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houtengagekiさんの赤さんと吸血鬼。の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
赤さんと吸血鬼。
ブランド
ALcotハニカム
得点
62
参照数
1718

一言コメント

伝奇要素の入った日常重視萌えゲー。悪くない部分もあるんですが、キャラとテキストのクセが非常に強い上に日常が長々と続くため、日常が合わないと苦痛間違いなしなので事前の体験版プレイは必須。ただ、クセが強いだけならまだ合う合わないの問題だからいいんですが、真に残念なのは「え? これで終わり?」という気分になってしまう、ちぐはぐさと未完成っぽさ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「ALcotハニカム」という萌えゲーに強いブランドが、
ベテランのシナリオライターである大槻涼樹氏を迎えて制作したという本作。
大槻涼樹氏といえば今まで独特なシナリオばかり書かれてきた人ですし、
(そもそも以前所属されていたアボガドパワーズやロストスクリプトが独特なゲームばかり作ってたところだし)
そんな人がこういうブランドで書いたらどんなものができるのか、まったく予想ができなくて楽しみでした。
変な化学変化が起きて尖った名作が生まれるか、ブランドとライターの個性が噛み合わずに迷作になってしまうのか、
どう転ぶかわくわくしつつ発売を待っていました。

 そして実際にプレイしてみたところ……
まあハッキリ言ってしまうと、どう転ぶか以前に
そもそも完成度が低いという最も残念な結果になってしまっていました。


とりあえず細かく感想を書いていこうと思います。

 欧州からやってきた吸血鬼のお姫さまが主人公のいる学園に転校してきて
さらに一緒の寮で生活することになるという、ラブコメ的な始まり方をする本作。
理知的で態度の大きいロリ体型の金髪少女アクセル、この吸血鬼キャラがメインヒロインとなり、
そのメイドであるインゴット、あとは学生でありながら学園の理事長をつとめるこのは、の三人が
ルート持ちヒロインとなってます。
他にも数名女性キャラがいますが、それらのキャラはエロシーンはあるものの
エンディングは無く、明確にサブ扱いです。

 賑やかしタイプの友人キャラ(秋月)や、気のいいハイスペックなおっさん先生(石原)など
わりと濃い目のキャラたちも一緒に、寮と学園とで生活していくことになります。
というか濃いのはヒロインもで、アクセルはとにかく尊大で自然に周りのキャラを弄ってくるし、
インゴットはアクセル至上主義で、主人公には序盤は敵意を向けてくる。
後半になると両者とも可愛げが出てきますが、萌えゲーのヒロインとしては少々クセがあるのは確か。
三人の中では、このはだけは最初から優しくドジっ子的なキャラなので、とっつきやすいですね。
共通しているのは、みんな存在感があってキャラが濃いということです。


 どこか伝奇っぽさを感じさせる冒頭の緊張感あるシーンや、序盤の危機一髪なイベントなど、
オーソドックスな萌えゲーでは終わらなさそうな要素はいくつもあり、
そして身元不明の不思議な赤ん坊「赤さん」が寮の一員として加わったあたりからは
赤さんの正体をはじめとして謎も多くなり、
それらが明かされるであろう後半が楽しみになってきます。

 しかし、実際のところ、この作品は内容の8割、下手すると9割が日常もしくはエロシーンなので、
日常部分のノリが肌に合わないなら厳しいでしょう。
盛り上がるのは最後の最後、わずかな部分だけなので、我慢すれば後半に期待できるという類のゲームではない。
そして問題なのは、この日常が、質が高いとは言いがたい上にクセも強いということです。



●日常について
 乳幼児をみんなで苦戦しながら世話していく姿が描かれたり、
みんなでダベったりという寮での日々は、登場キャラが濃いのでインパクトはあるんですが、
前述した通りヒロイン達は性格に結構鼻につく部分があるので、
魅力がだんだん引き出されてくる中盤までは、付き合っていて気分の良いキャラだとは言えないし、
心地よい日常が味わえる感じではない。
ギャグが絶望的に寒いのも厳しいし、なにより雰囲気が一本調子すぎてだんだん退屈にもなる。
アクセルの吸血鬼としての能力などが明かされてくると面白さが増してはくるんですが、
それでも、もうちょっとアクセントが欲しかったところです。

