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houtengagekiさんのMemories Off Completeの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
Memories Off Complete
ブランド
KID
得点
84
参照数
389

一言コメント

KIDの出したギャルゲーの中でも初期のものであるだけに、荒削りですが、クリエイターの若いエネルギーを感じる。萌え&切ない恋愛を、ささきむつみ氏の魅力的なキャラクターデザインで楽しむことができる良作。とにかくキャラと設定の魅力が大きいせいか、物語とその舞台の空気そのものが独特な存在感を持っているのが特徴。この後、続編が延々と出続けたのは、その辺が大きいのではないでしょうか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 テキストや日常のクオリティは、続編の2ndや以後のKID良作群と比べると
かなり低いかもしれないのですが…
でもキャラクターがとても生き生きしていて、感情がストレートに伝わってくるのが良いです。
 大切な人の死という喪失の悲しみを抱えた少年が、それを乗り越え、糧としながら新しい恋をしていく
というのが基本線なのですが、その流れを守りつつも、各キャラクターのルートは、
ライターそれぞれの持ち味が荒削りながらも存分に表現されていて、
キャラクター性の強い、魅力的な恋愛作品に仕上がっています。

 キャラクターはそれぞれ個性的で魅力がある。
幼なじみの唯笑は明るくて無邪気で、ちょっと子供っぽい印象があるのですが
しっかり年相応の少女らしさも持ち合わせているので深みのあるキャラになってる。
一緒に登校するシーンが多いので、日常では一番接するシーンの多いキャラですが、
この唯笑が接していて楽しいキャラであるため、日常がある程度面白く感じられるのは良かった。
 専用ルートも、同じ悲しみ共有した人間同士の切ない恋が描かれていて感動できる。
オチがイマイチな気もするが。

 他のキャラも、詩音とかおるは転入生と普通の恋愛ができる話として、後味よくまとまってる。
みなもルートは特別に重い話で、作品のテーマを考えるとオチに違和感もあるが、泣かせてくれる話ではある。
 話が短すぎてやっつけ感のある小夜美以外は、各ルートともそれぞれに違った良さがあり、
キャラクターの個性を楽しみつつ恋愛ができる、優秀な萌えゲーと言えるでしょう。

 主人公がお調子者で、普段から馬鹿ばかりやってるようなキャラ付けをされているのですが
過去が重くて、たまに陰のあるところを見せるのがいい。
単純な萌えゲーとは違ったちょっと切なげな空気を作り出せていて、味のある雰囲気になってます。

 それに関連しますが、このゲームの特徴の一つとして、バッドエンドが良いです。
各ヒロインの攻略に失敗すると見ることができるのですが、
彩花エンドと呼んでもさしつかえない内容になっていて、主人公との絆の深さと、刻まれた想いの深さが
よく表現できていて、切ない気分になりますが、これはこれでいい話だな、と
バッドエンドであるにも関わらず、いい後味を感じてしまうのが印象的でした。

 裏ヒロインとも言うべき彩花との過去が、このゲームに切ない空気を植えつけていると思いますが、
このヒロインの設定はナイスだったと思います。彼女との回想を、ストーリーが進むのに連動して
段階的に挟んでくるつくりも上手かったし、主人公の抱える悲しみに感情移入しやすい。
設定勝ちと言っても過言ではないでしょう。


私見ですが、萌えゲーであると同時に感動のシナリオで勝負してくるというあたり、
Key作品にも通じるものがあるのではないかな、と感じてみたり。

 このDC版は、Conpleteと付いていますが、まあ基本的にはPSで発売された初代メモリーズオフに
オマケ的なものを追加しただけの物です。
ネオジオポケットのMemories Off Pureの一部を遊べたり(全部ではないところがポイント)
 簡単なつくりのクイズゲームがおまけとして収録されているのはいいですね。
クリアすればCGゲットという定番のご褒美もちゃんとあって、やってて楽しかったし。
 でもまあ、もし今から買うならこれではなく、
最近の機種で再販されてるバージョンの方がいいでしょうね。


 個人的に、ノベル系恋愛アドベンチャーというジャンルの作品では
かなり初期にプレイしたゲームで、この世界にハマるきっかけになった作品なだけに
やや贔屓が入っているかもしれませんが…
テーマを描ききってやろうという気概がとてもゲーム上に表現されていたなと今にして思います。
粗を含めて、プレイヤーを惹きつける魅力を持っている作品でしょう。