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houtengagekiさんのふたりはマイエンジェル☆の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
ふたりはマイエンジェル☆
ブランド
CROWD
得点
65
参照数
1912

一言コメント

CROWDお得意のTS(性転換)物ですが、今回は作品全体に漂うBL臭がかなり濃いです。女体化した主人公の視点で男性キャラと結ばれていく展開が基本線ですし、主人公およびメインキャラに純粋な女性キャラクターがいないので雰囲気が非常にホモい。かなり女性向けに近い雰囲気なので、TSが好きだったりキャラや絵に惹かれたとしても、手を出すならある程度覚悟した方がいいかと思います。シナリオ的には、変身ヒロイン物として見ると正直凡庸で目新しさ皆無ってレベルじゃねーぞという感じですが、女体化主人公が近しい男性と恋に落ちていく展開は倒錯感が結構すさまじいので、そういうTS展開が好きなら見所はあります。乙女ゲーとTSとBLのドキドキ感が交じり合ってて、他の作品にはない独特のプレイ感覚が味わえるゲーム。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 学園を舞台にした性転換変身ヒロイン物のラブコメ。
堂々とした俺様タイプのコウと、
おとなしくて中性的なルカ、
この二人のダブル主人公で描かれた作品で、
二人とも最初は男ですが、TS物なので当然女体化することになり、
さらに「マイエンジェル」という変身ヒロインになって、悪魔がけしかけてくる魔人たちと戦っていく、
という内容になってます。

 CROWDと言えば、エロゲー業界におけるTSジャンルのパイオニア的ブランドのひとつですし、
王道的なTS物を多くリリースしてきた印象がありますが、今回の作品はかなりの変化球です。
まず、女性になってしまったことへの葛藤や戸惑いといった、TS物の王道的な心理描写はあまり無く、
コウは女になってもあっさりと周りにそれを宣言し、堂々と学園生活を送り続けるようなざっくばらんなキャラだし、
ルカにしても、もともと中性的な容姿と性格をしているので、あんまり大きな変化が見られませんし、
この二人、それぞれの理由で、あんまり葛藤が見られないし順応も早い。
コウは特に早い。まあルカはそこそこ悩んだりしてたけど。
女性化に関しての葛藤が本格的に現れてくるのは、終盤になって恋愛展開になってからのことで、
この作品は、TSとしての面白さは恋愛描写に集約されてる感がありました。

 そして何より変化球だと感じる理由は、雰囲気のBLっぽさが凄い、ということです。
何しろこの作品、攻略対象が基本的に男しかいません。
ルートは大きく分けて3つあり、コウルート、ルカルート、コウルカルートとなっていて、
バッドエンドも含めるとエンディングは5つ。
で、カップリングが各ルートごとに固定になっていて、
コウルートはコウ×暁(コウの親友)
ルカルートはルカ×優夜(ルカの弟)
この2ルートは、それぞれ主人公視点で男性キャラと結ばれていく内容。
コウルカルートはそのまんま、コウ×ルカとなっています。

 コウもルカも女体化しているわけですから、見た目はヘテロな感じになってはいますし、
コウルカルートではレズプレイも見ることができたりしますが、
精神的に女の子なキャラがいないので、雰囲気的にはかなりBLに近くなっているわけです。
まあ、BLっぽいとは言っても肉体が男性のキャラ同士によるエロシーンは無いし、
主人公が女性の体で、相手役が男キャラな展開が多いわけですから、
プレイ感覚的には乙女ゲーに近くて、乙女ゲーとBLの中間にある作品と言えるかもしれませんね。
どちらにしろ、これはもう女性向けと言っても過言ではない内容なんじゃないでしょうか。

 そもそも、日常ではコウとルカを中心にした学園生活が描かれるわけですが、
メインとなるキャラは、主人公二人を含めて、コウの親友である暁と恭介、ルカの弟である優夜、
この計5人で、普段を始め色々な学園行事でも、つるんで行動している様子が描かれており、
このグループの中には純粋な女性キャラがいません。
レギュラーキャラで女性は敵キャラであるレヴィのみ。
あとはコウのお目付け役のアヤや、新聞部員のマキ、さらに何人かの女性キャラがいますが、
彼女たちの位置づけは完全にサブ。


