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hujiさんのSWAN SONGの長文感想

ユーザー
huji
ゲーム
SWAN SONG
ブランド
Le.Chocolat
得点
93
参照数
907

一言コメント

絶望しか見出せない状況の中でも必死に人間らしく生きようとする姿を美しいと思えるなら

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

素晴らしい作品。
プレイしてみてまず文章力に驚かされました。まるで小説を読んでいるよう。他のゲームとはテキストの質が違う。
各キャラのカットイン、背景、BGMも良い味を出していてむしろ小説より作品にのめり込みやすいのではないかと。

群像劇となっているおかげもあり各キャラの内面の描写が非常に緻密。一人一人の考えがきちんとプレイヤーに伝わるってのは良いことです。ストーリーの理解にも幅が出ますし。

物語の展開の起伏に期待は×
特別感動するような物語でもないです。


ここから下は適当なネタばれ感想。





Normalエンドは本当に美しかった。殺しあいの中、あそこまで己を曝け出した司、壊れきってしまったクワガタ、何もかもに希望がもてず自己に絶望している柚香。
ここまで人間の汚い部分が剥き出しになっているのに美しいと感じたのは何故でしょうね。本当に良かったんです。


物語中意外だったのは柚香の思想でしょうか。彼女は比較的正常な心の持ち主と思いきや…一番壊れていたのは彼女だったんですね。
訂正…壊れているというよりは自分で壊れていると思っている、といった方が適切かも。
司に近づいていった理由も言ってしまえばピアノを失ってしまった自分と同じように壊してしまいたかったから。そうなったら全てを諦めている自分と同類になってくれるのではないかと。
でも司はそうはならなかった。どんな状況に陥っても、片手を失っても決して諦めなかった。司の(運命や絶望に?)負けたくないって意思はあまりに綺麗すぎてプレイしてる側としても心を揺さぶられました。
本人は子供の頃の出来事があり司に執着しているだけで好きではなかったと言う場面がありますが…本当は司の高潔な意思に惹かれていたんだと思います。
そしてNormalの最後に司が死ぬシーンで泣いていたのはやはり好きだからだと思うのですが…。


結果としてはNormalで二人は分かりあえませんでした。これは実際プレイしてみると来るものがあります。やっぱり無理なんだなと思い知らされて。
Trueでも二人の意見は最後まで食い違いでした。司は相変わらず人の心の機微が読み取れないし。
しかし別の可能性を感じさせる描写はありました。
それが柚香が犬を助けるシーン。このとき柚香は自分自身が何故助けたのか分かっていない。そして犬が亡くなっていると気づいて涙を流したことも何故なのか自分で理解できていない。
自分は犬なんか好きじゃないし全てがどうだっていいと考えているからこんなことに悲しみを覚えないはずなのにと。
ここから読み取ってみると結局彼女は口だけでそんなことを言ってたのではないかと推測できます。
自分の本心に気づいていないだけで心の奥底では何かを望んでいたのではないでしょうか。
彼女は自身が嫌悪するほど酷い人間でもないのです。そんな酷い人間なら自分が酷いことに悩んだりもしないはず。いくら絶望していたってそれを外に出さずにきちんと生活をして生きているんだから。ちょっとネガティブなだけなんです。
だからきっと彼女自身が希望に気づきさえすれば変わっていけるのです。
それは彼女だけでなく他の人、特にクワガタにも言えることだと。

最後の向日葵も救いの描写として非常に印象深かったです。


唯一の不満はあろえの動かし方でしょうか。彼女に視点を合わせることは不可能としても、もう少しスポットを当ててほしかったですね。


一番好きなシーンはNormalendの司と柚香の会話。司が何を言っても柚香は理解しようとしないのだが、それを含めて素晴らしい場面だと思える。あまりに美しすぎて。

「醜くても、愚かでも、誰だって人間は素晴らしいです。幸福じゃなくっても、間違いだらけだとしても、人の一生は素晴らしいです」

柚香には綺麗事だと一蹴されてしまったけど、この台詞は本当に好きだ。