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houtengagekiさんの書淫、或いは失われた夢の物語。の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
書淫、或いは失われた夢の物語。
ブランド
Force
得点
95
参照数
2291

一言コメント

緻密な構成と斬新なアイデア、そして他に類を見ないシナリオ上の演出が、プレイヤーに新鮮な驚きと独特な感情移入をもたらしてくれる。稀有な独自性を持った意欲的なアドベンチャーゲームですね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2000年に作られた作品でありながら、厳密な意味でこれの類似品が見当たらないことを考えると
アイデア、構成の見事さは絶賛してやっていいんじゃないかと思います。

シナリオは非常に緻密に練りこまれたもの。
陵辱劇が中心となり、暗い雰囲気の『書淫、』と
純愛が描かれる『失われた夢の物語。』の2つのストーリー、そのどちらかを選択して
ゲームを開始するわけですが、この2つのシナリオが密接に絡み合い、
相互に影響を与え合っているゲーム構成が本当によくできてる。
2つのシナリオはヒロインと舞台こそ同じであるものの、設定や状況が大きく異なるので、
個々のシナリオの序盤の段階では互いのシナリオと関わりがあるようには見えないのですが、
ゲームを進めて全体像を把握していくと、確かにリンクしていることが分かってくる。
片方のシナリオばかりプレイしていると、絶対にクリアできないという連動性が
攻略の難度を高めていると同時に奥深さも生んでいると思います。

ただ攻略中はゲームの全容はなかなか見えてきませんし、先が読めない。
何か大きな秘密が隠されているということは、プレイしていて雰囲気からビンビン伝わってくるのですが
物語の重要なファクターがプレイヤーに明かされていく度合いが、本当に少しずつであるため
簡単には答えに辿り着かせてはくれず、もどかしい気持ちにさせてくれますね。
でもそれだけに、世界のヒントらしきものが提示され、少しずつ何かが見えていく過程はかなり楽しいです。

で、結末をひとつ、またひとつと迎えていくうちに、終盤にさしかかるにつれて
ようやく、どんな話なのかが見えてきますが…


この作品の『全容』を知ったとき、大きな衝撃を受けました。
このゲームの特に良いところは構造の緻密さだと思うのですが、
その部分がプレイヤーに与えてくれる新鮮な驚きは筆舌に尽くしがたい。
そのくらいこのゲームの構成、トリックは斬新でした。
ゲーム…いや、PCゲーム、そしてエロゲであるということを生かしきったアイデアには脱帽です。

そして全てが終わった時、この作品世界とキャラ達に対して深い思い入れを抱くことができました。
正直キャラの魅力などは、途中まではイマイチかなと思っていましたが、
終盤までプレイすると、その印象はひっくり返りました。
何気ない会話の裏で、ヒロインそれぞれの内面が、深く描写されていたことが分かるからです。
最後に明かされる真相を含め、そうしたキャラの内面を知ると、『書淫、』『失われた夢の物語。』
双方とも、非常に味わい深いものに思えてくる。

そして、真相を知ってから再びゲームを初めからプレイすると、一字一句見逃せないほどに
すべてが伏線だったことが分かり、その細部にわたるまでの緻密な構成には舌を巻かずにはいられません。
正直、2週目プレイこそがこのゲームの本番ではないかと個人的に思います。
キャラクターが本当は何を考えているのかがわかっているし、感情移入も深まっている。
そのため1週目と全然違う感覚でストーリーを楽しむことができる。
それに考察的にも、初回プレイでいまいち判然としなかった部分も、プレイヤーが持っている情報量、
判断材料が2回目なら非常に多くなっているため、より深く考察できるようになっているから、より興味深く読める。

なんというか2週目は謎解きと構えるのではなく、作品世界全体を慈しむような気分でプレイできる感じです。


さて、シナリオと切っても切り離せないシステムである、特定の箇所で求められるキーボードでの文字入力。
これを使った演出は、非常に印象的でした。
謎解きに使うのは普通でも思い付くと思いますが、それだけではなく、
プレイヤーの作品への没入度を高めるための使い方をしているのが素晴らしい。
並の発想ではないと思います。
おかげで感情移入度が大幅に高まりました。

このゲームが試みていることは、ノベルタイプのアドベンチャーゲームの進化の可能性を感じます。
それだけに、メーカーも潰れてライターもPCでの新作を作っていないというのが非常に惜しまれる。
もっと煮詰めれば、ゲームならではの感動を提供できる仕様に発展させられそうなんだけど。
この斬新なシステムはゲーム中、有効に機能してはいるものの、使う機会が非常に少ない。
もう少し活用する機会がたくさんあったほうが、より面白いゲームになったと思うので、もったいない。
正直、プレイしていて、まだまだこのゲームが試みていることは進化の途上段階だと感じました。
なので、できるなら、このライターさんには次の機会が与えられることを願いたいです。

まとめますと、
作品世界に対してプレイヤーが能動的であることを求めた作品、とでも言いますか…
文字入力もそうですが、難度の高いシナリオを試行錯誤して何度も挑戦して進めていく
その繰り返し自体もストーリーの一部であり、演出である。
これはちょっと尋常な発想では考え付かないシナリオだと思います。
おかげで、「物語そのもの」に感情移入できるというか…
そんなゲームを作り上げた、ライターさんの、
新しいものを作り出そうという意欲は、本当に素晴らしいと思います。


しかし、ここまで絶賛してきましたが、欠点もそれなりに目に付く作品ではあります。
まず、各シナリオは読み物として単純に見て、面白い話とは言いがたいということ(特に『書淫、』シナリオ)。
構成の見事さがエンターテイメント性にイマイチつながっていないのが残念。
そこが、似たトリックを使っている他の名作たちと比べて
知名度的にメジャーになりきれなかった原因の一つでもあると思います。
たぶん一番大きな欠点でしょう。

とはいえ、やや寂寥感のある、味わい深い読後感は最高なのですが…
面白くなるまでが遅い、って言ったら分かりやすいかも。

あと、攻略ルート開放のためのフラグが死ぬほど分かりにくいために徒労感を覚える…
もう少しプレイヤーに、こうすれば先に進められる、という雰囲気をちらつかせて
遊ぶためのモチベーションを持続させる餌を与えて欲しかったですね。
攻略首っ引き状態でプレイすると、ゲームの持つ醍醐味を失いかねない作品なのですが
そのわりに、攻略を見ないことには挫折しても仕方がないような難度なのはいかがなものか。



まあ、これは考察系の作品の最たるものだと思います。
頭を使って作品を読み解かせ、プレイヤーなりに解釈させるような、
そんなタイプのゲームが好きならば文句無くオススメ。
ただ、シナリオ以外の要素…絵、音楽等はことごとく低水準であるため
萌えやエロはほぼ壊滅的であることは明言しておきます。
そして、オススメとは言いましたが、安くても2万、3万という中古価格が一番のネックですね。
そのうち、どうにかして再販やDL販売等が実現されてほしいものです。
このゲームは一人でも多くの人にプレイしてみて欲しいと思うので…