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houtengagekiさんのデート・ア・ライブ 凜祢ユートピアの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
デート・ア・ライブ 凜祢ユートピア
ブランド
コンパイルハート
得点
77
参照数
4091

一言コメント

ゲームシナリオの原案を原作者自身がやっているようで、そのおかげか設定も自然だし外伝として受け入れやすい内容になってます。各キャラの可愛さも引き出されているし、エロ的なサービスも多いし、物語としての面白さもあって感動もできる。ファン向けのADVとしては、なかなか好印象な出来です。ただ、2点ほど残念な部分があって、良作以上には一歩届かない完成度だったのが惜しまれます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 最近アニメ化もされたライトノベル、「デート・ア・ライブ」のゲーム版。
登場するヒロインを攻略し、ルートに入っていくタイプの、普通の恋愛ADVです。
原作からして恋愛ゲームをパロった展開が盛り込まれていた作品でしたし、
今回、恋愛ADVとして発売されたものをプレイしてみたところ、
この媒体とぴったりマッチしてる作品だな、と思いました。

 ゲーム版はアニメ1期の終了直後の時間軸のようなので、
プレイする前にアニメを見ておくか、原作ラノベを読んでおくかするのをオススメします。
いちおう最初にざっと設定の説明や今までのあらすじが入りますが、
ちゃんとアニメとかで見ておいたほうが、キャラ達にずっと感情移入しやすいでしょうし。
ちなみにアニメ第一期の主だった登場人物はだいたい出てきますが、真那だけは出てきません。
攻略できるのは十香、折紙、四糸乃、狂三、琴里、そしてゲームオリジナルヒロインの凜祢、
の計6人。
令音や先生が攻略対象じゃないのは少々惜しいですね。
簡易的なエンドでもいいからこの二人のシナリオも欲しかったと思う。

 ゲームシステムの方はテキストを読み進めていくタイプのADVです。
26日からは街マップ上にいるキャラの中から、誰に会うかを選択するパートが入ります。
ここでは基本的には誰とデートするかを選ぶことになるわけですが、
サブキャラを選択するとサブイベントが見られるという要素もあります。

 シナリオは、意外と言ってはなんですが結構よくできてます。
開始直後から黒幕的なキャラクターが何かしていることが描写されますし、
序盤では主人公が日常風景に強烈な違和感を覚える描写があるのですが、
ほとんどのキャラは、何かがおかしいということに気がついていない状態。
果たして、世界にどういう真相が隠されているのか、
そして、主人公やヒロイン達がどうやってそれを暴いていくのか、
先を楽しみにしながら読んでいくことができるシナリオになっています。
ちなみに、プレイヤーの目からは何がおかしいのかが丸わかりなのが特徴で、
キャラクター達が真相に近づいていく様子にドキドキできますね。


 本編の展開は、デートイベントをはさみながら日常中心に進んでいきますが、
不穏なイベントもちょくちょく発生し、
謎の敵を前にしてヒロインが力を開放してバトルをする展開もあります。
ただし世界の真相に不用意に近づくとゲームオーバーになってしまうという具合。
自宅や学園などでの日常シーンでは多数のヒロインが集まっての会話シーンも結構多く、
和気あいあいとした気分も楽しめます。
多少、毎朝の朝食の描写がしつこく挿入されるので、ダレることもありますが……

 デートイベントでは、数少ない例外を除き基本的に一対一で、
そのヒロインにしっかり萌えられるようになってます。
原作であったような、複数のヒロインのブッキングデートといった
ヒロインがかわいそうになるようなデートはあまりないので、安心して楽しめます。
無邪気にはしゃいだり、おいしそうにパンを食べたりする十香は可愛かった。
琴里もデレる際の描写がとても可愛く、普段がキツい態度のキャラなだけに、質の高いツンデレが楽しめますし。
そんな感じで各キャラの魅力がしっかり引き出されていました。
全キャラ攻略した感じでは、どのキャラもアニメと性格的な違和感はなかったですし、
テキストの出来はいいんじゃないでしょうか。
各ルート微妙に出来の差はあると思いますが、冷遇されているキャラはいませんでしたし。

