家族をテーマにした物語として、質の高いメッセージ性があり、キャラクター描写の深みも素晴らしく、読み手に暖かな感動を与えてくれる作品に仕上がっています。家族ネタに弱い方ならば感涙必至の名作。
それぞれ事情を抱えた男女が身を寄せ合って擬似家族を形成する話。
家族愛に恵まれず、愛情に飢えているキャラが多いのが特徴的ですね。
この作品は、これでもかというくらいに世知辛さを描写してくるので、
キャラクターそれぞれの抱える事情の描写には痛々しさがあります。
そのせいもあって、家族としての暖かさが描かれるシーンでは、心に染み入るものがありますね。
丁寧に掘り下げられていくヒロインの事情に感情移入することができていれば、
最終的には暖かみのある感動を味わうことができます。
まず共通ルートは、共同生活が送られていく日常が丁寧に描かれていて、
他人同士が家族として集まっている集団だけあっていびつな感じはするのですが、
だんだんとお互いへの理解を深めていったり、あるいは深刻ないざこざが起こったり、
日々いろいろなことが起こりながらも、疑似家族である高屋敷家の日常が過ぎていきます。
家族らしくしようとしているキャラと、そうでないキャラとの温度差もあり、
人間関係を見ていくのが楽しいですね。
この日常を通じて、ヒロインの魅力も少しずつ引き出されていき、思い入れを深めていくことができます。
共通ルートとしては分量がかなり長いのですが、それだけにキャラクターの描写は細かくて、
その魅力的な内面を深く楽しんでいけます。
特に、毎日、夜の屋上で主人公とヒロインと語り合うシーンは
感傷的かつほんのりと暖かみがあって、実に良いシーンだと思います。
日常の一こまの中に、そんな印象的なシーンがたくさんありました。
そんな生活の中で、不穏な気配が漂いながらも、主人公がヒロインの誰かと
深く関わっていくことで個別ルートに突入していくわけですが、
どのヒロインにしても、例外はいるものの、行くあてがないから擬似家族の中に
身を寄せているだけのことはあって、その抱える事情には重みがあるわけですね。
普通の家庭で、親の愛情を受けながら幸せに育っていけるということは、すごく幸福なことなのだと思い知らされます。
どのヒロインのルートも、それぞれ形は違いながらも「家族」をテーマにした物語であることは
共通していて、深みのある物語が展開していきます。
何というか、家族という大抵の人にとって身近なテーマで、
ヒロインそれぞれに深く関わり、その過去に触れていく過程が丁寧に描かれているから、
すごく感情移入しやすいです。
性格に癖のあるヒロインもいるものの、みんな根はとてもいい子たちなのに、
生き方が不器用だったり、とにかく抱えている過去が重かったり、強いトラウマがあったり、
どこか報われない人生を送っているから、
個別を進めていくと、このヒロインには幸せになってもらいたい、という思いがどんどん強くなってきます。
年少ヒロインの一人である春花のいじらしくささやかな想いや、
毒舌系ツンデレの青葉が、大切だった家族へ抱いていた愛情など、
各ヒロインの事情が掘り下げられ、抱えるものが現れてくると、ヒロイン個々の魅力も大幅に増して見えてきますし、
そういったシーンはどれも非常に印象的でした。
そして、心の欠損やトラウマ、過去へのわだかまりといった、ヒロインがそれぞれ抱えている何かを、
主人公がきっかけを与える形で、欠損を埋めていったり、新しい絆を掴んでいったりするわけですが…
山場のシーンやラストで味わえる感動は、どのヒロインの物語も、とても暖かな後味のあるものになっています。
各ヒロインの事情や過去の掘り下げ、それを通して語られるテーマの描き方が実に丁寧で
感情移入がとてもしやすいものに仕上がっているからこそ、読後感の充実度は非常に高い。
主人公の司というキャラクターも、ヒロイン同様に見ていて面白いキャラでした。
高屋敷家の長男という役どころも実に似合っているし、本人も単純でない過去を抱えているから人物として味もある。
だからこそ、各ヒロインとのエピソードを通じて描かれていくこの作品のテーマを引き出していくのに
ピッタリの人物になっていますね。
なんだかんだで人も良いですし、各ルートでヒロインを助けようとするその姿は本当にいい奴だなと思えて、
とても好感が持てる人物でしたし、彼が主人公でなかったらこの物語は成り立たないだろうと思いますね。
内容の重さを考えると、読後感が爽やかでスッキリしていて、そこが凄いです。
家族愛に恵まれなかった男女が、尊いものを得て心を満たしていく、とても感動的な物語に仕上がっています。
ルートによっては泣きゲーとしての破壊力も高く、暖かい感動で涙を流したい方にはかなりオススメ。
ひとつだけ、他に比べるとイマイチ面白くないルートもあって、そこが欠点ですけどね。
個人的に、特に印象に残ったのは春花ルートと準ルート。
春花は、その天真爛漫な性格と、生い立ちを始めとした事情とのギャップがすさまじく、
とても重く切ないシナリオになっていましたし…
準ルートに関しては、とにかく尊いものを得た彼女の姿が印象的でたまらなかった。
この2ルートはとにかく感動しましたし、とても価値のあるものが心に残ったような感じがしました。
他にも、青葉や茉利のルートなどもそれぞれ非常に優れた物語でしたし、
どのルートも、プレイして随分経つのに、今でもハッキリと感動が心に残っています。
ヒロインごとに、それぞれが背負っている家族にまつわるテーマははっきりと違っているからでしょうね。
それだけ多彩な、家族にまつわる物語が、この作品には詰まっており、
家族という題材から、ここまで様々なメッセージを作品に込めることができた
シナリオライターさんの力量の高さは、並外れているなと感じます。
本当に素晴らしい。
主人公とヒロインの絆を目の当たりにして、その姿から、家族としての「普通」というものが
いかに幸せなものであるかということを再確認させてくれる作品でしたし、
家族というコミュニティから本来得られるべきものがどれだけ大きく、大事なものであるか、
そんな身近ゆえにあまり普段意識しないようなことについて考えさせられるような、
本当に深いテーマが込められた名作でした。