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houtengagekiさんの夏雪 ~summer_snow~の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
夏雪 ~summer_snow~
ブランド
Silver Bullet
得点
79
参照数
2478

一言コメント

ヒロインは3人とも、接していて心地良くなれるような優しいキャラに仕上がっているので、癒し系の萌えゲーとしてはそこそこ優秀な作品です。ことに夏雪は、姉萌え属性のある人ならニヤニヤできる場面はいくらでもあるんじゃないかっていうぐらい甘やかしてくれるシーンが多いです。しかし、同ブランドデビュー作「雪影」を彷彿とさせる設定やキャラクターなどから、伝奇や民俗学的な要素に期待すると、肩透かしを喰らうと思います。伝奇要素が添え物でしかない上、物語としての起伏も少なく、淡々としていますので。ただその分、穏やかな雰囲気が実に気持ちいい作品に仕上がっていますから、優しいヒロイン達との恋愛で癒されたい方には、良い作品になりうるでしょう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 淡々としたノスタルジックな空気が魅力の萌えゲーです。
この穏やかな夏の田舎の空気が肌に合えば勝ったも同然。
キャラクターは底抜けに良い人ばかりなので、存分に癒されることでしょう。
しかし、物語として盛り上がる場面はほとんどなく、起伏に乏しい作品ではあるので、
雰囲気が肌に合わなければ、単に退屈なだけのゲームと感じてしまいそうですが。

 ブランド5周年記念作品ということで、デビュー作である『雪影』を
多分に意識したキャラやストーリー設定になっている本作。
伝奇的要素が本筋のストーリーに絡んでいること、
メインヒロインが主人公を甘やかしてくれるタイプの甘々な姉キャラであるということ、
子供時代から物語が描かれていくこと、
夏の間だけ姉のいる田舎に訪れ、一緒に過ごす展開など(雪影は冬ですが)、
各要素を見ると、雪影と共通する部分は多いです。

 しかし、作品としての方向性はだいぶ違ったものでした。
民俗学を本格的にシナリオに組み込み、シリアスで毒のある作品に仕上がっていた雪影と比べ、
この『夏雪』は伝奇的要素はあくまでも添え物に留まっており、毒もまったく無く、
ヒロインとの心の交流や恋愛描写を重視した、穏やかな雰囲気の癒し系萌えゲーになっていました。

 端的に言えば、ライターの個性がそのまま作品性として現れたという感じでしょうか。
これまでも、優しく毒のないヒロインを描写してきた沖水ミル氏がシナリオを書かれているだけあり、
この作品の登場人物たちも、みんなとにかく優しくて、接していて心地いいです。


 ゲーム展開としては、子供時代の各ヒロインとの出会いから描かれ、
それから毎年の夏休み、主人公が夏雪のいる宝来町という海辺の田舎町を訪れ、
彼女や他のヒロイン達と触れ合い、心を通わせていく様がじっくり描かれていく感じですね。
 その合間に、主人公が夏以外の日常の時間を過ごす、都会での日々も描かれ、
こちらでは姉がおらず、当初は友達もいないため、居心地の悪い学校での主人公の様子が描写され、
宝来町の充実した日々と対比的に描かれていく…という感じになっています。
が、結局は都会のパートも、こちらで登場するヒロインである那有多がやはり優しい女の子なので
結局は穏やかな日々になっていくんですけどねw
このライターさん、本当に優しい女の子しか描けないなぁ、とプレイしてて感じます。
それが長所だと思うので、これでいいんですけどね。

 そんな感じで、二つの舞台でヒロイン達との日々を重ね、
少しずつ大人になっていく様子がじっくりと描かれていきます。
一年、また一年と過ぎていき、最終的にはヒロインたちは大人っぽい容姿になっていきますね。
幼い頃から交流が描かれていくので、思い出を重ねながら大人になっていく様子を眺めていく
ことになりますから、主人公とヒロインの関係性には実に感情移入しやすいですし、
エンディングを迎えた際には、それまで主人公たちが過ごしてきた長い時間が思い出され、
どこか寂しくノスタルジックな読後感があとを引くように残るのが、この作品のいいところだと思います。



●ヒロインの魅力について

 ヒロインは3人いて、中盤の選択肢でヒロインが決定しますが、
選択肢の上から順番に攻略していけば間違いないと思います。
はっきり言ってしまうと、純葉→那有多→夏雪の順を推奨ということです。
というかそれ以外の攻略順はオススメできない。
この順番で後になるほど、物語の根幹部分に深く踏み込んだ内容になっていきますから。


 メインヒロインである夏雪は、とにかく可愛い姉キャラに仕上がっていました。
姉ゲーの実績がある方がメインライターであるだけのことはあり、
夏雪はとにかく主人公を弟として可愛がり、ひたすら甘やかしてくれます。
葛ちゃん(主人公)大好きオーラを常時放出し、子供時代からことあるごとに抱きしめてくれたり
一緒に寝てくれたりします。
その可愛がりっぷりは甘々すぎて胸焼けしそうになるw
専用ルートに入ると、そういうノリのままエロシーンもてんこもりですから、
とにかく姉キャラに甘やかされたい人にはたまらないヒロインになっていますね。
白いワンピースと麦わら帽子がよく似合う、清楚で落ち着いた容姿も実にグッド。

