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ice-nineさんの虚ノ少女の長文感想

ユーザー
ice-nine
ゲーム
虚ノ少女
ブランド
Innocent Grey
得点
84
参照数
5003

一言コメント

絶滅品種に指定されるであろうミステリーオブミステリーゲーム。 静謐な佇まいのビジュアルとその雰囲気をより一層引き立たせる音楽、シンプルなテキストによって創られたその世界観はとてもシリアスかつ退廃的な魅力に溢れ、実に美しい。もはやイノグレ以外にこのような世界観を生み出すことができるメーカーはおそらくないでしょう。その点で言うならば実にユニークかつ突出しています。 殻ノ少女から長い年月が経ちましたが、それに見合う実に丁寧に作られた 完成度の高い長編大作でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず初めに。

本作は見ての通りのミステリ物に当たるわけですが、
その中でもいわゆる本格ミステリといわれるジャンルとは異なります。
よってトリックやギミックなどの謎解きを楽しむタイプではありません。
念のためではありますが、その点をまず念頭に入れておくのが良いと思います。

というわけで傑作ミステリADVとして名を馳せた殻ノ少女。
本作、虚ノ少女はその続編に当たります。

えてして続編といえば、あまり出来がよろしくないケースも多いのですが
今作に限っていえば杞憂に終わりました。
まず間違いなく、前作を楽しめたユーザーであれば、
スムーズにその新たな物語へと没入できることでしょう。

では逆に、前作をプレイしていないと楽しめないのか、
と問われた場合はどうかというと、個人の嗜好うんぬんを除外した上であれば問題なく楽しめるのではないかと思われます。

もちろん前作をプレイしたほうがより一層楽しめることは間違いありません。
しかし、事件そのものは独立しており、世界観や主人公のバックグラウンド
などが共通しているだけなので、さほどプレイには支障がないのではないかと思います。

実際、前作が発売されてから4年以上たっていることもあり、
自身もほとんど内容を忘れていましたが、さほど問題ありませんでした。
おそらくユーザーの多くがそんな感じだったのではないでしょうか。

・・・・・・とはいったもののTRUE ENDを見てしまうと
やはり前作のプレイを推奨したいところではありますが。

前置きは以上。


ミステリということでできるだけネタバレしない程度に
気になったことについて。


まずプレイした上で特筆すべきは、プレイヤーと主人公である探偵との
シンクロ率の高さでしょうか。

前作同様、今作もミステリゲームらしく人が次々と殺されていくわけですが、
そこに不可思議な現象があるわけではありません。

密室があるわけでも容疑者にアリバイがあるわけでもなく、
俗に言う不可能犯罪などはそこにいっさいありません。

そのため、プレイヤーは主人公である探偵を操作し、
現場検証や関係者達からの事情聴取を経て地道に情報を
集めるだけでその真相へ至ることができるのです。

特別優れた思考力、知識はそこに必要ありません。
このゲームに俗に言う名探偵は存在しないのです。

例えば、某推理漫画のバーロー君のような。

あくまで事件の解決へ至れる情報量がプレイヤー=探偵であるため
探偵がある事実に気づくと同時にプレイヤー側も同様にその事実に
気づくことができます。
意図してのことなのかはわかりませんが、その辺は非常にフェアです。

結果、まるでプレイヤー自身が探偵そのものとなり
事件を追っているかのようなシンクロ率の高さを
生みだすことに成功しています。

ただ弊害がないわけでもなく、ミステリの難易度としては
低めに設定されてしまっている、という点は否定できないところでしょうね。
余談になりますが、主人公の人生と比べれば
それこそお話にならないほどのイージーモードといえるかもしれません。

とはいったものの、事件を解く上でキーポイントになるだろうなと頭の隅に
おいておいた事項が、お話が進むにつれて予想通りに繋がっていく様は
プレイしていて純粋に楽しかったですし、読み進める意欲を湧かせるのには
十分でした。

そういった意味では、探偵ゲームとして十分成功している部類だと
私は思います。


続いてキャラクターについて。

推理物での大事な役どころといえば探偵と犯人ではありますが、
虚ノ少女は18禁ゲーム。
となればやはりヒロインも重要になってきます。

が、前作の冬子のような明確な存在が、今作には不在でした。
あえて言うのであれば砂月と雪子になるのでしょうが、
前者はあくまで過去の人物でしかなく雪子に至っては
主人公の妹の友達という立位置でしかありません。

この点は前作と比較すると非常に残念。
お話の中で重要なひとつの柱が消えてしまったかのような
印象を受けてしまいました。

ただ製作者側としては、物語全体のヒロインはあくまで
朽木冬子ただ一人、というスタンスなのかも知れません。

一方で、多くの登場人物が登場するにも関わらず、
各キャラの書き分けができている点は好印象でした。

個人的なお気に入りは八木沼。
カルタグラ登場時からは信じられないくらいの良キャラに
変貌を遂げていました。例えるならば某明智警視のような変貌っぷり。
実にいいツンデレ。


物語面について。

日常シーンに多少冗長に感じられる点はありましたが、
総じて完成度は高いです。

長いながらもお話自体は綺麗にまとまっており、
TRUE ENDを見るための試行錯誤に1日潰れたとしても
後悔はありませんでした。

少し不安に思っていた、前作のような某有名作品を土台にしている
というようなこともありません。
その分、どうしても面白さ的には落ちていることは否めませんが。

また次回作への伏線も適度に残されており、あれこれと考察という名の
妄想をすることができ、クリア後もある意味楽しむことができます。

その分次作完結編のハードルが上がってしまっているのは
間違いありませんが、個人的にはあまり不安はありません。

特にTRUE ENDと対をなしているパラノイアENDを
用意してきたイノグレの厭らしさを見る限り、
その期待に応えてくれることは間違いないでしょう。

この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ

とはよく言ったもので、実に的確なお言葉でした。
時坂玲人のハードモードはどうやら続いていくようです。

世界は無能に優しく有能に厳しいとはだれの言葉だったか。
・・・・・・あなたのことですよ秋五さん。まぁお幸せに。


「虚ノ少女」

前作もそうでしたが、今作もそのタイトルテーマを見事に
描ききった長編大作ミステリといえるでしょう。

願わくば次作完結編ではいくばくかの希望を見せてくれることを。
・・・・・・無理か。

最後に一言。
スキップの遅さはもはや害悪に近い。


以下超絶ネタバレですが、次作に向けて気になったことを
忘れないための私的メモ代わりに。またの名を妄想。

























黒矢尚織が冬子と玲人の子供を連れて逃走中。

葛城シンが殺されていることと、葛木シン名義で本が出版されていることから
黒矢尚織が葛城の人格を取り込んだ?
崇拝対象である冬子の子供を連れ去っていることもその証左になり得る?

白百合の会で人格に関する人体実験を行っており
六識がそれを主導、黒矢尚織もそれに従事。

白百合の会出身者である砂月、雪子ともに好ましく思う相手を殺すことでその人格を自分のものにしようとする傾向。

実験目的は、人工的な多重人格者の創造もしくは人格の転移、取り込みなど?
雪子はその成功例?

雪子に薬を処方していたのが、黒矢尚織。
ということは雪子に殺人を行うように誘導していたのは黒矢尚織か。

結局すべての事象は六識先生の手のひらの上ということ?

ラスボスは次々と別の人間に自分の人格を転移させることに成功した
SFチックな六識先生だったんだよ的展開。
・・・・・・ないな。