 それと、日常会話の中ではキャラクターたちがうんちく話を披露することが多く、
まあ普通の萌えゲーとかでもそうやってキャラの知性を表現したりするのはよくあるやり方ですし、
キャラの趣味や背景などを自然と伝えてくれるため有効な手法だとは思うんですが、
ただ、適度にやってくれるなら全然いいんですけど、このゲームはやたら多いせいで、
だんだん知識自慢されてるように感じてきて鬱陶しくなってくるのは正直ある。
おかげでスウェーデンの風俗や気候には詳しくなった気がしますけど。

 とはいえ、流れだけ見れば、だんだんと主人公やヒロインたちが相互に惹かれあっていく過程は描かれていて、
それは決してつまらないものではなく、特にインゴットとアクセルの関係の特殊さや、
インゴットの食いしん坊キャラとか、意外に隙のある性格面などが表現されていくと、
この二人はどんどん可愛く感じられてきますし、他のキャラたちも密接に絡むので
キャラさえ気に入れば会話は楽しくなってくる。
サブキャラ達も人間性の深い部分が少しながら分かってくることで、見ていて面白い人物になっていきますし。
このゲームのシナリオに楽しみを見出すとしたら、会話が楽しめるかどうかにかかっているでしょう。
しかし本当に独特のノリだから合う合わないがすごく出るでしょうね。
しかも、この日常がとても長いんです。合わなかったら、かなりの苦痛なのは間違いなし。

 自分はキャラが、特にインゴットや石原が結構好きになれたので最後まで楽しめましたけど、
それでもやはり間延びして感じられたのは確かですね……
良さもあったけど出来がいいとはいえない、日常はそんな微妙な感じでした。
とはいえ、それは最終的に物語としてよくできていればそこまで問題なかったことだと思います。
そして、それについてはもう明らかに物足りないものでした。
そもそも、終盤の盛り上がりが短すぎるせいで、日常の占める割合の多すぎる
平坦な印象のゲームになってしまってる、という面があるので……



●終盤およびシナリオ全体について
 さて、終盤についてですが、この作品は攻略可能なヒロインが3人ということで
エンディングも3つ用意されてますが、実際のところシナリオはほぼ最後まで一本道で、
個別部分はすごく少なく、短いエンディング部分が変わるだけです。
あとは日常イベントでのちょっとした分岐ぐらい。
エロシーンは日常の中に無理やり詰め込まれていて、共通部分で三人全員とHしていくことになります。
そのくせハーレムエンドは無いけど。

 シナリオのまとめ方は正直物足りないです。
途中で終わってしまったかのような、かなり消化不良な気分になる。
吸血鬼がらみのエピソードはまあ一応の決着が描かれているんですが、最終的な敵とのバトルは
傍で見ていると、とことんまで戦う必要があるのか疑問な相手と内容で、いまいち熱くなれず
むしろ中ボス的な相手とのバトルのほうが緊張感があって面白かった。
これなら、バトル物として、せめてもう一山欲しいところです。主人公の活躍ももうちょっと見たかったし。
なにしろ、本格的にバトルが始まってようやく話が盛り上がってきたと思ったら、すぐエンディングなのです。
日常はあれだけ長々と描写してきたのに、すごいあっさりと終わる。
せっかく主人公に関する伏線も回収されて、ようやく面白くなってきた、と思ったこれだから、かなりガッカリする。
 ちなみに、ライターさんの過去作『蠅声の王』と世界観の繋がりがあることが明らかになるので、
あれをプレイしていれば、おおっ! という驚きの気分になりますが、
あれのキャラが登場するわけでもないので、まあファンサービスぐらいの意味合いですね。

 ただ、あっさりとはいえ吸血鬼関連はこうして盛り上げが一応あるから百歩譲ってまだいいんですが、
さらに問題なのは、赤さんについてのオチが微妙なこと。
赤さんはなぜ、どうやって現れたのか、それは序盤から気になる要素ですし、
果たしてどれだけ赤さんの存在を使って物語に深みを出し、面白くしてくれるのか。
そう後半に期待していたのですが、なんか、だいぶあっさりとした結論を付け、
正体こそ明らかになるものの、色々と謎をあいまいにしたまま終わります。
これはもやもやするし、深みなど当然出ていない。

 そもそも、タイトルにもなっている「吸血鬼」と「赤さん」という二つの要素、
これがまったく有効に絡み合っていないのはどうなんだろう、と思います。
赤さんはほとんど物語上の必要性がなくて、面白い賑やかしキャラの一人にすぎないし、
若い女の子が赤子におっぱい吸わせているシーンが楽しめるというぐらいだった……
個々の要素は面白いのに、物語としての面白さに活かされておらず、もったいない。

