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houtengagekiさんのMy Merry Maybeの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
My Merry Maybe
ブランド
KID
得点
86
参照数
507

一言コメント

田舎を舞台にした近未来SF。『My Merry May』の完全な続編であり、単体でプレイすることは全くオススメできません。しかし続編としての出来は非常に良く、前作の存在を丸ごと利用したトリック、アンドロイド物であることを活かしたCGの使い方による演出の妙、そして声優の名演など、様々な要素の質の高さがシナリオを最大限に盛り上げてくれる名作です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 My Merry Mayの続編。
単体でプレイするのは絶対にやめた方がいいです。
何しろ、前作をプレイしていることが前提のトリックが仕掛けられていますので、
いきなりこれをやると、そのトリックの醍醐味が味わえず、面白さの5割以上が失われることになるでしょう。
まあ、My Merry Mayと続けてプレイすることで合わせ技一本、みたいな感じです。
純然たる続編であることが最大の長所であり欠点でもある、アンドロイドとの恋愛モノの傑作。

 そして個人的に、生まれて初めて、声優さんの演技に度肝を抜かれた作品でもありました。
声優さんというのは本当に凄いですね。
後半のとあるシーンでの松岡由貴さんの演技は圧倒的な表現力で、感嘆の溜息が出ました。
あそこまでキャラクターの状態を完璧に演じきった巧みな演技は他に聴いたことがないです。


 内容の方も本当によくできていて、読み応えも後味も抜群に良いです。
謎を残し、やや後味悪く締めくくられた前作と比べ、このMaybeは完結編というべき内容になっていて、
どのルートも実に後味良く、スッキリした気分になれるようにまとまっています。

 今回は主人公の性格も、普通に好感の持てる青年という感じに表現されているし
(前作が高校生だったのと比べ、教育実習生ということで年齢が上であるせいも大きいでしょうけど)
今作で初登場するヒロイン達にしても、前作のヒロイン達ほど性格に癖はないので素直に萌えられます。

 展開については、自然豊かな田舎の漁村を舞台に、主人公の教育実習生としての日常が描かれつつ、
人造生命体である『レプリス』との触れ合い、恋愛が、前作と比較しても
より踏み込んで描かれていますね。
レゥはもちろん、今回はリースも本格的に攻略可能になっていますが、この二人のルートは本当に面白かった。
特にリースエンドは前作にも見られたのと同様の、CGの使い方の巧みな演出が光っており、
A・B(要はグッドとバッド)のエンディングを対比的な内容にすることで、アンドロイド物ならではのストーリーを
描くことができていて、実に優れたシナリオになっています。
二つのエンディングを通して、「心」について深く考えさせられる物語に仕上がっていますね。
このリースエンドの2つのエンドの魅せ方は、是非とも多くのユーザーに体感して欲しいと思えるような
素晴らしい演出です。おかげで後味が強烈極まりない。
(ちなみに3つめのCエンドもありますが、これは途中バッド的な物でした)


 リースだけでなく、前作同様、全般的にバッドエンドも味わい深いために見る価値がありますが、
内容がかなりキツいことが多いので、グッドエンドを見る前にバッドエンドを先に見ることを
強くオススメします。


 最終ルートも読み応えといい盛り上がりといい最高。
最終ルートで初登場するキャラクターも魅力的ですし、前作My Merry Mayから続くこのシリーズにおいて
残された謎や伏線がほぼ全て回収されるので、前作のような消化不良感はありません。
このシリーズの世界観に思い入れがあるならば、最終ルートは感情移入して楽しめること請け合いです。
前作からの思い入れ、感情移入が全部感慨となってプレイヤーに充実感をもたらしてくれるから、本当に満足度が高かった。
そういう意味でも前作を先にやっておくべき作品だと言えるでしょうね。
 そして何と言ってもこのルート、上でも触れましたが、松岡由貴さんの演技が本当に素晴らしいんですよ。
個人的に、声優という職業そのものに対するイメージが良い方向に激変するぐらいの衝撃を受けました。
シナリオ、演出、声優の演技など、様々な要素が一体となって盛り上げてくれる圧巻のシナリオです。

 それにしても、このシリーズはやはりレプリスが可愛いです。
前作同様レゥは明るくていい子だし、リースがちゃんと攻略できることも嬉しいし、
最終ルートのヒロインの可愛さは筆舌に尽くしがたいくらいだし。
レプリス達がキャラクターとして魅力的だからこそ、アンドロイドを扱った作品として「心」についての物語が
深く描かれる段になって、すごく感情移入して読んでいくことができるんですよね。

 そして、この作品は、そういったキャラクター描写の質の高さもさることながら、
前作を丸ごと利用していることといい、リースルートに見られるようなバッドエンドの
表現の上手さといい、構成の妙のようなものを味わわせてくれる作品でもありました。
常にプレイヤーの想像の上を行くシナリオ、とでも言うべきでしょうか…
シナリオの上手さにたたみかけられる形で、どんどん展開に引きこまれていき、
強く感情移入させられていく感じです。


 まあでも欠点もあり、ルートによってはイマイチ面白くないものもあったり、ムラはありました。
あと、前作をやってからプレイしないと良さが充分に味わえないというのは、
やはり作品として最大の難になってしまいます。
問題はその前作が鬱ゲーであり、キャラの性格も癖が大きく、かなり人を選ぶ作品であるということ。
なので、これ以上プレイヤーを選別するゲームもそうそうないでしょうね。

 それにしても、本作はこれ以後も続編を出す気があったようなのですが(後日談を描いた小説版もあったし)
結局、その後の動きがまったくないのが残念ですね。魅力的な世界観なだけに。