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houtengagekiさんのうそつき王子と悩めるお姫さま –Princess syndrome–の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
うそつき王子と悩めるお姫さま –Princess syndrome–
ブランド
Whirlpool
得点
75
参照数
1355

一言コメント

思春期をテーマにした話ですが、おとぎ話のお姫様をモチーフとした特殊な病気を、思春期の少女の感情と結びつけて描いていて、メルヘンチックさと青さが同居した萌えゲーになっているのが面白いです。題材や話の描き方はとても魅力的で先が楽しみになりますし、ヒロインも可愛いし感動もあるのですが、しかしどうも盛り上がりや深みに欠ける。題材や設定自体はすごく盛り上げられそうに見えるだけに、あっさりしたシナリオが惜しいです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 この作品はいわゆる萌えゲーで、シナリオは日常と恋愛を重視して描写されているのですが、
題材はなかなか凝っていて面白いものになっています。

 ヒロインたちは、家庭の事情や過去の経験などから特定の感情を抑圧されてきたキャラが多く、
その抑圧された感情が発露されると、おとぎ話のお姫さまをモチーフにした特殊な力が発動してしまい
その女の子は人格が変わったようになり、周囲を巻き込んで暴走する、みたいな
少々ファンタジー的な要素の混じった近未来的世界観になっています。
このプリンセスシンドロームという病気にかかっている思春期の女の子を集めた学園が舞台になっており、
そこに、<お姫さま>を眠らせることのできる<王子>という力を持つ主人公が転校してくるところから
話が始まるわけですが……

 お姫さま状態になったヒロインが発現させてしまう<メルヘン>という力は
各ヒロインの個性を反映していて、見てて面白く、
キャラクターの魅力や日常の面白さに間違いなくプラス効果がありましたし、
彼女たちの事情に深く踏み込むことになるであろう個別ルートはどういう展開になるのか、
そしてどうやってお姫さま病から救っていくのか、序盤から先が楽しみになるシナリオになっています。
ちなみに、各ヒロインのお姫さま病のモチーフは、人魚姫とか織姫とか、
どれもちゃんと実在の物語の登場キャラが用いられてますね。


 全体的には、読後感の良さがこの作品のいいところだろうと思います。
主人公との恋愛や、彼と心を通わせていく様を通じて
トラウマや葛藤を克服して幸せになっていくヒロインを見ていると
なかなかに心地の良い充実感を味わうことができるし、
主人公の抱える葛藤も同時に解消され、二人で幸せになっていくルートが多いので、
感情移入しやすく、見てて気持ちがいいです。
幸せな気持ちになって感涙してしまうような、そんな感動が味わえるシナリオですね。

 ちなみにシナリオは、おとぎ話とヒロインの人生とを結びつけて描いているのが上手いと思いました。
各ルートとも途中、元ネタのおとぎ話の物語がちょくちょく挿入されるシーンがあるのですが、
ヒロインが心理的抑圧を抱えるようになった不幸せな経緯を、
モチーフとなっているお姫さまの物語と照らし合わされているように描かれていて、
設定がとてもよくできてるなあ、とプレイしていると感心してしまう。
発現する特殊能力も、しっかりと元ネタのお姫さまに関連したものになっていますし。

 さらにそれだけでなく、ヒロインが主人公と恋愛を進めていったり、葛藤を克服していったりする過程に合わせて、
モチーフのおとぎ話の続きが描かれるようになっていたのは、とてもいいと思いました。
ヒロインがハッピーエンドを迎える様子とともに、各おとぎ話の続きが新しい解釈のような形で描かれていき、
それが見ていて気持ちのいい解釈であることが多かったのが、実に良かったと思います。
おかげでヒロイン本人のハッピーエンドも、とても幸せな終わり方だなと実感できましたし。


 全体的に雰囲気は明るく淡々としていて、ヒロインとの日常生活や恋愛のほうに力が入っており
それらの描写はなかなかで、ヒロインはみんな実に可愛く感じられるようになってます。
無口で人付き合いに消極的なリイナが、べたべた甘えるようになってくれる様子は実に萌えますし、
他のルートではウザキャラ気味な妹の星子も、個別ではしおらしく照れたりしてくれるし、
主人公に対する深い愛情を感じさせてくれて、とても魅力的に思えましたし……
それに、序盤から優しく明るいみかん先輩は、最初から最後まで最高の癒しキャラでした。
ヒロインは4人とも、みんなそれぞれに魅力がよく引き出されていたと思います。

