何がすごいって、あれだけバトルばかり繰り返される展開の上に大ボリュームだというのに、プレイ中ぜんぜん中だるみを感じなかったことが、とにかくすごいと思いました。最高級のエンターテイメントですね。
言わずと知れた伝奇アクションノベルの名作。
今さらプレイしてみましたが、これは売れるのも当然だわ、と感心しました。
物語としてよくできているし、全体の尺が非常に長いのに粗が少なく、緻密なシナリオは見事。
そしてなにより、圧倒的に面白い。それに尽きます。
それも、非常に感覚的で分かりやすい、エンターテイメントとしての面白さですから、
暗い雰囲気で血生臭さも漂う作品にもかかわらず、万人向けに仕上がっています。
魔法、魔術といった要素に関して(月姫や空の境界である程度できていたにしても)
深くマニアックな設定を構築してあり、世界観は非常に奥深いものになっていますね。
聖杯戦争と、それに勝ち残るためにサーヴァントを召喚して戦うマスター、
という中心になる事柄自体はわかりやすいものの、サーヴァントにまつわる制約や能力、
武器の設定などは非常に細かく設定され、ゲーム中に開くことができるステータス画面を
見ているだけで楽しい。
背景事情などはさらに複雑怪奇なことになっていて、ゲームが進んで事実が明らかになってくるたび
新鮮な驚きを味わうことができ、しかもそれが展開に有効に生かされるから、くどさも感じません。
設定は複雑なわりに、さほど読み進むのは苦にならないんですよね。
適度に日常シーンを挟み込むことで展開に余裕を持たせてあるのもあって、
ごちゃごちゃした設定を、時間をかけて無理なく段階的に理解させてくれるようになってる。
(主に凛による)設定解説シーンは多いのですが、その説明も一気に詰め込んだりはしておらず
いろいろなエピソードの合間に適度に挟んでくれているから、うっとうしく感じたりすることはあまりなく、
この辺のバランス感覚が実に上手いですね。
まあ、設定そのものが面白いから、長い解説も苦にならずに聞けるっていうのも大きいですけど。
それに、設定が複雑でマニアックな一方で、テーマは普遍的なものを主軸に置くことで、
ストーリーそのものは非常に分かりやすく平易に読ませてくれるので、
流れについていくのは容易であり、その辺のバランス感覚は実にいい。
正義の味方を貫こうとする主人公、直面する現実、そしてヒロインとの絆が深まっていく様、
流れ自体は実に王道ですね。
最初は力のない主人公だけに何もできない感じなのですが、なんとか事態を打開しようと
もがいていく姿、日常を大切にしながら生き抜こうとする姿は、ともすれば軽率に見えたり
ヒロインの心配をないがしろにしているようにも見えるので、どうかと思うこともありましたが、
ヒロインの助けになりたいと願いながらもがく姿は泥臭いかっこよさがあると、今にして思います。
この主人公だからこそ、いい意味で成長物語として描くことができているし、
ラストも盛り上がるようになっているのでしょうしね。
次にキャラクターについて…
奥深い設定は無数の伏線を生み出し、キャラクター個々にも深い背景があることもあって
物語、登場人物ともに、実に味わい深い。
キャラクターは、「マスター」と「サーヴァント」という二種類の立場の人物がいるため、
普通のエロゲに比べて単純に登場人物が多くなっていますが、しっかりと個性付けがなされていて
どのキャラも魅力があります。ことに主に戦いを担当するサーヴァントは、
過去の英霊という設定のため、神話、歴史が好きな人ならニヤニヤできること請け合いだし、
神話などのエピソードなども考慮して性格は設定されているように思えるし、
戦闘時の活躍ぶりも実に個性的で、全員語りつくせないほど魅力がありますね。
最初はただのやられ役かと思った脇役のサーヴァントなんかも、話が進むと実にキャラが深く描かれて
敵なのに感情移入しちゃって困ったりしましたしw
ただ一方、ヒロインに関しては、ライターさんは性格付けの引き出しが
少ないのかなと感じてしまいました。
なんだか、月姫の登場人物の構成要素を切り貼りした上で、さじ加減を変えただけで
どのヒロインも作ってあるように思えてしまう。
どんなライターさんにもそういう部分はあるだろうとは思いますが、
ちょっと月姫をやったあとだとキャラに既視感を覚えてしまうことが多かったですね。
でもシナリオ上における活躍ぶりはサーヴァントたちにも劣らず、あるいはそれ以上なので
魅力的に描かれているのは確かです。
