妃ゲー
妃ルートで作品が完結していたら90点台だった。
三つの不満点があるため減点。
1.途中で主人公が(明示されることなく)変わるのはいかがなものか。
作品の途中で主人公が変わるのはよくある展開であり、本作の核となる叙述トリックのつもりであろうが、本作では真主人公から紙の上の主人公への視点変更であるため、伏線などもほとんどなく、叙述トリックとしては邪道である。
大体、真主人公と紙の上の主人公が主観視点あるいはクオリアを持っているのならば、真主人公と紙上主人公はともに別の存在であり、かなたや夜子が紙上主人公に思いを寄せるのは一種の浮気であるw
一般に、この手のゲームは、主人公(=主観視点を持つ人物)のクオリアを通してエロゲ世界を見るのであるから、主人公がクオリアを持った一個人であることは暗黙の了解ではなかろうか?しかし本作では、紙の上の存在というものの定義が曖昧なために、混乱が生じている。紙の上の存在がオリジナルの生まれ変わりではないことは明示されているので、オリジナルと異なったクオリアを持った存在であると考えるしかない。
つきつめると、真主人公の物語は妃と結ばれて自殺するところで終了していると読めてしまう。
2.夜子のツンがツンではない。
ツンというのは、その裏に好意が隠れていてはじめてツンなのである。しかし、本作を読み返してみると、夜子が主人公に明確な好意を示しているという描写は、終盤に少しあるのみである。だが、この好意の対象は紙上主人公に対するものであり、真主人公に対するものではない。真主人公に対しては、夜子は常に暴言を吐くだけであった。要するに、夜子は非常に不快なだけのキャラなのである。
3.夜子は成長していない。
この作品は夜子の成長物語だというレビューが多いが、夜子って成長してるか?
夜子が成長?を見せるのはかなたルート終盤であるが、そこでも結局は紙上妃に説教をされてしぶしぶ間違いを改めるだけで、自分から能動的に動くことはない、常に受動的な夜子はエンディングまで変わらない。これを成長と言えるのか?たしかに最後は紙上主人公に向かって素直に好意を示すことができるようになったが、紙上主人公はつくりだされた偽物であって、夜子が本当に好意を示すべきだった相手(真主人公)には一切示せていない。真主人公に対する好意を紙上主人公に代わりに示すというのは、ただの代替行為である。夜子は結局何も成長していないのだ。
不満点は書いてきたが、やはり妃関連の話が素晴らしいので高得点をつけざるを得ない。正直なところ、ライターとしてはかなたルートを評価してほしいのだろうが、作者と読者の思惑が一致しないことなど珍しいことではない。
夜子というキャラは、妃の魅力を強調するためのかませとしての存在価値がある。
意志が弱く受動的な夜子に対して、意思を曲げず能動的な妃。自分の血統によって得た能力や運命に頼る夜子に対して、運命に抗う妃。真主人公を妃に、紙上主人公をかなたに奪われてもなお成長しない夜子に対して、かなたから真主人公を奪う妃。
これで妃スキーにならないほうがおかしい。