萌えゲー的な日常シーンの分量が多いものの、ストーリー的には結構シリアス傾向の作品でした。とりあえず光る部分は結構あるんですが、テキストの質が高くないようで、読んでいてかなり退屈してくる(特に日常シーン)ことと、物語としても、感動系を狙っているのは分かるんですが描写が甘いのでイマイチ面白くないのが残念。絵は可愛いし、ヒロインはみんな萌え度が高いのは良かったですが、バグも多いしシナリオの整合性のおかしい箇所もあるし、商品としても物語としても完成度が高くないのが残念なところです。ちなみにこのゲームはネット環境が必須なんですが、普通のアクチと違って起動時だけでなくプレイ中も常時ネット接続が必要なようです。
記憶喪失の少女をメインヒロインに据えた、穏やかな雰囲気の作品。
ごく平凡な日常をたっぷりと描写してから、個別ルートではシリアスなストーリーが展開していくタイプの萌えゲーです。
この作品の良いところは、まずキャラクターでしょう。
攻略できるヒロインは3人いて、前述の記憶喪失少女フェイ、世話焼き型幼馴染の希代、妹系キャラの菜子、という具合で、
ゲーム開始当初から全員主人公に好意的に接してくれるので、気持ちよく萌えられるようになってます。
フェイは猫みたいな声を混ぜてカタコトで話すキャラなんですが、もうあからさまに主人公に懐いてくれて
常に一緒に居たがるのが非常に可愛く、大人の体なのに行動や言動は小さい子供っぽいから
ギャップ萌えもあってナイスでした。本当に猫的な可愛さのあるヒロインだと思います。
菜子も兄貴分である主人公を心底慕っていて分かりやすく好意を向けてくれるし、
彼女は弓道部の後輩であり、主人公と親戚であり、神社の巫女さんでもある、と萌え属性が非常に多いキャラになっており、
それらがうまいこと年下ヒロインとしての可愛さに繋がっていた気がします。病弱なのも保護欲を刺激されるし。
希代も、ややありがちな幼馴染キャラではありますが、接していて心地よくなるような子で、
食事を作ってくれたり家庭的で可愛い子でした。
加えて、サブキャラも好感の持てるキャラばかりで、特に緑は攻略できないのが惜しいぐらい可愛い。
いい意味で普通の女の子っていう感じがするし。
大人キャラ達も、包容力がある上、鼻につく所があまりないし、どのキャラも本当にいい人達だった。
そんなわけなので、こうした好感の持てるキャラ達と過ごす平凡な日常は、とても心地よく穏やかな気分でプレイでき、
少なくとも序盤をプレイした時点では結構いい印象を受けました。
にもかかわらず、最終的には、あまり面白い作品ではなかった、という感想になってしまいました。
とりあえず共通ルートから細かく触れていこうと思います。
●共通ルートの日常描写における良い点と悪い点
日常描写は毎日の学園での日々や、球技会、みんなでテスト勉強、などといった本当に何の変哲もない物。
この日常の分量がかなり多く、毎朝フェイに起こされて学校に行って希代の家で夕食を食べて寝る、みたいな流れの
代わり映えのしない日々が長いこと続きます。
フェイが朝起こしてくれたり、希代がご飯作ってくれたり、部活で菜子の面倒を見たりとか、
ヒロイン三人を可愛いと思えるような描写は充分に詰まっているので、この三人が肌に合いさえすれば、
ラッキースケベ的なイベントなども含め、素直に萌えていけるでしょう。
個人的には、フェイや希代は互いに仲良しなんですけど、主人公を朝起こす役を巡ってフェイが意地を張ったり、
希代にしてもフェイに対して複雑な気持ちを抱いていることを主人公に吐露したりと、
互いに嫉妬心を持っていたのが描写されていたのは面白かった。
幼馴染がいる状態で、空から降ってくる系のヒロインが設定された話ではよくある展開ではあるんですが、
こういう嫉妬心がちゃんと描かれると主人公への好意に説得力が増すから、なかなか良かったと思います。
ただし、要注意なのが、この日常が本気でものすごく平坦だということ。
雰囲気が肌に合わないのならプレイを続けるのは辛いことになると思います。
これがこの作品の大きな欠点の一つでして、あまりにも工夫がなく、淡々としすぎているんですね。
