悲劇的な運命の中でのキャラの生き様には見ごたえがあったし、少なくとも、結末が気になって一気にプレイし終えてしまうくらいには面白さはあったのですが……なんかいろいろと雑で、スッキリしないゲームでした。せめて泣けるシーンの一つでもあれば良かったのに。
次々と化け物に変わっていってしまうクラスメイトを
殺して解放してやらなければならないという運命を背負わされた少年を主人公にした
重苦しく陰鬱な雰囲気の学園物です。
はっきりと、シナリオやテーマを重視した作品と言えるでしょう。
ただ、面白い作品だったかというと、なんとも微妙な感じです。
とりあえず、良かった部分から感想を書いていこうと思います。
こういう設定なのでバトルシーンが多いですが、
バトルと言っても悲壮感を演出する意味合いが強くて、熱さとはほとんど無縁です。
戦う相手であるクラスメイトたちは、体が怪物化して勝手に主人公に襲いかかるものの、
自意識は残っていて、主人公が勝つようにアドバイスを送ってきますし。
一般的なバトル物とはだいぶ毛色が違う感じがします。
日常のシーンは悪くなく、近い将来に死が待っているキャラクター達の葛藤とか、
大切な人を失ってしまった悲しみだとかは、なかなか質の高いテキストでよく描かれてます。
そして、こういう悲劇的な状況下ならではという形でヒロインの魅力も表現されていき、
精神的な強さや弱さ、包容力といったものが際立って見えてくるのがいいですね。
大切な人を手にかけて嘆き悲しむ主人公にとって、四人のヒロインたちは
それぞれの形で救いになったり支えになったり、かけがえのない相手になっていきますが
その過程の描写は見てて引き込まれるものがありました。
主人公、ヒロインともに心理描写が濃いですしね。
この設定ならではの、悲劇の中で結ばれていくような恋愛が楽しめます。
それに、主人公が一方的に支えられてるんじゃなくて、相互に救いになっているのがいいですね。
だからヒロインの強さと弱さの両方が出ていて人間的な魅力が感じられるようになっているし。
もちろん、こうしたものは山場で活かされることになり、
親友などを手にかけてしまった主人公の嘆きなどにも説得力が出るし、
見ごたえがありました。
バトル決着後には大抵、クラスメイトを殺さなければならない悲壮なシーンがありますが
そうしたシーンの悲劇っぷりに、ほどよく感情移入できます。
重苦しく陰鬱ながら、そこから希望を見出していくような話が好きなら、
この作品は一定の面白さは得られるんじゃないでしょうか。
あとは、サブキャラの存在感が強いのも特徴で、
男女六人ほどのサブキャラがクラスメイトとして立ち絵まで与えられていますが、
彼らが主人公とヒロインのストーリーにもしっかり絡んでくるおかげで
ひとつのクラスを舞台にした話だという感じがよく出てます。
特に桑田と豊島の二人は人間的な弱さが生々しく出ていて良かったと思う。
サブカップルが多く描かれていたりもして、これは最近のエロゲーでは珍しい気がしますね。
(ただし攻略できるヒロインは、他のルートでサブ男キャラとくっつくような展開はなかったです)
欲を言えばサブカップル達のエロシーンも見てみたかったけど。
この作品はクリア後におまけのエロシーンがいくつか見られるようになっているんですが、
それに盛り込んで欲しかった。
ストーリー的にも、1周が終わるごとに謎が明らかになっていくような展開になっており、
少しずつ希望のゴールに近づいていくような予感を抱かせてくれるので、ハラハラしながら楽しめます。
この話はこの先どうなってしまうのだろうか、という感じに結末への興味を引かれるようになっており、
いやが上にも、全ヒロインを攻略した後の最終的な展開がどうなるのか気になって、
どんどんプレイを進めてしまいたくなります。
●キャラクターについて
攻略対象のヒロインは、幼なじみ、委員長、担任の先生、転校生と
全員属性が明確に違っている上に、それぞれ主人公にとってどう救いになっていくのかも差別化ができていて、
個性が感じられて良かったと思います。
それぞれに違った役割がある感じ。
みんな主人公に好意を持っているキャラばかりで、基本的に主人公に敵意を持っているヒロインはいません。
なので安心して恋愛模様を見ていけます。
いつ終わってしまうか分からない、残り少ない人生をどう過ごしていくか、というテーマ的には
委員長の生き様は強さが感じられて、見ていて感動できました。