バトルについても最大限の賛辞を送りたいところです。
まず感じたのは、これほどの名作でも、主人公が強大な敵に追い詰められて、
起死回生の手で逆転する、というバトル物のテンプレ展開にのっとって話が進んでいたので、
バトル物の盛り上がる展開って決まってるんだなー、と妙な感慨を抱いたりしました。
要はどれだけ上手く描写するかなんですよね。
その点このゲームはエロゲとしては最高レベルでしょう。
主人公やヒロインの前に現れる数々の敵、その能力は実に多彩で個性的。
バトルの結末にいたるまでの流れはある程度決まっていても、バトルそのものの描写や
ピンチに追い込まれる過程は、マンネリにならないように練られています。
これが描写が下手なバトル物だと、いくら敵の設定が凝っていても、主人公がピンチに陥っても
ワンパターンで平坦で退屈に感じられてしまうことが多いのですが…
この作品はバトルの回数が数え切れないくらいだというのに、ちっとも飽きずに読めるのが凄いです。
各ルートのクライマックスにおけるバトルは特に圧巻。
それまでシナリオ上で積み重ねられてきた因縁、伏線が一気に収束しながら、
主人公、そしてヒロインの最大の敵とのバトルが展開されるわけで、盛り上がらないわけがない。
最後の最後に最高の爽快感と充実感を味わえるように作ってあります。
加えて、豊富なグラフィックと、それをうまく動かす演出による盛り上げ効果も良いと思います。
原画の武内崇さんの絵は、決して上手いとは言えず、
高品質な塗りで誤魔化している部分も多いと思いますが、作品の勢いを表現するには非常にマッチした絵柄。
主に夜のバトルを盛り上げるための、「暗さ」を演出するのも上手かったと思いました。
夜道に登場する敵たちは、その迫力と正体不明さが相まって、実に恐怖感を煽られる。
このへんは、さすが月姫を作ったブランドというところでしょうか。
そんなわけで、各要素がハイレベルで、非常に隙が少ない作品であり、
完成度の高さは今までやったエロゲの中でもトップクラスだな、と感じた次第です。
ただ、欠点は無いわけではなく、いくつか言いたいこともありました。
まず、イリヤスフィールというキャラについてです。
序盤から敵として登場しながら、決して単純な敵という立場だけでは終わらないロリキャラで
背景設定も深いため物語上でも非常に重要なポジションにいるのですが、
にもかかわらず、ぼかされた部分が多いままゲームが終わってしまう…
このキャラに関しては、魅力的なヒロインでもあるのだし、専用ルートを設定すべきだったのでは。
何やら時間的な事情などもあったようですが、それにしても残念なことです。
ちょっとPS2移植に際しての修正が甘いのも気になったかな。
ここエロシーンあったんだろうなあ、っていうのがPC版やってなくても何となく分かってしまう。
修正がちょっと不自然で描写に無理矢理感があったのは残念。テキストの改変は不十分と言えるかも。
あとはゲーム構成でしょうか。
攻略できるキャラは3人いるものの、攻略順は完全に固定されているのがネックといえばネック。
自由度的な意味で。
聖杯戦争の裏側を描いた桜ルートが最後なのは仕方ないにしても、
セイバーと凛はどっちでも先にできるように構成しても
よかったんじゃないかなあ、と思ったり。
それと最終ルートである桜ルートは、ちょっと陰鬱な展開が長く続きすぎて
暗い気分になってしまいますから、個人的には少し読み進めるのが辛かったかな。
いい話ではあると思うんだけどね。
最後の最後にオープンになるエピソード[Realta nua]に関しては、賛否両論ありそう。
セイバーエンドに納得の行かない人には良い追加シナリオだと思いますが、
あのラストを美しく思い、切ない余韻の心地よさに満足した身としては、多少蛇足感も覚えました。
とはいえ、Realta nuaのラストも、あれはあれで非常に美しいとも思うので複雑ですが。
それにしても、セイバーエンドに限らず、この作品のエンディングはどれも素晴らしいですね。
各ルートともトゥルーエンドはとても情景が美しい。切なくも充実感を覚えるような余韻が残る。
ゲームが長いせいか感想も長くなってしまいましたが…
こんだけダラダラ書いたけど、言いたいことはシンプルだったりします。
要するに、
かっこいい! 面白い!
以上!
中二病って今でこそ馬鹿にされる要素だけど、正面から向きあって描ききれば
こんなにも面白い。そんな当たり前のことを再確認させてくれた作品でした。