何の変哲もない日常でも、上手い作品なら、ちょっとした変化を入れて工夫したり、雰囲気に浸らせるなどして
飽きさせずに見せてくれるものですが、本作は毎日似たような描写ばかりの上、
(お前ら毎日毎日朝起こしに来すぎだろ、とか突っ込みたくなる)
テキストに牽引力もなく、音楽をはじめとする演出面にもそれらを補えるだけの力が無いので、本気で退屈になってくる。
毎日、朝から寝るまでを丁寧に全部描写してるためにテンポがすごく悪いし、
もうちょっと省くべきところを省くとかしてくれても良かったんじゃないかなあ、と思います。
上で、ヒロインが肌に合いさえすれば~と書きましたが、
正確には、ヒロインに萌えることができれば読み続けられる気力がギリギリ持つかな、という感じです。
●個別ルートについて
そして、長い日常シーンを抜けた後に突入する個別ルート。
この作品は、町に伝わる女神伝説を軸としたファンタジー的な要素が盛り込まれていて、
フェイからして登場シーンでは天使のような羽を生やした姿で海に倒れているという感じですし、
その後もフェイ絡みの不思議な現象が起きたり、他にも神社に伝わる伝承などが伏線になっていて、
個別ではそうした要素が絡んだストーリーが展開していき、
フェイの正体を始めとした世界観の深いところが明かされ、シリアスに話が動いていきます。
さほど鬱度が高いわけではありませんが、別離を予感させる流れで
切ない雰囲気を演出してくる感じのストーリーであり、
そういう話は記憶喪失という設定とも相性がいいことですし、
変化の少ない日常がたっぷり描写されたのも、ことシリアスな展開に至った時に、平凡な日常の大切さを
感じさせてくれることで感情移入が高まる効果があるわけで、有効ではあったと思います。
日常が心地よくヒロインが好感が持てる子ばかりであるだけに、切ない展開の破壊力は増す。
……はずなのですが、これがまた出来が良くないです。
全体的にどのルートも、ヒロインとの別離の予感で切なさが煽られ、それを阻止しようと悩む主人公という構図があって、
最終的にハッピーエンドでスッキリ感動できるように盛り上げられているのですが、
どうにも描写が甘くて今ひとつ感情移入できないというか。
日常シーンはグダグダ長いくせに、ハッピーエンドを迎えるシーンの描写があっさりしてて甘い傾向がありますし、
希代ルートはそもそも希代の行動の動機付けが浅くて説得力に欠けるため、彼女の行動に納得できず
見ててイライラするだけのルートになってしまっていたり、何だか全体的に詰めが甘すぎる。
神社の伝承や各キャラクターの過去などの設定は結構しっかりとした内容だったし、
うまくやれば感動できる物語になっていたのではないか、と思わせるぐらいの素材は用意されているんですけど、
もう何というか、ことごとく活かしきれていない印象があります。
伏線も放置されてたものが結構あるし。
ていうか基本的にテキストが弱い。日常といい個別といい、結局はそれが一番欠点として大きい気がする。
特に、感動できそうなシーンがあっさり済まされる傾向があるのはいかがなものか。
おかげで余韻も何もない話になってしまっているのがもったいない。
どのルートも、スタッフロール後にもうひと押しぐらいエピローグ的な描写が必要だったと思う。
せめて気持ちのいい余韻を味わわせてくれれば、少しぐらい話が面白くなくても満足できたかもしれないのに…
菜子ルートだけは一応まとまった話になっていたと思うのでまあいいとしても、他の2ルートはちょっと酷かったです。
あとは、主人公もちょっとどうかと思う。
さんざんフェイの不思議な力に接してきたにもかかわらず、天界にまつわる昔話や
超常的な現象を、後半になっても「気のせい」とか言って、つとめて信じないようにしようとする主人公には
見ていてフラストレーションが溜まります。
構造的には、各ヒロインともグッド、バッド、アナザーという感じのエンディングが用意されており、
アナザーに関しては、おそらくフェイのグッドエンドを見ていることが出現条件だと思います。
攻略に関しては、フェイルートは罠があって序盤の選択肢でバッド確定してしまうことがあるので、ちょっと面倒でした。