 主人公にしても、幼い頃の屈折した自分を救ってくれたことで夏雪をこれ以上ないほど慕っているわけですが、
彼女のことを慕う気持ちがとにかく真っすぐで深く、どれだけ大切に思っているかがよく伝わってきます。
そういう主人公だからこそ、夏雪と過ごす夏の日々が実に心地良く感じられるようになっていますね。
お互い、どれだけ相手を大切に思っているかが実によく伝わってくる上、
その二人が楽しそうに日々を過ごしているのですから、見てて幸せな気分になります。

 しかしまあ、夏雪の世話焼き気質は凄いですね。
こんな女の子がそばに居たら、どれだけ自立心の強い男でも一気にシスコンになってしまいそうですw
どれだけ弟的なポジションの相手を世話するのが好きなんだ、っていう。

 専用ルートで描かれる物語の方は、最後にプレイすることを推奨したいです。
エンディングを迎えた後、夏の終わりを迎えたような寂しさが残り、
読後感はなかなか味わい深いものがありましたから。



 宝来町で知り合う元気少女の純葉については、歳を重ねることで女性的な魅力を増していく、
成長っぷりが印象的なヒロインとして描かれていますね。
登場当初の、まるで少年のような元気っぷりを覚えていると、
大人になってからの色気はギャップがあって良い感じです。

 このヒロインのルートは、3つあるルートの中では最初にプレイする人が多いと思うんですが、
それだけに無難な内容になっていますね。
夏雪が主人公の従姉であり、この二人が結婚できる関係であるということが、
純葉ルートのストーリーにおいて、純葉の葛藤を描写する方向に有効に活かされており、
恋愛物語としてそこそこの盛り上がりを見せてくれます。
ただまあ、このルートは本当に無難というか…
他の二人がとにかく個性的で魅力が大きいだけに、少しパンチが弱いかもしれない。
とはいえ、彼女も充分に優しくて一途で魅力的なヒロインではあるので、好み次第ですけど。



 最後に那有多。彼女は都会の学校において、主人公のクラスメイトとして登場するキャラですが、
このキャラクターはなかなか新鮮な萌えがありましたし、シナリオも後味よくまとまっていて好感触でした。
 何と言っても、このルートは図式が分かりやすいですね。
主人公にとって姉が絶対であるのと同じように、那有多にとっての主人公も絶対であるという感じで。
なので、主人公にも那有多にも感情移入しやすく読んでいける。
那有多が屈折した状態から救われて、好ましい人間性へと変わっていく過程は見ていて気持ちがいいです。

 彼女は、主人公をいじめていた子供時代のことをとても気にしており、
そのことを冗談でネタにされるたびに落ち込んだような顔をするのが妙に可愛かったですw
これはなかなかに新鮮な萌え感覚。
当初は高慢ちきないじめっ子として登場し、主人公に対して高圧的に出るという第一印象から始まるわけですが、
後になって、本来持っていた優しさが引き出され、尽くす系ヒロインになってから思い返すと、
いじめっ子時代の振る舞いも可愛らしく思えてくるから不思議です。
「元いじめっ娘萌え」とでも呼ぶべきでしょうか、この可愛さはなかなかに新しい…

 その点を除いても、個別ルートにおける尽くしっぷりや優しさは非常に可愛かったですし、
接していてとても好感が持てる、いいキャラだと思います。
個人的に那有多に関しては、プレイ前はさほど期待していなかったので、
ここまで魅力的なキャラクターだったことは嬉しい誤算でした。


 この三人のヒロインは、雪影で登場した三人のヒロインと意図的にイメージを被せてあるので、
比較してみるとなかなか興味深いですね。
ことに那有多については、ライターの個性の違いが最も色濃く出ていて、
ほとんど真逆と言っていいキャラクターになっていましたし。
とはいえ、姉キャラであるメインヒロインが実に可愛いということはどちらも共通していますがw



●欠点など

 と、ここまで良い点を中心に長々と書いてきましたが、実のところ、この作品は欠点もかなり目につきます。
まず真っ先に感じるのが、短いということ。
ヒロインは雪影と同じ3人ではありますが、あの作品はメインヒロインの深雪に
いくつもルートを用意してあったため、ヒロインが少なくても
ボリュームや物語としての深みがしっかりとあって、味わい深い作品になっていましたが、
本作は3人いるヒロインそれぞれにルートがひとつずつあるだけなので、
比較するとかなり薄く感じてしまう。
少なくとも、夏雪ルートはいくつか別の結末を用意して欲しかったところです。