 個人的には、折紙がやたらエロいキャラになってたのが印象的でした。
相変わらず無表情キャラではあるんですけど、
ふたりきりになると、いきなり服を脱ぎだしたりセックスをせがんだりしてくるw
共通でもデートイベントでも毎回かなりアグレッシブに士道を攻めてきます。
実際に半裸状態まで脱ぐイベントもあり、なかなかのエロキャラぶりでした。
自分が勘違いしているだけで原作でもこんな風だったかもしれませんが。
 他のキャラといる時のイベントでは、相変わらず十香と張り合って
士道を誘惑しようとしてきますが、対立描写はそういうコメディ的な表現までで、
アニメなどであったような深刻な対立を他のヒロインとすることはありませんので、
今回は普通に萌えられますし、良かったと思います。

 デートイベントはそんな感じで萌えられるイベントが多いですが、決してそればかりの一本調子ではなく、
しんみりしたり、世界の謎に迫ったり、といったこともあるし、
なかなか飽きさせないつくりになっていたと思います。


 終盤に向かうにつれて各キャラの悩みや苦しみなどが描かれていき、
士道とヒロインの関係がさらに深まっていく様子も描写されていきます。
共通ルートの時点からシリアスさが適度に散りばめられているので、終盤のシリアスも唐突感はないです。
そして、しっかりと士道と各ヒロインが結ばれる幸せなエンディングも楽しむことができます。
各ヒロインとも、恋愛モノとしての醍醐味がしっかり味わえる内容になっていまして、
各キャラクターへの思い入れを満足させてくれるシナリオになっていたので、かなり高く評価したいです。

 原作アニメでは、恋愛アドベンチャーゲームを下敷きにして
士道と精霊との恋愛を描いていた面がありましたが、
このゲーム版では、さらに「ループもの」というテーマを新しく盛り込むことで、
本編に影響が出ない内容でありつつ、各ヒロインとの結末も楽しむことができるという、
外伝として理想的と言っていい舞台設定になっていたと思います。

 最終ルートである凜祢シナリオで描かれる真相には切なさもあり、
寂寥感混じりの読感を味わわされ、なかなか感動させてくれるゲームに仕上がっています。
それまでに張られた伏線が回収される形で盛り上がりますので、
結末がどうなるのか、読んでてドキドキしますし、面白かった。
このゲームは、各ヒロインのルートで萌えと個別エンドを楽しめて、その上で
世界の謎が明かされる真ルートとしての位置づけのルートもあるわけで、
単純にギャルゲーとして見ても、萌えとシリアスさのバランスが良くて、構成がいいですね。

 幼なじみキャラとしての凜祢は、他のデート・ア・ライブのヒロイン達と
また違った個性を持った、かいがいしくて優しい、よくできた女の子なので、かなり可愛いです。
やや個別ルートの描き方に惜しいところがあったのが残念ですが
萌えることもでき、デート・ア・ライブらしさを失わない方向で話を盛り上げてくれるし、
ゲームのオリジナルヒロインとしては、かなり良好なキャラだったんじゃないでしょうか。



●グラフィック
 今回のゲームCGの原画は原作のキャラデザをやっているつなこ氏の手によるものではありません。
スタッフロールを見ると、原画は 松山希 佐藤典子 というクレジットになっていました。
せっかく、つなこ氏が所属しているアイディアファクトリーででゲーム化するんだから、
つなこ氏本人に原画も描いて欲しかった。
まあ今回の原画も充分可愛いので、これはこれでいいですが……
凜祢や狂三、琴里あたりは出来がいいんですが、折紙なんかは少し
アニメとくらべて表情がのっぺりした感じになってて可愛さが減ってるのが残念。



●欠点、その他
 欠点としては、構造上、全ヒロインを攻略しないと真相にたどりつけないところ。
まあ仕方のないことなんですが、好きなヒロインだけつまみ食いする形でプレイする、
という楽しみ方はしにくいですね。
シナリオについての純粋な欠点としては、最後が盛り上がりきらないということ。
すごく感動できそうな内容であるだけに、
明確な欠点があってもやもやしてしまうのが非常に惜しい。
続編の予定でもあるのか、または原作に繋げるつもりなのかは分かりませんが、
スッキリさせてくれない部分がある。
この点はネタバレ込みで後述します。

 日常描写に一本調子な感があったので、ややテンポが悪く感じられたのもネックかな。
毎日、朝の登校前のシーンがかなり長く描写されるし。
テキストの質は及第点だとは思いますが、高いとも言いがたいです。たまにダレることがあった。

 あと気になったのは、演出面がやや凡庸だったこと。
バトルシーンのエフェクトは迫力が全然ないので、ラストとかで燃えられなかった。
バトルではテキストもイマイチだったし、燃えの面での盛り上がりには欠けたゲームでした。

