自我同一性の確立VS拡散。僕らはいつだって人間失格だった・・・。なんてね。
製品概要によると、コミュ能力を向上させようAVGとのこと。
私見ですが、プレイヤーのコミュ能力が向上するかはともかくとして、
AVGというよりはどちらかというと、昔の恋愛SLGに近い印象を受けました。
個別ルートに行くまでの流れを簡単に説明すると、
お目当てのキャラを選択、そのキャラの会話モードへ、そこからそのキャラが好みそうな話題を振って好感度を上げるという流れですね。
おそらく、この話題を選択して好感度をあげていくシステムが、
概要にあるコミュ能力を向上させよう、という謳い文句が表す物のひとつなのかなと思います。
で、このシステム。正直、時代に逆行しているのではないかなと思いつつも、
個人的には嫌いではありませんでした。
自分はコミュ障だと言いつつも、アグレッシブに意中の相手とコミュニケーションを取ろうとする、その主人公に激しく違和感を覚えましたが(絶対にコミュ障じゃない)
相手に合わせた話題を選択し、仲を深めるという過程を踏んでいくことは、
恋愛ゲームとして、ある種の正しさを感じられると思います。
ちなみに話題選択を何度も間違え続け、いざ告白の時を迎えると当然のごとく相手に振られゲームオーバーになります。ちなみに私は2度ほどこうなりました。
これがまた逆に、私的には新鮮でよかったです。
もちろん、最初から最後までこれが続くのであれば、さすがに面倒に感じるかもしれません。しかし、いわゆる個別ルートにはいってからは通常のAVGのようになります。
相手と仲良くなるまでの前段階としてであれば、このシステムは個人的にありだと思います。
そして、いまさらながらに気づきました。最近のAVGの選択肢って、
どのキャラのルートに進むか、というだけの選択肢でしかないってことに。
つまり、誰かしらの登場人物と仲良くなることは既に確定的であり、あとは誰との物語を読みたいかということ。いや、そもそもAVGというのはそうゆうゲームなのかな・・・。
まぁ蛇足です。
ゲームシステムについては以上です。内容について以下ちょこちょこと。
カルタグラや殻の少女を出したイノグレ系列だけのことはあり、雰囲気作りは
さすがと言えるんじゃないでしょうか。画といいBGMといい、なんというかスタイリッシュ?で洗練されてます。
BGMを最初に聞いたときには、真っ先にペルソナを思い出しました。
テキストもその作り上げた雰囲気を邪魔しないもので、個性はないかもしれませんが、
シンプルで良かったと思います。
シナリオについて。これまた実にテーマがはっきりしていますね。
これだけ一つのテーマを前面に押し出した作品というのは、昨今珍しいんじゃないでしょうか。しかし、そのスタンスは嫌いじゃないです。カルタグラしかり殻の少女しかり。
そのテーマについて簡潔にいうのならば、「彼氏彼女のモラトリアムな日々」(意訳)
という感じでしょうか。
物語は、人間失格というコミュのOFF会からはじまります。
そのコミュ名からどんなひどい人たちの集まりなんだとプレイヤーは最初に思うことでしょう。しかし、実際、進めてみるとぜんぜんそんなことはありません。
たしかにそれぞれが、ある種の問題を抱えてはいます。
けれど、人間失格かというとまったくそんなことはありません。
ぶっちゃけ、プレイヤーのほとんどが、これのどこが人間失格なんだと突っ込みをいれたことでしょう。私もそのひとりです。
しかし、プレイを進めていき、理解しました。
確かに登場人物達は客観的にみて人間失格ではないでしょう。
しかし、その登場人物達にとってみれば客観的な評価はどうでも良く、自身はどうしても人間失格でしかないのだと。
どうしても自分の駄目なところが許せない。完全じゃなければ許せない。そうでなければ人間失格だ。
そう思い込んでしまっている彼氏彼女達が、「人間合格」なんていないことに気づき、自身を自身としてありのまま認める。
それがこの作品の主題であり、そのための人間失格コミュであると。
とどのつまり、この作品は、普通の学生が普通の学生生活を淡々と歩む物語でしかなく、それに尽きると思います。
ですので、物語としての山場というものがあまり感じられず、盛り上げに欠け
ているかもしれません。この辺は、どうなんでしょうか。好き嫌いの分かれるところだと思います。
個人的には、個別ルートに入ってからの、ヒロインと主人公が自室で過ごす夏休みのシーンなどは、どこか退廃的でとても好きだったりしますが。
最後にキャラについて。
前述したテーマにより、どうしてもネガティブな面が目立ちますが、逆に私はそこが気に入りました。依存症気味な幼馴染。腐女子な先輩。情緒不安定なだけのツンデレとは一線を画す後輩。
特別描写が多いわけではなく、むしろ少ないかもしれないですが、何故かキャラがきちんと立っています。どことなくリアルに感じられるキャラ造型でとってもよかったです。
ちなみにプレイ前に私的ランキングは、先輩>後輩>幼馴染でしたが、
プレイ後は幼馴染>後輩>先輩になりました。・・・どうでもいいですね。
昨今の萌えげー至上主義的な風潮をみると、方向性にも絵柄的にも逆行している
作品のような気がしないでもありません。
ただそういった物に食傷気味であれば、プレイしてみるもの面白いかもしれません。