 CROWDのTS物は、自分は過去に『Xchange』や『世界を征服するための、3つの方法』といった作品を
プレイしたことがありますが、これらも主人公が女の子に変わってしまう作品で、
女性化した主人公のエロがメインに据えられていたとはいえ、
ちゃんと攻略対象に女性キャラはいましたし、むしろ作品によっては男性キャラとのエンドはバッド扱いだったりと、
過去作品はそのように男性向けの体裁は整っていたと思いますが、
今回はずいぶん振り切った感じになっちゃったなあ、と感じます。
まあ、ここまで女性向けに近い内容のTS物はあまり類がなさそうなので、貴重な作品かもしれないですね。



●シナリオ及びキャラクターについて

 シナリオの方は、章立て形式で進んでいくのですが、
わりと当たり前な学園生活が展開し、文化祭とか体育祭とか修学旅行みたいな学園行事の最中に
魔人が現れて生徒たちを襲ったりトラブルを起こしたりするのを、主人公二人が変身して退治していくという流れ。
変身ヒロイン物としては、かなりありきたりな展開と言えます。悪い意味で。
昔からある変身ヒロイン物のアニメやエロゲで使い古された感じの内容で、目新しさは全くありませんし、
バトル描写の方も正直言って凡庸と言うしかなく、テキストが投げやりな上に演出のショボさも相まって見応えは薄めだし、
バトルの展開が毎回ワンパターンなので飽きる。

 むしろ見所は日常や恋愛描写の方かなと。
学園生活の描写についても、あまりにもひねりがなさすぎて、今どきこれは平凡すぎるんじゃないか、と感じるのですが、
ただ、性転換した主人公で王道的な学園生活が描写されていくのは意外と今まで無かったかもしれませんし、
キャラ描写は悪くなく、特にコウやその友人たちが見ていて面白いキャラなので、
日常会話などの方はそこそこ見応えがあって、平凡ながら意外と楽しく読んで行けます。
 主人公二人について魅力を簡単に言うと、コウは男性としての精神性を強く保ったまま女体化するわけで、
そんなキャラクターが体を責められて喘ぐあたりが、普通の女性ヒロインには無い魅力と言えますし、
ルカは元々中性的な少年だったこともあり、女性化しても容姿に変化があまり無く、
性格的にも大人しくて健気な感じで、普通に女の子として可愛いわけで、
それなのに男性としてのアイデンティティも持っているあたりが独特の可愛さになっています。
二人ともTSヒロインとしての魅力をしっかり持っていて可愛いキャラに仕上がっており、
このあたりはさすがCROWDといったところでしょうか。

 そして何と言っても、この作品の特徴として大きいのが倒錯感の大きい恋愛描写。
前述した通り、性転換主人公と男性キャラとの恋が描かれていくわけですが、
今まで同性の親友あるいは兄弟として過ごしてきた相手と恋に落ちてしまうというのは妙にドキドキするものがありました。
このあたりは、とてもTS物としての面白さが出ていて、良かったと思う。
特にルカルートはそういう醍醐味が強いです。
イケメンな弟に迫られて犯されてしまう女体化お兄ちゃんという図式は結構な倒錯感がありまして、
見ていてドキドキする恋愛模様だったのは確かです。
性転換+近親相姦というのは、ありそうでなかなか無いジャンルと言えるかもしれず、
実際に兄か弟がいる人がプレイすると、かなり複雑な感情移入ができてしまうシナリオと言えるかもしれません。
自分が女体化して、兄弟とエッチする、なんていう妄想をしてみたことのある人ならオススメかも。
ただ、このルートは近親相姦物としてはかなりガッカリなオチが待っているので過度な期待は禁物ですけど。
正直、あの終わり方は無い。あんなオチにするなら、結論をぼかしたまま終わらせてくれた方がまだ良かった。
良くも悪くも刺激の強い題材が扱われた、興味深いルートなだけに、完成度の低さが非常に惜しまれます。
完成度だけならコウルートの方が爽やかで良かったかもしれない。

