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houtengagekiさんの君と彼女と彼女の恋。の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
君と彼女と彼女の恋。
ブランド
NitroPlus
得点
86
参照数
8056

一言コメント

挑戦的な作品だなあ……というのが率直な感想。主人公一人にヒロイン二人の三角関係で、どちらかを選ばないといけないという一見よくあるシチュですが、それをテーマとして徹底的につきつめたシナリオになってます。凝った演出により表現されるヒロインの強い感情、ゲーム全体に込められたメッセージ性も印象的。プレイヤーにヒロインを真摯に愛するということを考えさせるような、クリエイターのメッセージが込められていたような気がしました。それが成功しているゆえに、「二者択一」にものすごく重みがあり、二人のヒロインのどちらを選ぶのか、とても悩まされます。そして選択に重みがあるゆえに、クリアした今は、ヒロインの感情と存在感の強さがすごく印象に残って、ずっと忘れられそうにない。読後感がすごく後を引く作品でした。ぜひ、できるだけ事前情報を仕入れずにプレイしてみて欲しいです。特に、エロゲ経験本数がある程度多い方にオススメ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 なんというか、色々とビックリさせられた作品でした。
ここまで野心的な試みを詰め込んでいるエロゲーは久しぶりに見ました。
PCゲームという媒体そのものの特性をこれでもかと活用して、
プレイヤーを作品世界とヒロインに感情移入させ、没頭させるゲーム。

とりあえず、長文は前半がある程度内容に踏み込んだ感想で、
後半がネタバレ全開の感想になります。


 ヒロインは二人いて、主人公の心一の幼なじみである美雪と、
電波少女のアオイ。
心一はこの二人の少女と関わっていくわけですが、
彼は踏み込んだ行動を避けるところのある、わりと煮え切らない感じの少年ですので、
いい感じに三角関係モノらしい展開になっていきます。
序盤の雰囲気は無音のシーンも多く、静かで落ち着いた、淡々とした感じ。
なかなか味わい深い空気で、適度にシリアスな気分で三人の人間関係を楽しんでいけます。
そんな雰囲気の中、変わった模様のある猫や二人のサブキャラなども絡みつつ、
わりと何の変哲もない純愛シナリオが進んでいきます。

 この作品には、物語としてのエンターテイメント性はさほどありません。
学園モノとして見ると、最初にプレイできるルートはごくありふれた内容で、
日常描写に面白みもない。
大きく話が動く後半ですら、物語としてどうかと言われると微妙なところ。
でも、それなのにこのゲームは面白いです。
印象に残ったのはとにかくキャラクターの感情の強さと演出の素晴らしさ。
作りこまれた演出によってキャラクターの感情がダイレクトにこっちに伝わってくる、
という感じのゲームに仕上がっています。

 序盤に、普通の学園モノにしてはやたらとサイバー風かつ不穏な演出がありますので、
これが伏線で、なにか後半にあるんだろうなあ、と身構えながらプレイすることになりますが、
しばらくは平凡な学園純愛モノの展開が続きます。
しかし、ゲームを進めていくと強烈な驚きが待っています。
身構えていてもびびる。予測不可能な方向から殴られる感じ。
ちなみにわりとバイオレンスホラー的な感じで超コワイ場面も多いので
夜に一人でプレイしたりするのはオススメできません。
自分は中盤のとあるシーンがしばらく頭から離れなくて一週間ぐらい不眠気味になりました。

 逆に言えばコワイのが好きな人にはオススメです、特にヤンデレ的な怖さが好きなら。
ヒロインが怒り狂う理由がゲーム展開上、非常に納得のいくものなのが大きいですね。
理不尽な怒りなら、えーないわーって感じで引いちゃうか、普通にその子の個性として受け止めるだけなんですが、
このゲームの場合、なまじ当然の怒りであるだけに
それを向けられてしまうのはものすごく恐怖を感じさせられてしまいます。
しかも怒り方も半端じゃないし演出も凄いので、よけい怖い。

