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hutabamiyuさんの美少女万華鏡 -罪と罰の少女-の長文感想

ユーザー
hutabamiyu
ゲーム
美少女万華鏡 -罪と罰の少女-
ブランド
ωstar
得点
90
参照数
1574

一言コメント

分岐ルートの意味を読み解くと、夕摩の恐ろしさを更に知ることになる・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

美少女万華鏡シリーズは今作が初。何やらコスパ最強などという名を轟かせていたのは知っていましたが、本当だった。エロいだけじゃなくて話も面白く、声優さんのレベルも高いしシステム面もロープライスとは思えなかったです。


さてさて、エロ方面ではもう散々他の方が書かれていると思われますので、私はストーリー方面全振りで、感想と考察の程をしていきたいと思っております。いやあ~今作とても抜きゲーとは思えないほどに『深い』話でした笑。はっきりとグロシーンが有ったりとかそういう訳でもちょっとはあるんですが、基本的には人の愛憎と言いますか歪んだ愛と言いますか、う~ん愛憎の方ですかね、今作の裏テーマは。それがなかなかにエグかった。


まず今作。基本的なストーリーとしましては、お互いに相思相愛な兄妹である夕摩きゅんと夕莉ちゃんが、その一線を超えて晴れて結ばれるまでの山あり谷ありのラブストーリー♥(グロ有り)、かと思いきや!!実は夕摩が裏で色々やっていて、全ては【計画通りっ】だったのだああああああ!!という種明かしが入ります。で、夕摩の計画通りに事は運び、最終的には結ばれましたとさ。途中で少し裏があったけど、結局は上に書いた通りに落ち着いているような形に見えます。一見は。

しかし、実は今作をもっと深く読み解くと、【とんでもない事実が発覚した事を】まずは報告しておきたい。

ここで一旦思い出して貰いたいのが、分岐ルートの存在である。これはこのシリーズのファンからも不評だったらしく、そもそも夕莉一辺倒の夕摩がなんで他の女と遊んでんだよ!人格変わってんだろ!とか言われていたらしい。
確かに、夕莉夕莉でずっと計画を遂行してきた夕摩が、知り合って間もない同級生の女の子に靡いて挙句の果てにはそっちに溺れるなどという事が有るのだろうか?まあ実際にはそうなってしまった訳だが、これには深い意味が有る事に気づいたので、それを解説していこうと思う。

まず夕摩という人物の性格を改めて文字に書き起こしていこう。夕摩はお姉ちゃんが大好きな弱々しい男の子だ。それは身体両方の面で言える。が、裏では着々と計画を遂行し、見事にお姉ちゃんを手球に取る程の能力も持っている。実はお姉ちゃんを落とす為に演技をしていた部分も有ったりするので、実際にはもうちょっとだけ強いのかもしれない。
この夕摩という人物は何を欲してそんな計画を実行していたのか?勿論お姉ちゃん(夕莉)?それもそうだ。だが、お姉ちゃんが【適役だっただけ】と言ったらどうだろう?夕摩が本当に欲していたものは『お姉ちゃんそのもの』ではなく、本質的にはその適役になれた何かだったとしたら。それが今作の怖いところなのである・・・・・・。

本作中では夕摩と夕莉の幼少時代の回想がお互いの視点で交互に入る。その一つに鳥を飼っている件の回想が有って、簡単に説明すると怪我をした鳥を保護して二人で介抱しながら育てていたが、ある日その鳥は居なくなってしまう。その鳥は実は夕摩が殺していたのですが、それを夕莉には内緒にしていた挙げ句、鳥が居なくなった後でもまるでそこに鳥が居るかのように!夕莉の前で振る舞うという異常者っぷりを見せつけてきます。幼少期の話です笑。
そう、夕摩は既にこの頃から異常者だったのです。そして、夕莉の前でそんな態度を取れる程、夕莉の事も舐めていたのです。だからこそ、あんな計画を遂行出来たのです。

話を戻してこのシーンは一体何を意味していたのか?ただ夕摩が昔っからの生粋のヤバい奴でしたよ~というだけの話なのか。いいえ、それ以上に意味が有ったんです・・・。それは簡単に言うと、夕摩と夕莉の価値観の『決定的な』違いを、このシーンで描いていたのです。
夕莉はこの怪我をした鳥をちゃんと介抱して開放してあげたいと思っていました。正常ですね。至極真っ当。しかし、夕摩きゅんは逆に怪我とか治らなくて良いからずっとこの中に居てよ!僕たちから離れないでよ!という、子供らしいと言えば聞こえは良いですが、かなり束縛的なスタンスでした。そして同時に夕莉に対しても、そんな感情を抱いていたのです。


ここまで言えばお分かりかと思いますが、そう、今作実は超束縛癖が有ってとにかく自分の思い通りになる【鳥籠に入れられる鳥】が欲しい夕摩きゅんが、その鳥を捕まえるまでの物語だったのです!!!!

