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houtengagekiさんのてんたま2winsの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
てんたま2wins
ブランド
KID
得点
88
参照数
339

一言コメント

前作同様、暖かな読後感が味わえる、優れた癒し系恋愛ADV。ルートによっては前作以上と感じられるほどの、優れた読後感を味わえたりもする名作ですが、決定的にボリューム不足なのが惜しまれます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオに触れる前に、まずシステムについてですが、
この作品は主人公を育成するゲームパートが難ですかね。
このパートは操作レスポンスは結構良く、バランスもわりとよく出来ているのですが、
この作品に育成要素の存在意義があるかというと、微妙と言わざるを得ません。
もう少しシナリオに絡ませてくれればよかったんですが、
(突出したパラメータがあると特別なイベントが起こりまくるとか)
せいぜい、パラメータの高低によってシナリオが分岐するという程度の役にしか立っていないのが残念です。
シナリオが短いため、プレイ時間を稼ぐために入れたんじゃないだろうか、とか邪推してしまいます。

ただ、シナリオはとてもいいです。
攻略可能なキャラは3人+αと、前作より減少していますが
今回はメイン格のヒロイン二人には裏ルートが用意されていて、同じキャラでも
違った展開のシナリオが楽しめるのは、かなり面白いなと思いました。
一人一人の掘り下げということに関しては、前作以上ではないかと思います。

ことに五十嵐真雪というヒロインのシナリオは、とても『てんたま』らしい優しさと穏やかさに満ちていて
二人の距離が少しずつ縮まっていく過程が絶妙で、とても甘酸っぱく感じられる。
そんなごく普通の恋愛が丁寧に描かれていますね。
彼女はことあるごとに主人公にアプローチしてくるので、それが可愛く、そのたびにニヤニヤできるのが良い。
真雪自身の明るく優しい性格も好感が持てますし、結ばれた時にはとても幸せな気分になれます。
ライターの高瀬伸さんは、メモリーズオフのかおるルートも担当されてますが
その当時からずっと、普通の恋愛を書かせたら、なかなかの腕前だなと感じます。

あとは、前作ファンに対するファンサービスが光りますね。
前作のヒロイン等のキャラが何人も登場し、特に裏シナリオではかなり本筋に関わってくるので、
前作が好きだったならニヤリとさせられること必至。
しかも攻略できる前作キャラまでいますしね。オマケ程度のシナリオですけど。
まあ、それだけに本作は、前作をプレイしておいた方がいい作品、っていうことにもなっていまして、
欠点にもなり得る部分なんですけどね。

今回は主人公と同居する天使が、前作と違い、いたずらっぽい性格なので、少々ドタバタな空気も味わえますね。
これはこれで魅力的な天使なので、今回も天使キャラを攻略させて欲しかったなぁ…
そのあたり、攻略できない魅力的なヒロインがいるのは、この作品をやってて不満に思った部分です。

総合的に見ると、本作は前作と比べ、シナリオによっては前作以上のクオリティを感じたりもしますが
それだけに、5ルートもあるくせに10時間もあればコンプリートできてしまうというボリュームの少なさが、
とにかく惜しまれる作品だな、と感じます。


余談ですが、本作の裏ルートのラストは、どう考えても次回作を製作することを意識した作りになっていますね。
しかも、てんたまシリーズのファンならば、どうしても先が気になってしまうような引きを残して終わっている…
張られた伏線が回収される日がくることはあるのでしょうか。
新生KIDが続きを製作し、てんたま世界に決着をつけてくれることを期待したいものです。