体験版部分は80点、それ以降は60点という感じでした。体験版部分のストーリーの流れはキャラクターの強い感情が伝わってきたし感動もできましたが、中盤以降は物語の流れが変わって別の話を読んでいるような気分になってしまった。というか後半になるにつれ設定がやたら複雑化していく上に描写もあいまいな感じだったので、理解を追い付かせるのが大変だった。キャラは深みがあって魅力的だし、そこはかとない百合っぽさもいい感じですし(濃すぎないのがいい)、良い部分も結構あっただけに、後半が前半ほど面白く感じられなかったのが残念。
人形を題材にしたシリアスでダークなバトル物。
主人公が女の子であり、そこそこ百合っぽさがあります。キスシーンもあるし。
非18禁ですが、結構エロめのシーンなどもあるので、これなら18禁にしてくれても
よかったんじゃないかなあ、と思いました。
やるせない展開、悲劇的なシーンなど結構あり、雰囲気はかなり暗め。
主人公の光奈が不思議な人形館を訪れ、瑠枷という美しい人形と共鳴したことで
日常の中に人間に化けた人形が紛れていることに気がつくようになり、
その傀儡と呼ばれる人形との戦いに巻き込まれていくことになる、という風なストーリーですが、
最初はどこか人付き合いが薄めながらも普通の日常生活を過ごしていた光奈が
非日常へと足を踏み入れていく様子は、心理描写の流れも自然で見応えがありました。
彼女をはじめ、キャラの心理描写はいい感じで、最初は好感が持てない感じのキャラも
掘り下げが進むと魅力がどんどん増してくるようになっていました。
ジェシカ、璃子といった光奈と同じ共鳴者の女の子たちは、当初は光奈に冷たく当たるのですが
任務を通して互いへの好意を深め、仲良くなっていく流れは実に良かった。
ある程度百合っぽさがあるおかげもあり、光奈と他のヒロインたちの関係が深まるのが見応えがありました。
全体が暗めだから、仲間との日常の和気あいあいとしたシーンの価値があるように感じられるし。
ジェシカ達をはじめ、登場キャラ達の掘り下げが進んで魅力が引き出されていく過程が、
この作品では一番面白い部分だったと思います。
バトルシーンは、そんなキャラたちの魅力をさらに引き出してくれるわけですが……
全体的に見ると、バトルの量は思ったより少なかったのがもったいなかった。
光奈をはじめ戦っている姿は魅力的だったので、もっとたくさん見せて欲しかったと思います。
ほとんど戦っている姿が見られないようなキャラまでいるし。
特に終盤は熱いバトルが楽しめる展開では全然なかったですし、
話としては中盤までの方が質が高かったように思います。
設定について……瑠枷という人形が「ミマ」という特別な存在で、彼女と共鳴して契約者となった少女たちは
超常的な力を振るえるようになるという設定ですが、このミマというのが人類の未来を象徴する存在で
傀儡を使って世界を操作しているという設定で、話がすごく大きいです。
ちょいちょい社会派的なネタをシナリオに混ぜ込んでくるので、そこは多少鼻についたりもしました。
ここからはちょっと中身に踏み込んだ感想を書いていこうと思います。
●シナリオの全体的な感想
序盤は人間社会に紛れ込んだ人形たちを排除する戦いに身を投じていくという流れで、
光奈が日常から非日常へと巻き込まれていく過程を丁寧に描いていて、分かりやすい面白さがありました。
とにかくキャラクターの感情の動きをしっかり表現してくれていたのが良かったです。
おかげで感情移入しやすくて面白かったし、肝心な部分で感動できる。
特に体験版クライマックス部分の、光奈と真琴の友情描写は深い想いが伝わってきて素晴らしかった。
光奈が人形をめぐる非日常的な戦いに片足を突っ込んでいる状態だっただけに
日常生活での親友だった真琴との友情には儚さがあって切なく、とても感動できました。
真琴とのエピソードのクライマックスはCGも素晴らしかったですし、文句なく名シーンだったと思います。
しかし体験版部分を抜けると、物語の構図がかなり大きく変わってしまいます。
それまでは、傀儡を排除することが、瑠枷と共鳴した少女たちが集う組織の使命であるという流れだったのに
中盤以降は、実は瑠枷の他にも同じようなミマが存在して、そのミマと共鳴した少女たちと戦って勝ち残らなければならない
という人間同士の戦いの展開になっていくので、雰囲気自体は変わらないものの、話の流れはかなり様変わりします。