ここでかなり戻って分岐ルートの話をしよう。 この分岐ルートも実は上記の欲求が絡んだ上での展開だったりする。いちかルートの場合はまさに、夕莉以上に手球に取れそうな『獲物いちか』が見つかってしまったが故のルートである。メタ的にもこのルートでのみ夕莉が死亡していて、よりそれを裏付けているように感じる。決してヒロインを消化する為の矛盾ルートではなかったのだ。
逆に鏡子ルートの場合はいきなり説明が難しくなるのだが、恐らくは夕莉以外の女の味も知ってしまったある意味一番健全なルートと言えるだろう。このルートはまだ話が続いているとも鳥探しを諦めたとも言えるので、今回は言及を控える。

いやいや、でも夕摩は夕莉の事が一番好きだろ!??やっぱりおかしいんじゃねえか?

↑確かにそうだ。だが、それ以上に夕摩は本質的には自分がコントロール出来る『鳥籠の中の鳥』が欲しかった。それが今作の深部に有る残酷な真実なのだ。これは妄想でもなんでもない(と思いたい)。
例えば、本当に夕摩が夕莉の事を100%愛していて、人としてこれからも愛を分かち合っていこうと思っているのであれば、母親殺しの真実を隠したままにするだろうか??100歩譲って叔父さん殺しや父親を殺すように誘導した事はまだ計画の内なので分かるとしても、母親に関してはもう時効だと思うし、何より夕莉を想うのであれば、その荷を解く方が正解だと思うのだ。だが、夕摩はそうしなかった・・・・。あえて荷を負わせたままにして、鳥籠の中に閉じ込めたのである。

この辺に関しては批評空間で興味深い考察を発見したのでご紹介したい。コピペはなんかしちゃ駄目な気がするので、自分の文章で書き起こしていこうと思う。

その考察を簡潔に言うと、夕摩は夕莉を心の奥底では憎んでいた。飽く迄も深層心理に影響する程度で。夕摩は幼少期に夕莉がアイドルをしていたせいで、自然と母親の相手をする事が多くなった。それは結果的に夕摩が歪んでいく始祖的な原因ともなり、それを夕莉が間接的に作っていたのである。しかし最もな理由としては、夕莉だけが輝いていたから。友達も居らず一人で虫を捕まえ解体して遊んでいた夕摩と、アイドルとしての生活を満喫していた夕莉。その溝は、幼少期より深かったのだ。

だがそれだけではない。これは飽く迄もその人の考察ではあるが、夕摩は夕莉と同じ女の子に生まれたかったという願望も有ったのだ。これは女性性への憧れという意味ではなく、夕莉と同化したいという方向性での意味合いで。
今作の主人公夕摩とヒロイン夕莉は実の兄妹であり、一卵性双生児の双子同士でもある。だからこそ、美しく清らかな夕莉と同じになりたかった。母親に汚された自分を、夕莉に近づけたかった。それが無意識的に女装という行為にも繋がっていたりする。慰めの方だけでなく、女子校に通うと決まってまんざらでもなかった方も含めて。

女装だけじゃまだ弱いと思っている方は続くので待って欲しい。そんな夕摩は結局清らかになれたのだろうか?否だ。だからこそ、逆に【夕莉を汚す事に決めた】。いつ夕莉を汚したって?父親を手をかけるように仕向けたのは夕摩だったではないか。わざわざ夕莉を後に引けないような状況に追い込み、確実に鳥籠の中に閉じ込める。
それだけであれば他にもやりようが有った筈だ。なのに、夕摩は夕莉の手が汚れるような形を選んだ。それは、そういう深層心理が有ったからなのかもしれない。

と思うと怖くない?笑。


つまり、今作は夕莉の事が好きだという感情を超えて憎しみすらも抱いていた夕摩が、『獲物として』夕莉を鳥籠に閉じ込めるまでの物語だったのだ。夕莉とは相思相愛に見えて、実はかなり夕莉の一方通行だったりもして、夕摩の方は自らが頂点に立つ事しか考えていなかった。だからこそ、途中で夕莉から乗り換えたいちかルートが有るし、シンプルに肉欲に溺れて満たされた(?)結果の鏡子ルートも有る。
もっと言えば、今作は幼少期に歪んでしまった夕摩の幼稚な野望を叶える物語だったのだ。これなら意外と最後の方は夢オチで、気づけば姉と父の死体の前で・・みたいなのでも良かったかもしれない(感覚麻痺)。とにかく、夕摩にとって夕莉は割と簡単に乗り換えられる程度の存在でしかなく(意識こそはしていないが)、本質的には夕摩の鳥籠に入れられる【おもちゃ】が欲しかっただけなのだという事が、読み解くと分かってくる。これが今作の恐ろしさなのだ。



