sinとcrimeの区別ができていない。
設定的に、ヒロインたちの義務というのは法律的罪crimeであるが、法月らがそれに対して与えている罰はあきらかに道義的罪sinに対して与えられるべき類の罰である。これによって生じる違和感がこの作品の問題だ。
一般的なシナリオ重視のエロゲでは、ヒロインの心のわだかまりや後悔を主人公が解決することが多い。これは言い換えれば、ヒロインのsinを主人公が裁いていることになる。
この作品も結局は同じことをしているのだが、ヒロインのsinを義務という形で可視化してcrimeに変換しているところが特徴である。この工夫は非常にまずかったと言わざるを得ない。本来sinはそれを犯した人の内的問題であり、解決には他者の介入を必ずしも必要としない。この手のゲームにおいては、ヒロインの内的問題にたいして、「自ら選択して」介入していく主人公という形式のシナリオが多い。この場合、主人公はヒロインを自分の意志で選んでいることになる。(一般的なルート分岐型のゲームにおけるルート分岐とは、物語内においては主人公の自由意思による選択である。)これに対して、crimeというのは社会的法的に規定されたものであり、本質的に他者の介入を必要とする。本作品の設定においては、公務員?である主人公と、その管理対象であるヒロインたちの間にはcrimeというつながりがあり、そのcrimeはsinの仮の姿であるため、主人公はその自由意思に関係なく他人のsinの解決に乗り出すこととなる。
ところで、私は本作品をあくまで恋愛シミュレーションゲームとみなして評価している。恋愛シミュレーションゲームにおけるもっとも大事な個所は、主人公とヒロインの心が近づいていく過程の描写である。一般的にこの描写には主人公がヒロインの心の問題sinに踏み込もうとするという流れが使われることが多い。ところが、本作品では主人公がヒロインのsinに踏み込むのは設定上必然であり、踏み込むまでの描写がほぼない。言い換えれば、本作品には恋愛シミュレーションとして一番大事な部分が抜けてしまっているのである。
本作品はルート分岐がほぼないに等しい。この構造も、主人公がヒロイン全員のsinに設定上必ず踏み込むということから必然的にこうなるのだろう。つまり、本作品は一般的なルート分岐型のエロゲの個別ルートを縦に並べたような構造になっているのである。しかし、これでは主人公がヒロインを誰かひとり選んで付き合うときに、その選択に理由がなくなってしまう。(ルート分岐型ならば、個別ルート前半においてヒロインのsinを主人公が解決したことにより、主人公がそのヒロインに対して、その他のヒロインに対してよりも親しみを感じることから、そのあとに該当ヒロインと付き合うことには違和感がない。しかし、本作品では、主人公はヒロイン全員のsinを解決するため、ヒロイン間の「格差」がなくなってしまう。)これは恋愛シミュレーションとしては致命的な欠点である。