 次に、伝奇要素があまりにも添え物すぎる点。
一応、那有多や夏雪のルートで伝奇設定が顔を出し、ストーリーに絡んでくるのですが
物語をそれほど盛り上げてくれるでもないし、無くても作品が成り立ってしまうような状態なのは
さすがにどうかと思いました。
神樹にまつわる過去の情念が、主人公と夏雪の恋に関わってくるわけですが、
それ関係の展開は描写が浅い上にあっさりと終わってしまうから、感情移入が難しい。
もう少し伝奇要素を丁寧に物語に関わらせて、ラストで感動できるような展開になるよう生かしてくれても
よかったんじゃないかなあ、と感じてしまいます。

 それと、本作はややテキストが雑に感じました。
かなり急いで書いたんじゃないか、と思えるような描写の適当さが感じられまして、少しどうかと思った。
衝撃の事実が告白されるシーンなども、あっさりしすぎていて重みがありませんし。
というか、さすがに去年の10月末に出たフルプライス作品をメインで書いたライターに、
さらにまた半年余りでフルプライスの新作を一人で書かせるというのは、かなり無茶だったのでは。
もう少しじっくり腰をすえて制作して、丁寧な作品に仕上げて欲しかったな、と感じます。
キャラは相変わらず魅力的だっただけに、もったいなく感じる。

 あとは好みの問題になりますが、
基本的に甘やかされゲーであるため、主人公が劇的に活躍したりする場面は少なく、
カタルシスを味わえることがほぼないことと、親友のキャラがやや滑り気味なことが個人的には気になったかな。


●まとめ

 そんな感じです。
まあ、欠点も少なくないとはいえ、基本的には、魅力的なキャラとの触れ合いで癒される、
なかなかの出来の萌えゲーでした。
正直言って物語としての面白さには欠けるため、そこが残念ではあるんですが、
キャラクターの出来は実にいいですから、雰囲気を楽しむ作品としては見所があります。
個人的には、エンディングを迎えたときの感覚が、
想い出に満ちた夏が終わってしまったかのような寂寥感があって、結構好きな作品ですね。


↓以下、ネタバレ全開で雪影との比較などをダラダラと。夏雪だけでなく雪影のネタバレも含みますので要注意。


































 雪影と比較すると、とにかく毒がないです、本作は。
上でも触れましたが、象徴的なのは那由多でしょう。
彼女は雪影における成美に相当するポジションのキャラになるんでしょうが、
登場当初こそ成美同様に主人公を迫害してくるものの、中盤以降はうってかわって優しい性格になり、
主人公に対する恩と恋心から、ひたすら一途に尽くしてくれる、とても可愛い女の子として描写され、
質の高い癒し系ヒロインに仕上がっていました。
およそ可愛気などひとかけらも無かった成美と比較すると、ヒロインとしては真逆と言ってもいいくらいです。
成美との描写は今でも思い出すと胸くそ悪くなるものがありますが、
那有多の可愛さに触れていると、そういったものも一気に癒されていくような気分になります。

 まあ、姉のいる田舎の心地良さと、日常を過ごす都会の窮屈さ、その二つを対比的に描くという
ことにおいては、成美の方が役割を果たしているとは言えますが。
でも、那有多はライターの個性が実にいい方向に出ていて、雪影に対する夏雪という作品の存在意義として
一番大きい物を感じた次第です。


 純葉は、雪影の紫子のポジションに相当するキャラですが、彼女だけは雪影を意識したキャラ設定が
やや裏目に出ている部分があるかなと感じます。
何しろ、紫子は成美と違って元ゲーでも相当に魅力的であった上、
純葉と紫子はヒロインとしての魅力が「幼い頃のやんちゃさと、成長してからの女性的魅力のギャップ」
という、ほぼ同質のものでしたから。
そして、その魅力に関しては、比較すると紫子の方に軍配が上がる、と個人的には感じます。
それゆえに、純葉はヒロインとしてパンチが欠けているように感じたのかもしれないなあ、と思います。
那有多ほどとはいかないまでも、新しい魅力が欲しかった。

 しかし、この作品はヒロインがみんな主人公に対してひたすら一途ですが、
純葉の主人公に対する尽くし方は少し考えさせられるものがありました。
彼女からの想われ方は「重いなあ」と感じてしまう男の方が多いんじゃないかなあ、と思うんですよね。
やると決めたらちゃんとやる性格をした、この主人公だから良かったようなものの、
主人公がもっとヘタレなキャラだったらもう2、3は悶着が起こりそうな展開だったと思います。

 最後に、夏雪に関して。
このゲームで一番印象に残ったのは、精通した従弟を祝福してやった上に、そのパンツを洗ってくれるシーン。
あのシーンはびっくりした。
何気なく精通の精液の匂いとかかいじゃうんですから、このヒロイン半端じゃないですw
身体が男になった瞬間を見届けてくれた上に、精通のきっかけも夏雪が布団の中で抱きしめてくれたことで
ドキドキしたことによるものだし、もうこの主人公は夏雪に大人にしてもらったようなものですから
そりゃあ絶対的な存在になってしまうというものですよね。