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iamanさんのフェアリーテイル・レクイエムの長文感想

ユーザー
iaman
ゲーム
フェアリーテイル・レクイエム
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
84
参照数
1025

一言コメント

話自体はそう複雑ではないように思えたけれど、かなり面白かったです。あまり童話に詳しくなくても楽しめるのではないでしょうか

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

raiLを別物とすればLiarのゲームははじめてプレイしたということになるのですが、プレイ前はとっつきにくそうな印象は杞憂に終わり、期待していたとおりに内容も面白かったです。
童話の登場人物をモチーフにしたキャラをメインに据えているということもあって童話の登場人物に詳しければいけないのかもと構えていたのですがゲーム内で童話の内容がそこそこ詳細にまとめられているので話の内容も飲み込みやすかったように思います。おそらく考察が必要なタイプの作品でもないと思われます。
しかし、自分は前日にアマゾンの「世界の童話全集・41作品⇒1冊」という電子書籍に目を通しておいたから(不思議の国のアリスと白鳥の湖は入っていません)すんなり入っていけたということもあるかもしれません。必要ないとは思いますが、100円しないのでどうしても心配な方はこちらがおすすめです。

ちなみに体験版の感想のほうでもおっしゃっている方は多いですが、ヒロインは全員モブとのシーンがあるのでそういったものがお嫌な方はご注意ください。
また、つみびとはだあれ?というのがキャッチコピーとなっているようですが、この正体もわりとあからさまな感じがしますし、本編ではこの部分にあまり重点がおかれていません。推理系のシナリオを期待している方も同様にご注意を。
一応グレーテルのルートでは重要な設定が明かされますが、プレイしているうちに察することができるような内容なので攻略順は自由でいいでしょう。

長々としてしまいましたが、一通り注意は済ませたので主にシナリオについて、内容の感想にうつります。

まず、この作品は設定からして奇抜ですね。作中のヒロインはフェアリーテイル・シンドロームという自分を童話の主人公だと思い込む病気にかかっていて、ヒロインたちはある程度童話の内容に即した行動をとります。そして主人公はフェアリーテイル・シンドロームと記憶喪失を併発していて、自分がどの童話の主人公なのかが理解できていません。
各ヒロインの個別ルートでは、必然的に、童話の内容に沿って話が進んでいくわけですが、これが単純に童話どおりに話が進むというわけでもなく、自分が童話の主人公だと思い込む前の、ヒロインの過去の話にも踏み込んでいきます。フェアリーテイル・シンドロームにかかってしまったヒロインたちは過去のことを覚えていないのですが、当然というべきかその過去はなかなかにインパクトのあるもので、ストーリー全体を緊迫感のあるものにしてくれます。
ただ、自分はすんなりと受け入れられましたが、ストーリーの佳境では童話的な要素が絡んできたりして、突飛に見えたりする部分があるかもしれません。
そしてこのゲームはTrueルートがあるわけですが、これが非常によかったです。今までのはっきりしていなかったところの伏線を多く回収していくルートなのでここでは内容について触れませんが、このルートのおかげで自分の中の評価はかなり上がりました。
ただ一つ言っておいたほうがいいかどうかは自信がないのですけれど言うとすれば、個人的には伏線回収の素晴らしさ、というよりもこのTrueの話自体のおもしろさ、決着の着けかたの清々しさ、という部分に魅力があるように感じました。
そして全体を通して、なんだかホラー的な雰囲気を感じるところもありますね。作中で感じる不穏な雰囲気や数多くの謎がそうさせてくれるというのもあるのでしょうけれど、なによりも演出と独特な雰囲気の絵がとても光っていたように思います。こうした絵は最近のエロゲとしてはあまりウケがよくなさそうですが、この方向で行くことに決めたのは英断といってもよいでしょう。
また、BGMも作品の雰囲気にマッチしていて非常にいいですね。各ヒロインに用意された童話のイメージに合うBGMが用意されていて、そこはかとなく不穏な気配を感じるBGMもあって、こうした独特なタイプの作品には欠かせない要素だと思います。

まとめとして、総じてクオリティの高いゲームであったと思います。新人ライターということで警戒されている人も多かったかもしれませんが、テキストは標準以上の水準を保っていて読みやすいですし、シナリオ面に関しても非常によくできています。
少なくとも最近のエロゲではあまり見かけないタイプのシナリオで、普通のエロゲではありませんが尖った内容の作品が好きな方にはぜひプレイしていただきたいと思いました。