマ。そこを履き違えると評価は凡作以上良作以下に成り得るので注意。
初めに書いておくと、やって損はない作品。
ただし、初回特典の冊子には「レビューサイトなどを観ずに頭を空っぽにしてプレイして頂きますとこの商品の味が堪能して頂けます」とある。それに従うなら今すぐこのサイトを閉じてプレイした方がいいということになる。レビューを観てからプレイするか否かはあなたの判断次第。
大々的に宣伝されていた頭脳戦は結末はともかくとして読み応えがあるものだし、場面の運び方が上手なのでテンポも非常に良い。テキストもクリックの手を止めないように地の文は極力文章数を減らし、キャラクターの掛け合いを読ませることに成功している。
音楽はなかなかのレベル。有名なクラシックの曲を何パターンにもアレンジしていて場面にあった使い方をしている。
絵は若干線が粗い気がするが有葉さんファンなら問題なしでしょう。
と、ここまで書けば何の問題もないように見える。事実、自分もプレイ後2日ばかりはこれは名作だ!と信じて疑わなかった。
が、その後冷静に考えるとやはりおかしな点というものがあったのだ。いろいろと。
宣伝文句である「命をかけた純愛ドラマ」だが、ハルルート以外には通用しない。他ヒロインとの個別ルートには命を懸ける場面は全く無いし、ハルルートでも命を懸けるには懸けるが、死にそうな状況に追い詰められる場面と京介とハルの恋愛には実は関連は無い。
また、パッケージ裏に書いてある「学園で謎の集団が人質をとって立てこもる」事件も実は無い。正確には立てこもりはあるが謎の集団は存在しない。
さらに「市内でも子供たちが次々と失踪していく」事件も軽く一文で流して終わり。
とにかく購入の判断材料であるパッケージ裏の文章がほとんどアテにならない。これだけで開発期間が延期された訳が分かる。シナリオに所々いびつな箇所があるのはそのためだろう。
例えばユキと水羽が異母姉妹というのは全く伏線が張られていなかったし、水羽ルートで3年も経過させた意図がいまいち掴めなかった。
花音ルートも、花音と郁子が和解するシーンはあまりにも唐突で一読しただけでは理解が出来なかった。その場の盛り上げ方が上手いので軽く読み飛ばしても問題ないが、話の要なのに読み飛ばせるような演出にしたことは問題。
椿姫ルートはまだ粗がなく普通のギャルゲーとしてなら評価できるが、魔王の退場の仕方の意図が掴めなかった。
攻略順はハルを最後に回す以外は誰からでも良いが、ハル以外の個別ルートにも魔王
についての伏線が張られているのでここはハル以外の全員を攻略するまではハルルートに入れないようにしたほうが良かったのではないか。
そもそも、この作品は京介とハルの物語であって他のヒロインはストーリーの展開上必要ないと言ってもいい。だけれども、美少女ゲームとしての体裁を整えるために個別ルートを用意したように見えてならない。
そういうわけで、ハルルートを最後に回すといかにもトゥルーエンドっぽいので自己演出をするとよい。
5章から最終章にかけて物語がサスペンスからヒューマンドラマに変わっていくが、物語の移り変わりには伏線がちゃんと張られているので違和感は感じない。最終章は短いながらも骨太な作りになっているし、ラストシーンは大抵の人が絶賛するものだと思う。
最終章の為だけにプレイしても損はないが、ムービーを見てサスペンスを期待した人は話が違うことを知っておかないと裏切られる。
花音の声には違和感を感じたが、ハルや魔王の声優さんの演技は素晴らしい。特に魔王はさすが日曜17時に活躍してる人なだけのことはある。
ちなみにパッケージのキャラの表情はハル以外はアテにならない。みんな実際の性格と正反対の表情をしているから。
惜しかったのは水羽。他のゲームだったら間違いなく人気キャラになれたはず。
しかし主人公が高3で20歳というのは建前だよね?ソフ倫対策の。