ErogameScape -エロゲー批評空間-

iamanさんの創世奇譚アエリアルの長文感想

ユーザー
iaman
ゲーム
創世奇譚アエリアル
ブランド
あかべぇそふとすりぃ
得点
85
参照数
869

一言コメント

人は選びますが、とても面白く、勢いのある作品だったと思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

恋愛面では非常にエロゲらしからぬ展開を見せる作品で、キャラ萌えを求めるかたにはオススメできませんが、シナリオに期待するかたにはオススメしたいと思える作品でした。
りさ→涼子→未来→凪の順に攻略しました。ストーリー展開は凪を除いてどのルートも変わらないので、一番好きなヒロインを頭に持ってくるのが一番楽しめるかと思います。

さて、ストーリーの話にうつります。
この創世奇譚アエリアルのシナリオは、SPOOKという地球外生命体に侵食され、戦闘機で応戦しながらも、物資は尽き危機的状況に晒されている社会という世界観を背景にして展開していきます。
そんな中、主人公は第13世代戦闘機「アエリアル」という非常に強力な人型戦闘兵器を手に入れることになり……というのが、まず大まかな冒頭のあらすじです。

戦闘描写という意味では、従来の戦闘機を使用したジリジリとした戦いの描写と、アエリアルを使用した俺TUEEE的な描写のバランスがよく取れていたと思います。アエリアルが登場し俺TUEEE一辺倒になってしまうかと思いきやそんなことはなく、ホッとしたというのが正直なところではありますが、それを抜きにしても戦闘機による戦闘描写はよくできていました。
どんどん戦闘機が撃墜されていくこともあり、緊張感のある戦闘といった様子で仕上がっていて、そのため、先がどうなるのかハラハラしながら読むことができました。また、アエリアルの戦闘シーンにおいても、単に俺TUEEEに終始することはなかったこともよかったと思います。全体的に見ても、こうした集団対集団の大規模戦闘というのは、エロゲではなかなか読めないこともあり、一見の価値があるのではないでしょうか。
自分は軍事方面には明るくないので詳しい人が見たらどうなるかは不安ですが、戦闘機の発着や、オペレーターとのやり取りなど、声優さんの演技が光る場面でもあったと思います。

戦闘シーンだけではなく、それ以外の場面でもかなり楽しませていただきました。
が、ここがこの作品では最も賛否のある部分のようです。それが、「大人になる」という、この作品での大きなテーマです。

説明がややこしくなるのでここまで伏せてきましたが、この作品では一応W主人公の形をとってきます。軍人の兄「東郷シュウ」、学生の弟「東郷シン」、この二人が主人公として扱われています。この感想において今まで主人公として触れてきたのは、弟の東郷シンのほうになります。また、自分はあまり兄のほうに主人公らしさを感じなかったこと、表記がややこしくなってしまうこともあり、これからも感想のなかで主人公として扱うのは弟の東郷シンのみとさせていただきます。兄が好きなかたには申し訳ありませんが、ご了承下さい。

では、どうして突然こうしたことを言い出したかというと、この作品の「大人になること」というテーマが兄と弟の対比を用いて描写されるからです。
兄は主人公であると弟に「大人になる」ことを要求し、主人公も兄の要求に積極的に応えようとする。そうした二人の姿勢は作中の登場人物によって「お互いが尊敬し合うことを求めあっている」というふうに言及されますが(細部は合っているか自信がありません)、まさにそのとおりで、主人公の行動原理には常にこの意識が潜んでいます。そのため、モノローグでは「大人にならなくてはいけない」「これが大人になるということだ」というようなことを繰り返すことになりますし、兄も主人公に「大人になれ」というふうに求めてきます。
こうしたシーンが何度か挟まれるため、くどい、説教臭いという感想を抱いてしまうのが、低評価をつける方々の理由となっているのでしょう。
これはもう個人差の問題なのでなにもいうことはありませんが、面白いシナリオを求めているかたであれば、ここさえクリアできれば楽しめるのではないかなと思います。

既に述べたとおり、自分はかなり楽しむことができました。というのも、このテーマは単に成長物語という王道的なものであるという理由もありますが、それだけではありません。
この作品での成長とは、ただ自発的に成長するものではないというのが、他ではなかなか見られない見所になるのではないでしょうか。なんといってもこの作品は危機的状況を背景にしていますから、登場人物たちの成長は半ば時代に強いられたものになってしまいます。そうした中での成長というのは、平時よりも特に痛みを伴うものになります。この作品では大部分で成長することを肯定的に取り上げていますが、成長することによる痛み、喪失、苦しさ、そうしたことをしっかりと取り上げていることもこの作品の魅力ではないかなと感じました。

まとめに入ります。キャラ萌えを目当てに買いたい人にはオススメしません。シナリオは総じてクオリティが高いですが、一部くどいとも取れる部分があるので、それが苦手なかたには回避を推奨します。また、エロゲではあまり見られないようなシーンが多くあったのは、嬉しく感じました。