異なる可能性が描かれるアナザーエンドは、グッドとは違った味わいと独特の切なさがあって良かったですが、
本音を言えば、アナザーを用意するよりもグッドをもうちょっと作りこんで欲しかったなあ、と思います。
身も蓋もない言い方をすれば、グッドエンドはちゃんとスタッフロール後のエピローグを描いて、
アナザー用のCG枠はそれに使ってくれ、という気分です。
●不具合、およびシナリオの整合性がおかしい点について
シナリオ自体も大概な出来ではあるんですが、それよりこのゲームで一番問題なのは、
素人目にも分かるスクリプトミスやシナリオの整合性がおかしいシーンが
プレイしているとたくさん目についてしまうことです。
正直、これならもうちょっと延期して作りこんだほうが良かったんじゃないか、ってレベル。
例を挙げると、プロローグで、まだフェイの名前が判明していないのに主人公がモノローグでフェイと言っていたり、
希代ルートの7月15日、エロシーンが終わったら朝のシーンに戻ってもう一度同じ一日が始まったり、
とある日では、主人公が希代の家を辞して自宅に帰って就寝したと思ったら、唐突に希代の家に描写が戻って
会話シーンが描かれて、また自宅に戻って就寝するといった、
タイムスリップ物の描写かと思うような時空の乱れが散見されて混乱します。
他にも、主人公がフェイのことをまだ菜子に話していないのに、菜子が普通にフェイのことを知っていたり、
フェイと一緒に不思議な姿をした犬とひとしきり遊んだ後に、その犬が初めて登場するようなシーンが入ったりと、
イベント挟む順番間違えたよね? と感じられるシーンもいくつか。
あとは、映像面では、たまにキャラの立ち絵が背景画像のチップがグチャグチャに混ざったような感じに化けてて
怖すぎることになっていたりとか、勘弁して欲しいですw
いずれ修正されるのでしょうけど、とりあえず色々な未完成ぶりが感情移入しづらさに拍車をかけていたのは事実。
●絵、エロ
絵については、このゲームでキャラ萌え描写と並んで評価したい点です。
キャラデザインは可愛らしい上に、ほどよく肉感的で、フェイなどは体つきがとてもそそるから
ラッキースケベイベントで我慢するのが大変ですw
塗りもなかなか良く、特に髪の塗り方が綺麗で気に入ってます。
CGは表情がやや安定しない感はあったものの、全体的に萌え度が高いですね。
エロは内容自体は平凡なものの、絵のおかげで見栄えは良かったです。
肉感が良いだけに、パイズリがなかなかエロかった。あと希代は特殊な衣装での足コキがあったのが印象的でした。
ちなみに菜子だけエロシーンが他のヒロインよりあからさまに多いので、彼女が好みならエロでの満足度は上がるかも。
ただ、ちょっと贅沢な意見になりますが、フェイについては、
猫みたいな声を混ぜてカタコトで話す姿が小動物的な可愛さを持っていただけに、
記憶を取り戻した後は礼儀正しい女の子になってしまうのが、それはそれで可愛くはあるものの
やっぱりちょっともったいない気もしてしまいます。
記憶なしバージョンのフェイともエロシーンがあれば良かったんだけどなあ。
●その他、印象に残った点についてつらつらと。
個人的に、このゲームで最も好感が持てたキャラクターは、幼なじみの希代
の母親の志奈乃さんです。
彼女は希代のことだけでなく、主人公のことも家族同然に面倒を見てくれているという設定の大人キャラ
なのですが、この人がもう、子供たちの幸せを心から願っているということが伝わってきてジーンとする。
ここまで素直に「良い人だ」と思えるような大人キャラはなかなかいないと思います。
主人公やフェイを叱ることもあるけど、決して大上段からの叱責にはなっていなくて、
とても包容力を感じさせる注意の仕方をするし、とても優しく見守って、面倒を見てくれる。
志奈乃の台詞はいつも優しさに溢れていて、心が暖かくなりました。
志奈乃関連の描写は、希代ルートにおける数少ない光る部分でもありました。
親としての情愛に溢れた切ない描写には感動させられるものがありましたし、