 なので萌えに関してはなかなか悪くないものがあり、前述したとおり読後感もいいので、
一定の満足感が得られるシナリオではありました。
不可抗力なラッキースケベ展開→理不尽に殴られる みたいな描写が少しあって、そこは少々不快ではありましたし
カップルになったあと周りからいじられる描写も多めで、そこも多少好みではありませんでしたが……
あと主人公がかなり鈍感なのも目立つかな。これは主人公が自分に嘘をつくのが上手いっていうキャラ付けの意味もありそうだけど。
でもまあ、全体的には楽しく萌えられるシーンが多かったので、ささいなことですけどね。


 ただ、シナリオには物足りなさも確実にありました。
思春期が題材になっているわりに、切なさややるせなさが深く描かれている感じではなく、
むしろご都合主義的な展開が多くなっているため、あんまり心を打たれることがない。
お話のクライマックスなどで、もっと盛り上げられそうに思えるのにあっさりと終わらせていることが多くて、
そのおかげで悪い意味でご都合主義感を覚えてしまう。
結末が気になるような設定でありながら、このあっさり感のおかげで肩すかしな気分になります。
あと、七烏未奏氏がメインライターをつとめる作品ではトゥルー扱いのルートがあることが多く、
いつもそれで作品に深みが出ていたものですが、今回はそれがないので、なおさら盛り上がりが不足して感じられます。

 トゥルールートが必要ないつくりの物語になっているということなら、それでいいんですが、
主人公の葛藤についての掘り下げは甘めだし、<王子>の能力についてのことや、
そして世界観についても、もっと突っ込んで描けそうなことが残っているので、
真ルートを作ることができる余地があるけど、あえて作らなかった、みたいな印象を受けるゲームになっていました。
だからちょっと物足りない気分が残りました。



●グラフィック、エロシーン、攻略順などについて

 絵については、イベントCGはとても可愛く感じられましたし、おっぱいも肉感的に描かれていて
悪くない出来ばえだと思いました。

 エロシーンは普通の和姦はもちろん充実していますが、一風変わったプレイも盛り込まれてて良かった。
顔面騎乗や逆レイプ、髪コキのような、ちょっとM向けのプレイがあって、結構ドキドキする。
お姫さま状態の、普段とは違う精神状態のヒロインとHするシーンも多く、
一人あたり4シーンずつあるエロシーンを、飽きさせないように読ませてくれる工夫を感じ、
好印象でした。

 あと攻略順についてですが、世界観の深いところに触れることがないみかんルートは
最初にやってしまった方がいい気がします。あとは誰からやっても問題なさそう。

 ちなみにシステムについては、ちょっと起動時の動作が遅いのが気になったぐらいで
コンフィグは使いやすくまとまっていて快適にプレイできました。



●まとめ

 読後感がかなりいいので、癒し系萌えゲーとして楽しめる佳作になっています。
あっさり気味ですが、大きな盛り上がりに期待しなければ、充分面白いと言えるシナリオですし。
個人的にはみかんルートが一番好きかな。
全体的にまとまりがいいし、最後の文章が素晴らしく、読後感を最高のものにしてくれましたので。
みかん自身もまったく嫌味のない、とても好感の持てるキャラクターでしたからね。

 しかし七烏未奏作品としては、今回はいつもの独特のクセが抑え目で読みやすいけど、
その分パンチもないシナリオになってしまってて印象に残らないのが惜しい。
良くも悪くも尖った部分が無いという感じですね。
萌えゲーとしては結構楽しめましたけど、七烏未奏を求めて買った身としては、
やや物足りなさが残ったというのが正直なところです。



 ところで余談ですが、実妹キャラの星子は身長がとても高く、設定で179センチあるようなので
大きい妹キャラとして特殊な期待をしてしまいそうになりますが、
主人公がそれ以上に背が高いので、あまりこの設定はエロやシナリオには絡んでこないですね。
ちょっともったいない。主人公よりも背が高い設定だったら、色々と話が面白くなりそうなのに。