 その後はいろいろな伏線が回収される、驚きの展開が待っていますが……
PCゲーという媒体そのものを活かした、とても独特のストーリー展開になっていまして、
なかなか他に類を見ないものだったと思います。
演出的にもすごく凝ったつくりになっていて、とても高い没入感が得られました。
そのあたりは、ぜひ事前情報を仕入れないで体感してみて欲しいですね。
すごく新鮮な気分で読んでいけるシナリオです。



●テーマとメッセージ性について

 三角関係モノとして見ると、とにかく徹底した二者択一っぷり。
このゲームは、その二者択一が一番重要なテーマになっています。
仕様を見ただけでも、選んだ方のヒロインの最終的なエンディングを見たら、
再インストールしない限りもう一方のヒロインのエンドを見ることは不可能だし、
クリア後のおまけモードを見ると、CGや回想も選んだほうのキャラのものしか見られないという
相当なこだわりぶりです。

 シナリオを見ても、エンディングにいたるまでの過程で、
これでもかとヒロインの想いの強さを伝えてくれるので、
選択するということにこれ以上ないくらい重みを持たせることができていまして、
これほどまでにプレイヤーに選択の重さを味わわせてくれる作品はそうそうないでしょう。
ただ、通常通りのエロゲとしてのシナリオでだけ重みを表現しようとしても、
普通の作品との違いは出せなかったでしょう。
そこで重要になってくるのが、このゲームに込められた特殊なメッセージ性です。


 自分もそうなんですけど、悪い意味でエロゲ慣れしている人間であるほど、
このゲームがぐいぐい伝えてくるメッセージ性は胸に響きやすいと思う。
普通のゲームは、4人か5人ぐらいヒロインが用意されていて、一人エンディングを迎えたら
「感動した! さて、選択肢まで戻って次はこのヒロインのルートをやろう」
みたいに、次から次へとルートをこなしてコンプしていくわけですが、
このゲームは、そんなエロゲ慣れした意識におもいっきり冷水をぶっかけてきます。

 もちろんエロゲ慣れしたプレイスタイルが悪いわけではないとは思うんですが、
最近、ヒロインとの恋を真剣に楽しんでいたか? と問われると、
エロゲに初めて触れた頃と比べると、そういう気持ちは薄れていたかもなあ、
とか、改めて考えさせられてしまいます。
そういうことを考えさせるようなメッセージが、このゲームをプレイしていると
ハッキリと伝わってきます。
エロゲーをプレイするということについて一歩引いて考えさせられるなんていうことになるとは
プレイする前は想像もしませんでしたが、しかし、
こういう機会でもなければ、考えることはなかっただろうと思うので、
とても貴重な思考をさせてもらった気分です。

 上のほうで、学園モノとしては序盤は平凡だと述べましたが、
この作品は平凡な学園モノである必要がちゃんとあるんですね。
平凡であることそのものが伏線になっていて、後半の展開がより活きてくる。
なぜなら純愛もののADV系エロゲーのヒロインというのはどういう存在なのか、ということを
プレイヤーに改めて考えさせようというのが、この作品の狙いのひとつなので。


 とはいえ、こうしたメッセージ性についても、結局のところは
プレイヤーに「選択の重み」を突きつけるためのものなのは間違いないと思います。
こうしたテーマを込めた特殊な展開を通して、ヒロインの存在、想い、感情が、
とても印象的に感じられるようになっていて、ラストに至る頃には頂点に達します。
自然と、ヒロインの運命を左右することになる「選択」が、
ものすごく重く感じられるようになる。
そんなわけで、「選択する」ということの重みをこれ以上ないくらい体感させてくれる作品になっているのです。


 という、意欲的な要素を色々と込めた、とても面白い作品ですが、
欠点を挙げると、後半に入ってから作業になるパートがあることかな。
まあ、フラグ探しなので攻略している気分にはなるからいいんだけど。
あと、メッセージ性が強いだけに、そのメッセージにまったく共感できなければ
感情移入もしづらくなるだろうなあ、とは感じます。