この作品の中で、一番心に響いてくるものがあった気がする。
委員長だけでなく幼なじみの朝顔や転校生の晴香もそうなんですが、
人のことを思って怒ってみせたり、強い言葉を吐き出したりするシーンで
はっとさせられることが結構ありまして、このゲームではそういうシーンが感動できて印象に残りました。
いい子ばかりだな、と思わされましたし、だからこそ最後に救いが待っていてほしいと思えてくる。
萌え的には栞先生がエロ可愛くて良かったです。
豊満な体、ウェーブのかかった金髪ロング、黒ストッキング越しの下着、
などと大人の魅力満載な上に、包容力があり清純で天使のような優しい先生。
それでいて日常ではポンコツ気味で子供っぽい可愛らしさを備えてもいる、
とまあ、色々と完璧な感じでした。
ただ服を着て立っているだけでもエロいキャラでして、
普段純愛系のゲームでは抜く気が起こらない自分でも、この先生のエロシーンは興奮しました。
特にパイズリのシーンは良かったですね。
ただ、個別ルートは婚約者とかが出てくる、少しありきたりなものだったのが惜しいけど。
このルートは主人公も、先生と婚約者によりを戻させようという心理描写がしつこくて少しイライラした。
このヒロインの可愛さでシナリオも良ければ完璧だったのに惜しい。
●欠点について
これまでこの作品の魅力的な部分を挙げてきましたが、残念ながら、
この作品には惜しい点も相当あります。
というか、完成度が高いとはおせじにも言えないです。
まず、設定といい展開といい、かなり強引さが見られます。
いちいち突っ込んでいたらきりがないくらい、状況設定には無理が見られますし、
SF的な設定であるにもかかわらず、世界観の掘り下げや事件の裏側の描写は最後までおざなりですし、
特にラストはかなり無理やりなまとめ方をしているので、本当にこれで終わりなのか? と戸惑ってしまう。
1周終わるごとに真相への興味を引いてくる構成のシナリオであるにもかかわらず最後にスッキリさせてくれないのは困る。
そして、さんざん理不尽な悲劇を描いてプレイヤーに重苦しい気分を抱かせておきながら、
最後に充分なカタルシスを味わわせてくれないので、もやもやした気持ちでゲームを終えることになったのが、
この作品で一番残念なことでした。
それと、ストーリー展開は途中まではかなりワンパターンに感じます。
キャラの内面描写が濃いから読むに耐えるものの、基本的に、
主人公が絶望する→他のキャラとの交流で立ち直る→その友人を殺すはめになる→主人公が絶望する
というパターンでストーリーが続くので、1周目はともかく二人目を攻略する頃になると先が読めて新鮮味は薄れる。
バトルのテキストも上手いとは言いがたい上に、バトルのノリ自体も誰が相手の時でもだいたい同じ。
相手がアドバイスしてくれる→勝つ→悲劇 という。
それを何度も読まされることになるので、飽きがきてしまうし、
同じような嘆きを見せられるから、くどさも感じてしまいます。もう少し何とかならなかったものか……
あとは、健速氏のシナリオにしては印象に残るシーンが少なめだったのも惜しまれます。
ヒロインの行動や言動などで、ハッとさせられるようなシーンはいくつかありましたけど、
過去の健速氏の作品で見られたような、いつまでも心に残りそうなレベルの名シーンや名ゼリフなどはなかった。
どこかで破壊力の高い感動を与えてくれていれば、多少問題点があっても水に流せたのに。
●まとめ
発売前にライターさんやメーカーが、シナリオに力を入れた作品であることを
さんざんほのめかしていたのに、肝心のシナリオがよくない出来だったという、残念な結果になってしまいました。
とはいえ、救いようがないほどつまらないというわけでは決してなく、
キャラの内面描写や主人公と結ばれていく過程は見ごたえがありましたし、ヒロインには魅力を感じました。
主人公も苦悩しながらもかっこいいところを見せてくれますし、
何より、どのキャラも性格的に嫌味がなく好感が持てたのはいいところでしょう。
その生き様を素直に応援したくなるし。このへんは健速氏の良さが出ていたと思います。
ヒロイン4人それぞれのルートだけしか用意されておらず、ボリューム的にやや寂しいですし、
話をスッキリさせるためにも、もう1ルート、トゥルールートみたいなものがあればよかったのになあ、
と思いました。
というか最後の周はなんか時系列おかしいし、まとめ方もやたら強引だし、真剣にもう1ルート必要なゲームだったんでは?
