ここまで完璧な平行世界物はそうそうないと思います。とにかく緻密。複雑に張り巡らされた伏線を完璧に回収して、読み手がスッキリした読後感を味わえる出来に仕上げていて、この構成力は並大抵のものじゃないです。そして、ゲームシステムそのものが作品のテーマと直結しているというアドベンチャーゲームとしての革新性の高さこそが、この作品の真の価値でしょうか。素晴らしい作品です。
時間や歴史に関する解釈はとても斬新で、他の平行世界モノに比べると
特に時間の概念が一線を画していて興味深いです。
時と歴史の可逆性、不可逆性を軸にしたその概念は、実に説得力のあるもので、
時間モノの作品の多くに感じられる矛盾点や疑問点の答えがここにある、
とすら感じられるほどの、優れた解釈だと思いました。
しかも、その解釈がゲームシステムと直結している作りになっているので、
ゲームを楽しみながら、作品が持つ平行世界の概念を少しずつ感じながら理解していくことができて、
この辺はゲームデザインと脚本が同じ人である、というのがとても生きていますね。
分岐システムであるA.D.M.S.の完成度やゲーム性も、すごく高いと感じます。
宝玉と呼ばれるアイテムをいつでも設置できて、
いつでも開くことができる(例外あり)分岐マップで、宝玉を設置したシーンに好きに飛ぶことができる
というシステムは、アイテムの入手と使用による謎解きとの相性が抜群です。
個々のルートの攻略が完全には独立しておらず、全体を巡って解いていかなければならないあたり
平行世界を題材にしたゲームであることを確かに感じさせられますし、
上手いゲームデザインだなとうならされます。
それに、画面を調べたり、アイテムを使ったり、
特定の場所に移動することによってルートが変わってくわけだけど
本当にちょっとした行動で全然別のルートに入ったりするし、分岐を探すのがすごく楽しい。
アドベンチャーゲームとして本当に面白いと思える完成度。
シナリオの構成も完璧だと思う。
設定は壮大だし、非常に大きく風呂敷を広げているのに、全体が非常に緻密で
謎、伏線が最終的にすべて納得の行く形に繋がっているんですよね。
アイテム、伏線、キャラクターの意外な相関関係、複雑怪奇に入り乱れた時間軸など、
これらをゲームシステムと絡めながら、最終的にひとつの大きな輪として繋がっているよう
感じられるように、完璧にまとめあげている構成力の高さに脱帽。
しかし、個人的に、それより何より凄いと思うのは…
扱っている題材が非常に難しくて専門的で、展開も相当複雑なのに
プレイヤーは最後までプレイすれば、理論の深い部分はともかくとして、
物語の全体像だけはしっかりと理解&把握できるようにできてるっていう点。
ちゃんと噛み砕いて、しかもシナリオに乗せて本当にスッと理解させてくれる。
奥深さを追求しつつ、ユーザーにしっかり理解しやすい内容に仕上げる、
これを両立させてあるのは、本当に素晴らしいことだと思います。
あとはラストのすさまじさも印象的ですねー
ゲームを通して、プレイヤーの視野は広がっていき、
分岐した世界の全体像を見渡すことができるようになっているわけで、
エンディングのCGを見ながらそれを思ったとき、
なんともいえない感覚が体を突き抜けるのを感じましたよ…
主人公たちの目に映っているのは、
すごく膨大で可能性を感じる眺めなんだろうなーって感じた。
その光景はCGではとても表現できない内容ですから、エンディングを迎えたプレイヤーが
脳内でイメージを補強するしかないわけで、プレイヤーは個々に違った物を見ているのだろうと思います。
この作品のラストシーンが示した光景は、スッキリした読後感と同時に想像力を喚起させられるような
非常に独特なもので、エロゲ全体を見渡しても、唯一無二と言っていいほどのものではないかと感じました。
とにかく「緻密」という言葉が、ここまでふさわしいゲームは他に知りません。
これが1996年の作品であるということにも驚きを隠せない。
ただ、近年のビジュアルノベルタイプの恋愛アドベンチャー作品とは、
単純に比較対照にはならないかもしれませんね。
同じアドベンチャーと呼ばれる物でありながら、ゲーム性的に別物なので。
あえてマイナスポイントを挙げるとすれば、そのゲーム性ですかね。
自由移動&画面クリック方式の、昔ながらのアドベンチャーシステムである
という点が長所でも短所でもある。
シナリオを純粋に楽しみたい場合は、このシステムで解かねばならない謎のおかげで
ちょくちょく詰まるから、もどかしさを感じるわけです。
でも謎解きもこのゲームの大きな魅力なので、好み次第と言うしかないでしょう。
これがないとアイテムを活用した展開が生きてこないから仕方ないし
謎解き自体がストーリーになっている面もあるし、自由度の大きさも魅力なわけで、
このゲームの場合はこのシステムの方がいいのは間違いないと自分は思いますが。
あとWindows版は、現在の倫理規定では表現できない部分について、伏字で対応しているため
特に後半のストーリーにおいて不自然な伏字を頻繁に見せられてしまうため
感情移入を妨げられてしまう可能性があるのが残念です。
他には、欲をいえば後半のストーリーもA.D.M.Sだったら良かったんですがそれは贅沢言い過ぎか。
まあとにかく、このゲームは平行世界物が好きな方に文句無しにオススメですね。
それは間違いないです。
何しろ発売から14年が経過した現在でも、このサイトでの評価が全ゲーム中トップクラスであるということが
このゲームの出来がどれだけ出色なのかを物語っているでしょう。