 バトルがほとんど一回こっきりで済まされ、赤さん関連は消化不良とあっては、
終わってスッキリした気分になれるわけがありません。
え? これで終わり? というのが、全エンドを見た時の素直な感想です。

 吸血鬼と赤さん、両方をスッキリさせる、「もう一山」がシナリオにあれば……
後述しますがエロシーンの雑な組み込み方と合わせて考えると、
ひょっとしてこのゲームのシナリオ、未完成あるいは途中放棄なんじゃないのか?
という気持ちになってしまいます。
そのくらいスッキリ感が足りず、いびつさを感じるシナリオでした。



●グラフィック、エロシーンについて
 絵は文句なしのクオリティでした。
個人的に、原画の桑島黎音氏は某誌の漫画連載の方で先に知って、
とても可愛い絵柄だなと思っていたのですが
エロゲで単独原画をやるというので、とても楽しみにしていました。
いざ発売されたゲームをやってみると、さすがエロゲというかCG一枚一枚のクオリティが高くて
大満足でした。枚数もSDを除いて85枚と、それなりの数がありましたし。
シナリオが短いこともあってか、その使い方は実にぜいたくで、
テキストワンクリック分ぐらいの一瞬しか表示されないイベントCGもあるぐらい。
物足りなさはまったくありません。

 エロシーンは多いです。メイン3人で16シーンあるし。
エロの内容は普通の和姦やオーラルで、それほど特徴はないですし、尺も短めですが、
それなりのエロさはあったかな。
ただ、エロが唐突に始まることが多い。
日常の途中で挿入されるわけですが、前後の流れとか無視していきなりエロが始まることが多いです。
これは戸惑いましたし、未完成っぽさの原因の最たるものでした。
前後の流れがないと、せっかくのエロも情緒を充分に感じられなくて微妙ですねぇ……

 サブキャラについては、インゴット寄りで進めていれば奈柄と、
このは寄りなら神威とのエロシーンが見れます。2シーンずつあります。
ただ、メインヒロイン勢と同様にシーンの挟み方が唐突なのは変わりません。



●まとめ
 日常シーンの多い蠅声の王外伝をプレイした、という感じがしました。
このゲームならではの良さよりも、蠅声の王の世界だったことの喜びのほうが
魅力として大きかったんだよなぁ……
それが明かされた時、このゲームやってて一番興奮した瞬間だったし。
でも悪く捉えると設定の流用っていう風に思えてしまう可能性もありますね。

 しかしまあ、最初は敵意丸出しだったインゴットが、
だんだん可愛げが引き出されて萌えられるようになっていったし、
アクセルやこのはも可愛く、いじらしいところがあって結構好きになれたので、
キャラに関しては、とっつきは悪かったですが最終的には悪い印象はなく、
このライターさんのテキストが個人的に肌に合うことも過去作で分かっていたので
それなりに楽しめた部分はありました。

 しかし、良くない部分が目立つなあ、と感じてしまったのも事実。
個人的に、大槻涼樹氏のシナリオで面白いと思ったのはいつも陰鬱な内容の作品ばかりで、
そういうのはすごく雰囲気といいシナリオといい世界観といい味わい深かったものですが……
今回のは、ブランドに合わせて明るい萌えゲーを、というのもあったのかもしれませんが、
向いてない仕事しちゃったんじゃないかなー、という感じがしました。
明らかに、陰鬱な作品の時より面白さで劣ってるし。
今回のだったら、いっそ伝奇要素バリバリの謎が謎を呼ぶバトル物にして突き抜けてくれたほうが
まだよかった気がする。
相変わらず設定の構築は丁寧で、特にアクセルについての数々の設定はかなり面白いと思っただけに。

 氏の作品の中では、残念ながら出来の良くない部類でしょう。
うんちくやセリフ回し、キャラクターの個性が好みなら、
そして蠅声の王が好きならば、楽しめる要素はあるんですが、いかんせん完成度が低い。
というか繰り返しになりますが未完成っぽい。
クリアしてみると、ホントもう一山足りないだろうこのゲーム、って思うんですよ。
設定に面白い部分はあったのだし、それらが活かされた盛り上がりがあればなあ、
そうなっていれば多少日常が間延びしていても気にならなかっただろうになあ、
と、そんな物足りなさがすごく残った一作でした。