ここで話題をガラッと変えて、もっと俯瞰的な視点でこの物語を見てみようと思う。夕摩の視点で見てみると上記のような感じになるのだが、今作をもっと俯瞰的な視点で見てみると、この惨劇と言うか系譜と言うか呪われた血筋の物語の原因は、かなり『シンプル』なのではないかと思った。

今作はオチとして、夕摩と夕莉の近親相姦の末双子の恐らく兄妹が産まれて終わる。『罰』が指しているのはこれで間違いないだろう。実は夕摩と夕莉の実の父と母も近親相姦をしており、それで夕摩達は生まれている。つまり分かっているだけでも二世代に渡って繰り返されてしまった訳なのだが、言いたいのはそんな事ではない。
一体そもそもどうしてこんな事になってしまったのか。夕摩達の世代だけではなく、叔父さん達の世代でもそうだ。一体覡家の何がそんなに呪われているのか?罰が夕摩やその子供達なら罪とは一体なんなのか?個人的にはこの引っ掛かりについて、かなりシンプルな解答に辿り着いた。

実の兄妹すらも魅了するその【美しさ】こそが、『罪』が指している事なのではないかと。

罪とは一見夕摩の作中での行為や、母世代では母の夕摩への行為や叔父さんの逃避なんかを指しているように思える。しかし、それはどれも後発的なものであり、原因があって結果の結果の方に思えるのだ。
よくよく考えてみてほしい。上の方でも考察したように、夕摩と夕莉は本質的には分かりあえていないどころか真逆の考え方を持っているような者同士である。現に夕摩が夕莉にうんざりする描写は多かった。ただでさえ身内で性格や考え方も全く違う者同士が、それでも惹かれ合う理由等、他に有るだろうか?作中を読み解くと夕莉の姿形やその美しさに見惚れるシーンこそ有れど、その中身に魅力を感じているシーンは殆ど無いのだ(夕莉の優しさや姉への眼差し的な視線くらい)。

夕摩はともかく夕莉は元アイドルで決して友達が居ない訳でもないどころか超が付くほどの人気者だった。女子校ではあるものの、彼氏を作るのに苦労等しない筈だ。母親の方も、後から体面を保つ為に結婚をしている。二人共異性との恋愛に難が有る訳でも無く、むしろ真逆で普通に常識的な生活を送っていたのである。
そんな彼ら彼女らをそれでも惑わせたもの。それは身内すらも魅了する【美しさ】だったのではないかと。親子二代に渡って続いた罰は、そもそも覡一族に流れる『血』そのものが罪であるが故の、宿命だったのではないかと。夕摩世代については夕摩達自体が罰の結晶でもある為、二重の意味で言える。となるとそのまた子供の世代は・・・・やめておこう笑。


※追記 こないだ鏡子とのシーンをバックミュージック(意味深)にしていたところ、再発見が有ったのでご報告。このシーン内では、夕摩が鏡子に「夕莉の方が綺麗でしょ?」と問いかける。そして、それに対して鏡子は「どちらも綺麗ですけど、夕摩くんの方が親近感が湧いて好きですぅ♥」と答える。

私が確認している限りでは唯一、他人から夕莉よりも上だという評価をこのルートで貰っているのだ。その後に続く夕莉以外の女の子を知ったというのもあるだろうが、鏡子ルートの一番の存在意義は、夕莉より貴方の方が良いよ、上だよ、という事を言ってもらえたという部分にあるのかもしれない。

そうなると、より夕莉に劣等感を抱いていた上記の説も補完するし、エッチシーン中背後にある鳥かごもなんだか意味深。夕摩の心にある夕莉への絶対的な劣等感と、更にその奥深くにある憎しみの気持ちが、鏡子によって和らげられたという、驚愕の事実が隠されていたのかもしれない・・・・・。



【まとめ】

夕摩視点で見ると夕摩の歪んだ欲求による歪んだ計画が遂行される話。もっと俯瞰して見ると、身内すらも魅了してしまう美しさを生み出す罪の血の系譜の話。そう考えると夕摩も被害者であり、罪から産まれた罰の結晶であり、最初から誰も止められないし誰も咎めようがなかった物語だったのかもしれない。だからこそ、夕摩が何かしら失敗して敗北するような形のエンドは存在しない。

そして夕摩は夕莉に対してその本質を見抜かれないまま全てを完遂する。しかしそれは同時に、夕摩は本当の自分を誰にも見てもらえていないとも言える訳で、決して幸せとは言えないし、夕摩自身への本当の罰として効いているのだろう。夕莉の方も最後まで夕摩に騙されっぱなしで、実はかなりのお馬鹿さん説まで私の中で浮上している。母親もそんな感じだったのでありえる・・な笑。