傀儡退治はどっかに行ってしまい、二度とそういう話にはならない。
せっかく作られていた傀儡のランク分けの設定も、中盤以降はほぼ無意味になっていました。
読んでる方としては、せっかく傀儡退治を通して世界観を理解して、
これから強い傀儡や厄介な病理体が出てくるのかなーとか、光奈はそれにどう立ち向かうのかなーとか、
どう盛り上がっていくのかワクワクしてるのに、いきなり認識を変えさせられると、少し肩透かし感を覚えてしまう。
体験版の延長線上の面白さを期待していた身としては正直戸惑いました。
それでも、他のチームとの戦い、そしてライバルキャラの出現など、
展開が変わったら変わったで話は盛り上げてくれるので
退屈せずに読み進めていくことはできます。相変わらずキャラの心情は魅力的に見せてくれるし。
ジェシカ、璃子、ヤンといった同じチームのヒロインたちの事情なども本格的に掘り下げられていくことで
魅力がより増してきますし、敵チームのキャラであるレイカなどもしっかりと人間的魅力が描かれ、
ストーリー的にも謎や伏線がいろいろ撒かれて結末が楽しみになってきます。
そうした、読者を牽引する力はまあまあ感じられる作品でした。
光奈とだけ結びつきの強い謎のキャラ「少女A」の存在が非常に魅力的だったこともあり、
キャラクターの描写は本当に、見ていて面白かったです。
ただ、後半部分は純粋に面白さで前半部分より劣っていると思います。
体験版の範囲では、傀儡の階級分けなどの設定も理解しやすい内容だったし
主人公やサブヒロインの感情の動きを中心に展開してくれたので
流れ自体はシンプルだったため感情移入しやすかったし感動もできたのですが、
それ以降は非常に複雑な設定を長々と説明するシーンが多くて、読んでいて疲れてきます。
話が進むにつれて後付けっぽい設定が追加されまくって、どんどん世界観や設定が複雑化していくので
それをいちいちサブキャラクターが光奈に(というかプレイヤーに対して)説明するシーンがやたら多くなる。
おかげでエンターテイメントとして見ると前半よりもつまらなく感じてしまうことになります。
この作品、凝った設定も魅力ではありますが、キャラの強い感情の描写だとか、それのぶつかり合いだとか
そういうのをバトルや日常などを通して魅せてくれるのが良いところだと思うので、
後半はそういう良さが話の無闇な複雑化のせいで、やや殺されていた感があるのがもったいないです。
設定が多すぎて何が話の軸なのかよく分からなくなってくるし、どんどん感情移入しづらくなる。
しかも、肝心なところでの描写が結構あいまいで、序盤から謎を振りまいていたキャラ達の目的が
結局なんだったのか分からずじまいで終わったり、
そもそも重要だったはずのキャラなどが、終盤になると登場機会がほとんど無くなったり、
何かの黒幕みたいな態度を取った某サブキャラが全然出てこず、終盤に申し訳程度の出番があっただけだったり……
全部のルートをクリアすると、話自体は一応終わってはいるんですが、
なーんか魅力的な要素をうまく使えてないなっていう印象を受けます。
伏線は回収されますが、驚きを覚えたりスッキリした気持ちになったりできないのが残念ですね。
バトルがどんどん少なくなっていくのも相まって。
というか本当に設定が無駄に多すぎ。しかも増えた設定を持て余しているように見えるし。
●構成について
この作品は大きく分けて三部構成になってます。
まず、光奈の日常が完全に崩壊するまでの序盤、体験版の部分が言わば第一部で、
ライバルキャラ「イビス」に関連したバトルが展開する中盤部分が第二部、
それが終わってようやく選択肢が出現し、個別ルート→エンディングになります。この個別部分が第三部って感じ。
共通部分が非常に長く、個別部分はわりと短め。
個別の描き方は珍しいやり方で、ジェシカ、麗鈴、璃子の3ルートとトゥルールートの計4ルートに分岐しますが
それぞれ、ジェシカルートならジェシカ視点、麗鈴ルートなら麗鈴視点のシナリオが描かれてます。
おかげで、より深く各キャラの内面を感じられたり、抱えている事情などもより見えてくるようになってました。
キャラの信念や心情描写などが魅力の作品だけに、このやり方は良かったんじゃないかと思います。
ちなみにトゥルーエンドを迎えて最初から始めると、サブキャラである燈子やアカネのサブエピソードが