●まとめ

「アップデート」という単語の深刻さと重要性、
電話番号を入力できる選択肢、などの伏線の数々は
後半に向けて大きなワクワク感となりますし、
後半の巧みな画面演出によって描かれる世界観の印象深さと、
それによって伝わってくるヒロインの強い感情は、体感する価値がおおいにあります。
終盤、展開的にクライマックスを迎えたあたりの没入感はすさまじいものがありました。
色々と挑戦的かつ新鮮なので、一風変わったエロゲーをやってみたい時にいいんじゃないでしょうか。
さほどクリアに時間のかからない作品でもあるので、あまり時間のないときにもオススメです。


↓以下はネタバレ全開の感想です。







































 こういう、プレイヤーを登場人物としてゲーム内容に関わらせようという仕組みのゲームは
自分は大好きなので、途中からはとてもテンションが上り、ワクワクしながらプレイしました。
美雪のヤンデレぶりが直接こっちに向けられるので怖かったけど。
ギミックだけ見ても、こういった、いわゆるメタゲーの中でも、これと似たアイデアで作られているゲームは
自分の知る限りでは二本ぐらいしか無かったと思うので、とても希少価値を感じます。
メタゲー好きにはオススメなんですけど、そういう勧め方をすること自体がネタバレになってしまうので
難しいところですね。

 しかし、2周目のアオイルート終盤の展開からは凄かった、
美雪による撲殺劇の際は、美雪がプレイヤーを認識しているということを告白しつつ
それに絡めて、なぜ自分が怒っているかを分かりやすく説明してくれるから、
恐怖と驚きが相まって衝撃が半端じゃないです。
メタゲーって一般作も含めてそれなりの数がありますが、
衝撃を与えられた度合いで言えば、このゲームはかなり上位に位置します、個人的には。
その後の、美雪のアップデートによってゲーム世界が支配される展開も新鮮で面白かったです、
どうすれば美雪を出し抜けるのか手がかりを探すのは、ゲーム的な手応えもありましたしね。
演出的にも、わざわざちょっとバグった風のUIが用意されていたり、
場合によってはゲーム自体をシャットダウンすることで先に進むようになったり、
PCゲームという媒体をこれでもかと活かした、すごく凝ったつくりになっていて感心しました。


 にしても、このゲームは、ヒロインに自分のいる世界がゲームだという情報を知覚させることで、
エロゲーのヒロインとしての自分の運命を自覚したら彼女はどういう感情を抱くか、
ということを表現しているのですが、
なぜそんなことをするのかといえば、
プレイヤーに「選択するということの重さ」を思い知らせるためなんですね。
プレイヤーにとっては、美雪に好意的な選択肢を選んでいくことは、
ゲーム内の1ルートをクリアするためだけのクリックでしかないわけですが、
彼女にしてみれば真剣な恋愛であり人生の上でも重要な岐路でもあるわけで。
そのルートの記憶を持ったまま、ゲームをやり直されて別ヒロインのルートに入られたら、
それは怒りますね。
で、プレイヤーである自分が何気なく選択してきたことを、あとで罪として突きつけられる、
っていう展開はもう、こいつはやられたね、と降参するしかない。
ライターさんによって罠にはめられた感じですが、見事なやり方なのですがすがしいですw
それだけに、最後の選択はとても重かった。
プレイヤーが、彼女たちの土俵まで降ろされて、究極の選択を迫られる。
こんな気分を味わわされたのは初めてで、なかなかに悩まされました。

 まあ、自分はわりとあっさりと、たぶん2分ぐらいでアオイを選んでしまったんですけどね。
理由としては、美雪という名前が、ごく近しい近親者と同じ名前なので
あんまり選ぶ気になれなかった、という個人的事情が40%ぐらいですが、
単純に性格的にも、プレイしているとアオイの方が感情移入しやすかったので……