まあとにかく、いいところもあるんだけど完成度は高くない、という作品だったわけで、
あんまりお勧めはできません。
何しろ作品の一番のアピールポイント(シナリオ)がダメなのでは、他に美点があってもいい作品にはなれないでしょう。
1周目終了時には、驚きの展開があったので非常にワクワクして期待を抱いたものですが、
その期待が報われることはなく、最後には悶々とした気持ちが残ってしまった。
なんだかもったいないなあ。
最後に、攻略順についてですが、個人的には朝顔を最初にするのがオススメです。
朝顔ルートはプロローグから自然な流れでつながる話だと思うので、1周目にプレイするのに適していますし。
↓以下、大きなネタバレ込みで、好きなシーンとか疑問点とかを挙げました。
このゲームはいわゆるループものだったわけですが、
3周目までは、本当に終盤のタイムスリップ後の展開でワクワクさせてもらいました。
一人目の主人公、二人目の主人公と順番に運命の日へとタイムスリップするたびに、
悲劇の阻止へ近づいていく流れは、最終ルートへの期待を煽られるには充分すぎるものです。
だからこそガッカリも大きいんですけどね。
こういう構造の作品は、とにかくラストで驚きの真相を明かしたり、あるいは熱い盛り上がりなどで
それまでのワクワク感を爆発させて欲しいものです。
よくできたループものはたいてい最後にそうやって最高の盛り上がりを用意してくれているものですが。
この作品はそこをおざなりにしてしまったので、ワクワク感が行き場を失って
すっきりしない気分を抱えることになってしまい、悪い後味が残ってしまいました。
終わりが悪いのですべて悪いとまでは言いませんが、自分はかなり不満をいだいたのは確かです。
とにかく納得がいかないんですよ、この作品のシナリオ。
敵として現われた別世界の主人公も、操られていた被害者だったっていうのはわかりましたが、
だったら彼を操っていた何者か、あるいは組織についての掘り下げが当然あるんだろうと思っていたら
何もなかったので、かなり拍子抜けしました。
確かに主人公はクラスメイトを救うことができて、悲劇の連鎖は止まったのかもしれませんが、
他の並行世界の主人公たちも改造を受けているというし、一人倒しただけで問題がなくなるものなんでしょうか。
そんな感じで根本的な問題が解決してないように思えるのにゲームが終わってしまうので、
エンディングを迎えても気分がスッキリせず、自分はトゥルールートでもあるのではないかと
しばらく探しまわってしまったのです。
まあ、そういうSF的な真相とかは、このゲームのテーマ的に重要な部分ではない、ということなのかも
しれませんが、でもやはりスッキリさせてほしいというのが本音。
大元の元凶を始末して全部の並行世界を救うぐらいのスッキリ感を味わわせてくれても良かったと思うんですけどね。
だいたいラスト直前、主人公が晴香に、山荘で起こる悲劇を阻止するための助言をしていた、
あの思わせぶりなシーンは何だったのか。
次の周回を見越した助言だろうと感じられたので、当然もう1周あるものと思ってしまいました。
なのに何もなく、そこから流れでエンディングを迎えてしまうし、拍子抜けしてしまいます。
そもそも、あんまりメインヒロインっぽくない晴香が最後のルートのヒロインなのは少し違和感もあったし、
プロローグで死んだ夕顔にまともな出番を作る意味でも、もう1周欲しかったです。
まあ批判的なことを言おうと思えばいくらでも言えそうなゲームですが、
好きなシーンもありました。
委員長ルートで、過去の主人公が委員長に好ましい影響を与えていたということが明らかになるシーンは、
互いに相手の助けになっていたのだと思えて、なかなか感動できるシーンでしたし……
あとは、朝顔が主人公に対し、人殺しだとか罵声をあえて浴びせてみせるシーンは、
相手を深く知っている幼なじみだからできる優しさだったので、見ていてかなりジーンと来ました。
あのシーンは本当に胸を打たれるものがありました。
そういう、キャラの魅力の掘り下げに関しては、健速氏はやはり光るものがあるんだと、
そうしたシーンで感じることができたのはせめてもの救いでした。
それさえ無かったのなら、買ったことを後悔していたかもしれない。