 TS物として、シチュを評価すると、やや幅が狭いのが特徴と言えます。
過去作の『世界を征服するための、3つの方法』では、女性化した主人公が男性キャラと結ばれるだけでなく、
男性化した女性キャラと結ばれたり、主人公が男に戻って女性キャラと結ばれたりと、
性転換とカップリングのバリエーションが豊かだったのに対し、
本作は性別が固定化されていてシチュエーションの幅が非常に狭くなってます。
今回はあくまでも女性化して男キャラと結ばれるシチュを追求して作られた作品ということなんでしょうが、
個人的には少し残念。
特に、コウ×ルカルートはせっかく性転換主人公同士で結ばれるルートなのだから、
レズプレイだけでなく、どちらかの性別を変えるなどして、
2通り以上の結ばれ方を見せてくれても良かったのでは?



●エロシーン、グラフィックについて

 変身ヒロイン物なので軽い凌辱もあり、
触手に絡みつかれるシーンがいくつかと、バッドエンドではルカが半ば凌辱されて快楽堕ちさせられたり、
二人ともが快楽奴隷にさせられるようなシーンもありますが、
そういうシーンは濃さが足りないのであまり期待しない方がいいです。
正直ここが特に残念な部分の一つ。
TSで変身ヒロイン物なんですから、もっとしっかりした凌辱が欲しかったです。
それこそXchangeぐらい凌辱は充実していて欲しかった。

 基本的にエロシーンは純愛がメインですね。男キャラとの倒錯感ある恋愛描写の流れが楽しめていれば、
そのドキドキ感に乗ってエロシーンもドキドキしながら楽しめると思います。
ただ、エロシーンも何故か雰囲気がホモいので抜けるかどうかは激しく人を選ぶかと思いますが…
女体化した主人公が犯されている様には、しっかり女性的なエロスがあるのに、何故かホモホモしい空気なんですよねー、
これは不思議。なんか新しい感覚でした。
個人的にはあんまり抜けなかったけど、見応えはあるエロシーンでした。

 女性キャラとのエロは少ないです。敵の女性キャラとのエロが少しあるのと、
コウルートでサブ女性キャラとのエロがありますが、日常で登場するアヤ、マキといったキャラとのエロはありません。
マキなんかは容姿がすごく可愛いので、エロが無いのが正直言って不満です。

 CGについては、原画さんは『世界を征服するための、3つの方法』と同じ人ですが
なんか妙なクセがついてて、世界~と比べると可愛らしさが減退していて色気が強化されてる感じ。
塗りの質感もちょっと変わったので、世界~の絵のタッチが好きだった身としては少し残念。
絵師は同じなのに、あの作品とは絵から受ける感じがかなり違います。



●まとめ

 変身ヒロイン物としての面白みが薄いのが残念ですし、テキストの質も低いため完成度が高いとは言えず、
さらに変身ヒロイン物なのに凌辱も薄いと来ており、ハッキリ言ってオススメできない作品なんですが、
非常に独特の個性がある作品で、あんまりこれに類する内容のゲームは無さそうに思えます。
乙女ゲーのようなプレイ感覚とTSならではの倒錯感が交じり合って独特の雰囲気を生み出しており、
その刺激の強さにドキドキして、個人的には興味深くプレイできた作品でした。
もっとライターに表現力があれば歴史に残るTS作品になってた気がするので惜しまれる。

 まあ、女性化した主人公が、友人や兄弟といった近しい男性キャラと結ばれるタイプの
TS展開に興味があれば、楽しめる余地はあります。
自分が女性になったとして、男とキスしたりすることに抵抗を持たずにいられるかなあ、
とか色々考えさせられたりもしました。

 しかし、TS物が好きな男性エロゲーマーよりも、女性の方にオススメって感じですね、これは。
ていうか女性がこのゲームやったらどう思うのか、ぜひ聞いてみたいところです。