それだけに、もう少しラストシーンにでも志奈乃を活かしてくれればなあ、というもどかしさも大きかったですけど。
とにかく、このキャラに接することができただけでも、このゲームをプレイした甲斐はあったと思っています。
それ以外のキャラでは、サブ男キャラとサブ女キャラの間に恋愛フラグが立ってるのが印象的でした。
最近の萌えゲーでは珍しいですね、こういうの。
ただ個別に入ると全く出てこなくなるので、この二人の存在意義はちょっと薄めなのが寂しいですけどw
もうちょっと活用しても良かったのでは…
というか、不思議な姿をした犬といい、伏線になりうるような要素が放置されていることが多いですね、このゲーム。
前述した、フェイと希代の間の嫉妬心も、深く追求されて修羅場になったりすることはありませんでしたし。
そういえば菜子も弓道姿がかわいいのに、個別ルートで弓道が活かされることが無かったなあ。
活かしきれてない魅力的な要素がかなり多いような…
●まとめ
個人的にはこういう穏やかな雰囲気の作品は好みですし、
なんだかんだでキャラには萌えることができたので値段分はギリギリ楽しめたかなとは思ってますが、
正直言って人に勧められるようなゲームでは全然ないです。
テキスト、シナリオともに完成度が低い上にバグも満載と来ていては…
素材自体は悪くなかったと思うので、この完成度の低さはもったいないです。
絵とキャラに強く惹かれたという方でも、かなり期待度を低く見積もった上で手を出さないと損した気分になるかと。
この完成度の上に、さらにアクチでもありますからね…
ちなみに、そのアクチについてですが、本作はかなり特殊な処理をしてるっぽいです。
ちょっと実験してみたところ、ネットに接続しないまま起動しようとしても
「スクリプトサーバーを見つけることができません」と表示されて強制終了するし、
起動後にネットから切断した場合も、一定時間プレイした後、同様の表示が出て強制終了する。
どうやら、プレイ中に適宜スクリプトをサーバーから取得しているのは間違いなさそう。
多分割れ対策だと思いますし、この方法なら確かに、ローカルディスクに保存されないデータがあるのだから
普通のアクチよりも非常に割られにくいだろうから、有効っぽいなあとは感じます。
ただ、興味深い割れ対策であるだけに、こういう試みをするならゲームそのものもちゃんとした完成度のものに
して欲しかったなあ、と思います。
この出来じゃ素直に応援する気分になれませんし。
↓以下、希代ルートのダメな部分に関してネタバレ全開で書き連ねました。スペース開けておきます。
希代ルートは切ない話にしたかったんだと思うんですけど、
希代が主人公と長い間会えなくなることを承知で天界に行くという決断に、読み手が納得できるだけの理由が無いので、
ただ希代にイライラしてしまうだけのルートになっているのでハッキリ言ってダメです。
これで感情移入しろと言われても難しい。
ああいう別離の流れなら、もっと希代に重大な動機を用意するとか、伏線を張るぐらいはして欲しかったところ。
何しろ、希代は色々言うけど結局は「気になる」「行かないといけないような気がする」程度のことしか言わないから、
そんなんで主人公と離れ離れになることを決断されると、理不尽な気分しか湧いてこない。
フェイルートも似た展開ですが、彼女はまだ切実な願いを最初から持っていたのだから理解できるけど、
希代のそれは動機づけが薄くて説得力に欠けるから、見ててイライラしてしまうだけ。
こうなると共通ルートでの彼女への好感までも薄れてくるから、かなり台無しな気がします。
これはほんのちょっとしたさじ加減の問題なんですけど、それが致命的なこともあるということです。
あと、これは言っておきたいんですけど、希代を追いかけて天界に行った後のシーン。
普通なら感動の再開シーンを描写すべきころを、すっ飛ばして希代の部屋のシーンに行ってしまった所は
もう本気で呆れました。ここまで見せ方の下手なシナリオを読んだのは久しぶりです。
これはフェイルートにも言えることで、過去への旅から戻った時の感動のシーンの描写を
わざわざ後に回す意味が分からない。ちゃんとひとつの流れとして見せて欲しかった…