 システムは普通です。とりたてて良い部分も悪い部分もないですね。
トロフィーはコンプしようと思うとバッドエンドの回収も必要なので大変かも。
ちなみにバッドエンドにもCGがあることがたまにあります、狂三ルートとか。

 難度については、選択肢が結構多いですが、正解が比較的判断しやすいし、
その選択肢が正解だったかどうかも、直後の描写ですぐ分かることが多いですし、
バッドエンドも結構たくさんあるけど、ほとんどが即死バッドだったりするので、
間違ったとしても、すぐロードすればいいだけなので、簡単なゲームだと言っていいでしょう。
誰か一人をデートイベントで選択し続けていけば、
わりと楽にそのヒロインのルートに入れますし。



●まとめ
 アニメ&ライトノベル原作のゲームとしては、かなり良い出来なのではないかと。
外伝として質が高いので、原作ファンにも普通にオススメできます。
萌えが充分に楽しめるものの、背景はかなりシリアスであり、
バトルシーンの見せ方だけはいまいちだったものの、
デート・ア・ライブらしい面白さのある作品に仕上がっていたと思います。

 とにかく設定がよくできていたのが良かったですね。
おかげで、キャラ萌えだけでなく、物語としての面白さがしっかりあった。
サブタイトルに偽りなしの内容になっており、恋愛ADVとしても見どころがある作品です。
やはりシナリオ原案と監修を原作者がやっているというのが大きかったのかな。

↓以下、最終ルートで残念に感じた点について。ネタバレ全開。





































では2点ほど、詳しく挙げていきます。


・凜祢の目的は分かったものの、動機が分かりにくかった。

 凜祢が士道のために行動していたのだということは、令音による分析という形で分かりましたが、
なぜ彼女は士道を助けようとしたのか、また、いつから凜祢は士道のことが好きになっていたのか、
そのへんのことがいまいち伝わってこないので、最後のシーンで感動しきれないのが惜しまれます。

 これらの、はっきり語られないことについて自分で考えてみましたが、
まず、どうやら凜祢は最後に出てきた謎の声の主によって、士道を守る行動を指示されていたのでしょう。
そして、結界の中で士道と日々を過ごす中で、彼のことがだんだん好きになっていったのかな、と思います。
自分はそう思いましたが、これが合っているのか間違っているのかはともかく、
このへんのことはハッキリ作中で語って欲しかったです。
ただでさえ凜祢は、設定的に仕方ないとはいえ最後の最後まで大事なことを語らずに、
読み手を焦らしてくれるキャラだったのですし、最後ぐらいスッキリした気分にさせて欲しかった。
おかげで、ラストで切ない気持ちに浸りきれなかったのが残念。



・放置されたままの伏線があり、もやもやが残ってしまう。

 27日の十香とのデートで、高台公園の階段を上まで登って行こうとすると
謎めいた雰囲気のままゲームオーバーになりますが、
結局あの階段の上に何があったのか最後まで明かされず、かなり気になります。
何の伏線だったのか……
てっきり凜祢ルートで明らかになるのだと思ってたんですが放置だった……



 ラストのシーンがとても感動的だっただけに、こういうもやもやが残ると、
イマイチその感動に乗りきれないのが非常に惜しかったです。
全体的には良かったし、こういう切ない話は好きなので、
ちゃんと全てが語られたスッキリしたシナリオに仕上がっていれば、自分は80点以上つけていたと思います。
どうも最後、今後何かありそうな終わり方をしていたので、原作に続く、みたいな感じになるのかも。
だからスッキリした描写を避けていたという可能性もありますね。

 ただ、凜祢についてはオマケシナリオで救いを見せてくれたのは嬉しかったですが。
あれが無かったら鬱ゲーだったんじゃないか。
それにしても、十香を始め各ヒロインとの個別エンドは、しっかりとした経験ではあるものの
最終的には忘れてしまうだけに、夢と言っても差し支えないので、それが切ないですね。
それを言うと、凛祢の存在や、このゲームの世界そのものが儚いわけですが……
それでも、各ヒロインとの幸せな未来を見せてくれたのは、すごく暖かい気持ちになれたので良かった。
そういうのを描くことができる世界設定だったのは、とても良かったと思います。
このゲームは、キャラクターへの思い入れを満足させてくれるので、そこを一番評価したいですね。