 序盤は美雪の想いが素直に可愛らしく感じられ、アオイは一見性欲重視な電波ちゃんなので
印象としては美雪の方が良かったですが、アオイルートに入ってみると
なにしろアオイが浮気してるんじゃないかという疑惑が緊張感を生んでいて面白かったし、
アオイの抱える事情の切なさを知ったら、彼女のことがすごく愛おしく思えてくるし、
あれで惚れてしまいました。
そんな幸せなところにヤンデレ化して入ってこられたら美雪のことは好きになりづらいですw
とはいえ、美雪もその後のアップデート後の二人きりの生活で、
ナマの感情を強烈にぶつけてきますし、プレイヤーにどういう想いを抱いているのかを知り、
さらに彼女にかけられた呪いが明らかになった後は、愛おしさも湧いてきますけどね。
ただそれは、自分にとってはアオイへの感情移入を上回るほどでは無かったというだけで。

 それに美雪には心一がいるし、だったら自分はアオイを選ぶのがいいかなって
思えたのも大きかったですね。そのほうがスッキリしそうだなと。
それにしても、アオイエンドはこれからエロゲー全般を今まで以上の思い入れと感情移入を持って
プレイすることができそうな、素晴らしいエンディングでした。
とにかくこのゲームは、キャラクターの感情がとても強く、しかも主人公ではなく
ダイレクトにプレイヤーに伝わってくるから、ヒロインたちへの思い入れがすごく強くなるため、
終盤のシーンは画面に食い入るようにプレイしていました。
別れのシーンはアオイへの思い入れが極まって、とても感動しましたし。

 それにしても、パッケージにも仕込みがあるっていうのは良いアイデアですね。
ここまでやっているのは他のメタゲーでもめったに見ない。
美雪対策というはっきりした意義があるだけに、そういうギミックもドキドキしつつ楽しむことができました。
ラスト直前での数字入力のドキドキ感が素晴らしいと思う。


 ところで、深雪が心一以外の男性とくっつくことができない呪いをアオイの改変によってかけられてしまいますが、
これはなかなかに攻撃的な皮肉ですね。
自分も含め、純愛ものや萌えゲーを好むエロゲーマーって、
攻略しなかったヒロインが、たとえ将来的なことであっても別の男とくっつくのを嫌がる傾向がありますが、
そういう風潮を思いきり皮肉った内容でした。
主人公とくっつかなかったヒロインの将来ぐらいは好きにさせてやってもいいですね、確かに。
そういうことも含めて、まあ今までまったく考えなかったわけじゃないけど、
ヒロイン攻略型のエロゲについて、いろいろと改めて考えさせられることの多いゲームでした。
まあ、エロゲのプレイの仕方そのものは今後もあんまり変わらないだろうとは思うけど
これからは、少しは思い入れを深めながらプレイすることができそうです。


 それにしても本当に選択の重いゲームでした……
仕様上一回しか選べない最後の選択もそうだし、
最後以外にも、選択肢をクリックするのをためらわせるような、重みのある選択がたびたびありました。
本音を言えば、もう一回最初から、いろんな選択肢をたどってすみずみまで楽しみたいんだけど、
再インスコしてプレイするのは冒涜だとキャラクターに言われたので出来ないw
正直、最初のプレイでは、何かありそうではあるけどフツーの三角関係ものだなあ……
ぐらいにしか思わなくて、結構流し読みしちゃったところもあったし、
そもそも、正しそうな選択肢ばかり選んでまっすぐエンディングまで到達しちゃったので、
今思うと、どれだけもったいないプレイの仕方してたんだろうって、後悔してたりします。

 ところで、ニトロプラスさんには、アオイエンドをあのような終わらせ方をした以上は
これからもエロゲーは作っていってください、と言いたいです。
なんか乱雑な感想になってしまいましたが、以上です。