共通部分に追加されています。
この作品、前述した通り世界観の掘り下げよりもキャラの掘り下げのほうがずっと面白いですので、
これらのエピソードもなかなか読み応えのあるものになっていました。
●システムその他の不満
テキストが多すぎてメッセージウィンドウをはみ出して表示しきれていないシーンが多く、
ちゃんと全文を読むにはバックログを見るしかない、みたいなシーンが結構ありました。
あんまりちゃんとテストプレイしてないんじゃないかという印象を受けます。
あとスタッフロールを一切飛ばせないのがNG。べつに凝ったスタッフロールでもなかったのに。
●まとめ
キャラクターの内面描写が上手いし、おかげでキャラに感情移入しやすかったのは良かったです。
各キャラの掘り下げが丁寧で、それぞれが抱えているものの重みなどがしっかり表現されていたので
深みがあって魅力的なキャラに仕上がっていたと思いました。
特にジェシカ、璃子、少女Aあたりは光奈との結びつきが強く、実に魅力的に感じられました。
ただし、質の高いキャラ描写と比べ、ストーリー運びはイマイチに感じました。
ことに長い説明の合間に少しバトルがある、みたいな感じだった中盤以降は、前半ほど深くのめり込めなかった。
完成度で言えば体験版部分が一番高いと思います。
体験版をやって、これは名作になりそうだと思って期待して買った身としては、少々残念に思っています。
というか……あまりこうは言いたくなかったんですが、このゲームは体験版だけやれば充分かも。
体験版は高品質にまとまった短編作品として楽しめますから。
その続きは、出来の悪い続編を読んでいるような感覚だった。
体験版では感動させてもらいましたし、それ以後もそれなりの面白さは一応あって退屈はしなかったので、
そこそこの点数はつけておこうと思いますが、本当なら85点クラスを期待してただけに、残念。
↓以下、大きなネタバレ込みでさらに感想。主に不満点。
終盤の個別ルートは、各ヒロインルートはまだついていける内容でした。
ジェシカ達の視点で、共鳴者の戦いにどう決着をつけるかが描かれていくわけですが、
どのエンディングもやや破滅的ではあったものの、そのヒロインの結末らしさは感じられましたし。
でもトゥルールートは正直何が起こってるのかわかりにくく、あまりスッキリしない。
そして、この作品は光奈がごく普通の女の子だったからこそ、戦いに巻き込まれていく様が面白かったのに
「光奈も実は最初から普通の存在じゃなかったのです」みたいな設定が明らかになってしまうと、
ちょっと興ざめしてしまったというのが正直なところです。
なので、終盤はあまり楽しめなかった。
あと少女Aについて。「光奈の傀儡」として、常に光奈を助けてくれる魅力的なキャラクターでしたが、
彼女はイビス戦が終わると出番がほぼ無くなります。それがすごく不自然だった。
一応、トゥルールートでどういう存在であったのかは説明されますが、すごくあっさり済まされる。
あれだけ光奈との繋がりが深く、中盤では下手すると仲間たちよりも印象的だったキャラなので、
もうちょっと最後に良いシーンを用意して感動させて欲しかったなあ……
というか専用ルートを作って欲しかったです。
そして保健医の燈子。真琴がらみの事件で黒幕っぽく振る舞って、しかも死なずに姿を消すことから
てっきり後半にまた敵として登場するんじゃないかと思ってたんですが、
その後は何もしないというのは、とんだ肩透かしでした。
トゥルールートでちょろっと登場するだけで、話に何も絡まないし。
他にも、途中、紗代が璃子の姉代わりだったという設定が唐突に出てきますが、
そこまでにそんなことをほのめかす描写がほぼ無かっただけに、あまりにも唐突でした。
自分はこれらのキャラの扱いを見て、この作品は後付け設定の嵐だったんじゃないかと感じました。
本当、体験版は熱さも切なさもあったし、設定も凝ってるわりに分かりやすく、
バトルもしっかり楽しませてくれて完成度が高かったのだから、その流れで後半も作って欲しかった……
紗代との交流によって、傀儡=悪という価値観には染まらなかったはずの光奈が、
その後も傀儡との戦いが続くならば、ジェシカ達とは違った存在感を発揮してくのだろうと思えて楽しみだったのに、
なんで体験版以後の展開をあんなに様変わりさせてしまったのだろう。
シンプルに傀儡と戦っていく話で良かったのに。