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houtengagekiさんの遥かに仰ぎ、麗しのの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
遥かに仰ぎ、麗しの
ブランド
PULLTOP
得点
94
参照数
701

一言コメント

暖かな感動を与えてくれる素晴らしい作品。主人公が人間的に非常に魅力的で、ヒロインの魅力を最大限に引き出してくれていました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 これはとても素晴らしい作品ですね。
ヒロインはみんな可愛いし、設定もよく練りこまれているから
お嬢様学校としての雰囲気に深みがあって、とてもいい。
主人公も魅力的なキャラに仕上がっているし、日常が退屈しないですね。
お嬢様モノが好きな人には特にオススメできます。

 そして、とにかくシナリオが素晴らしいです。
ことに本校ルートは名台詞の山で、カタルシスに溢れています。
たった一言でプレイヤーの涙腺を緩めてくれるような、
深い台詞がいくつもあって、暖かい気持ちで泣かせてくれる。
特に梓乃ルートのラスト付近は素晴らしかった。
主人公との交流を通して成長した梓乃の言葉には母性を感じられるほどで、
主人公の抱える過去と、梓乃の優しさと成長の充実感との合わせ技で、心が暖かくなるような感動がありました。
 みやびルートなども、主人公があの手この手でみやびを助けていく様子は気持ちいいぐらい見事なので、
みやびが主人公に惹かれていく心理描写が実に自然に感じられるし、
どんどん素直になって可愛くなっていく様子は、萌えと感動が一度に味わえて実に素晴らしい。
こんな奴がいたらそりゃ惚れるわ、と見てて思えるような、本当に気持ちいいシナリオです。
シナリオのいいところを細かく挙げていくときりがないので、このへんにしておきますが、
本校ルートはどのヒロインのシナリオも、主人公の言葉や行動に触れていくにつれて
ヒロインの魅力がどんどん引き出されていくから、読後感が最高にいいですね。

 感動できるシーン多いけど、それも深い心理描写が
積み重なっているからこそっていう感じがします。
ヒロイン側の視点にたびたび移ったりしますが、
それでヒロインの心理が深く、丁寧に描写されているのが良かったです。
ヒロインの成長していく過程がしっかりと描かれていて、
すごく充実感を覚えることができました。
主人公が教師でヒロインが生徒というポジションの物語の醍醐味が存分に味わえて、素晴らしい。

 それにしても、暖かい幸せを感じることができる作品だなと思います。
良いシーンで感動して泣いたりできるんだけど、それがもう、
「良かったなー」って心から思えるような、幸せな感動なんですよ。
この本校ルートのシナリオは、そこがすごく良いですね。
おかげで読後は気持ちのいい余韻が残り、とても心地良かったです。
3人のヒロイン全員、素晴らしいシナリオでした。


 分校ルートの方は、どちらかというとヒロインたちのお嬢様としての背景や
お嬢様学校という舞台装置を活かす方向に重きが置かれていたような気がします。
こちらはこちらで、上流階級の世界を扱ったストーリー独特の「重さ」があって面白かった。
本校に比べるとボリュームがあり、コンプリートには相当の時間がかかるのですが、
それだけ長いわりに、いろいろと複雑な設定や伏線は完璧に消化されていて
まとまりはすごくいいですし、プレイしていて納得の行かない部分が少ないです。

 ただ、分校と本校は同じ作品内のルートだからどうしても比べてしまうのですが、
本校がキャラごとのテーマを軸にすっきりまとまっているのに比べると、
分校のシナリオはちょっと冗長な感じがしました。
話自体はかなり面白いですし、ラストは感動できる出来に仕上がっているだけに、
途中が少し退屈に感じてしまったのは残念。もう少しコンパクトにまとめてほしかった。
エロシーンでのCGの使い回しも多いから、余計間延びした感じを味わわされる。


 そんな感じで、どちらのルートも一定の面白さがありますね。
ただ、欠点と感じた部分もありまして…
個人的には、主人公の性格が本校ルートと分校ルートで違いすぎるのが気になりました。
これなら主人公をそれぞれのルートにひとりずつ設定したほうが良かった。
いくらなんでも、あれだけ性格が違うのに同一人物というのは無理がある。
全体の構成を鑑みても、別人をそれぞれ配置できる内容だったと思うし。

 本校では包容力のある、学生とは違い人生経験を積んだ大人としての
深い人間性があって、本当に頼もしい男でありまして、
こんな風な教師に教われたら本当に楽しい学生生活だろうなーと感じます。
ちょっと心理面で超然としすぎているのかもしれませんが、
フィクションならではの気持ちよさというものが、この主人公にはありますね。
 対して分校ルートの方は、まっすぐに突っ走ってしまう軽率さを持ち合わせた
直情型のいい奴、という感じで、あんまし大人っぽくはないけど
こっちはこっちで感情移入のしやすさがあり、好感は持てます。
 どちらも捨てがたい魅力があるだけに、別人として設定してくれれば、
性格の違いを違和感ではなく個性として感じられたでしょうから、もったいないと思いました。

 本校、分校に大きく分かれた二つのルートは、舞台の雰囲気もヒロインの個性も
おおむね違和感なく仕上げてありながら、
それでいて全く別の作品をプレイしたように思えるほど読後感が異なるのですが、
これも、主人公の性格さえ違和感がなければ、二人のライターの個性の違いが本校、分校それぞれの
雰囲気の違いとしてうまく表現されている、と長所として言ってよかったと思うので惜しいです。


 まあ、このようにもったいないと感じた部分もあったのですが、
全体としては本当に満足のいった作品でした。
ことに本校ルートは、感動や泣きを求めている方には最適と言えるほどのクオリティ。
特に光るのは、感動できる場面が非常に多いという点ですね。
一箇所で爆発的に泣かせてくれる作品は他にも多いですが、この作品はそれが何箇所もある。
各ルート中盤~終盤にかけては何度も涙腺を決壊させられて大変でしたw

 ちなみに、泣けるのはもちろんシナリオの力が大きいわけですが、
音楽の方も、あの「ゆりかご」っていうBGMはずるいw
シナリオの要所要所で、あのバイオリンの優しい旋律が流れてくると
それだけで涙腺が反応してしまうから本当に参った。
音楽もビジュアルも、シナリオやキャラクターを引き立てる効果があって、質が高かったですね。


 あとは贅沢を言えば、このゲーム、サブキャラが魅力的すぎるので攻略させて欲しかったです。
重要な役どころを占めていたり(三嶋とか)
可愛い性格していたり(結城とか)するキャラが結構いるので…
なのに、すごく専用ルートがありそうな三嶋さんは攻略できないし、
双子や結城などにいたっては魅力的な個性をしている女性キャラなのに立ち絵すらないw
結城はビジュアルファンブックでラフ絵が載ってたらしいですが、
本編に使われてないのが非常に残念ですよ、ええ 。
もう発売して随分経つし、ファンディスク等は望み薄っぽいのが、非常にもどかしいですね。