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houtengagekiさんの戦極姫3 ~天下を切り裂く光と影~の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
戦極姫3 ~天下を切り裂く光と影~
ブランド
げーせん18
得点
85
参照数
7026

一言コメント

このシリーズも3作目を数え、SLG部分の練り込みは円熟を増して遊びやすくなり、また合戦部分の改良によって戦術的にも格段に面白いものになり、ゲームとして確実な進化を遂げていますね。また、CGの出来は過去作とは比較にならない安定度で、過去作のように塗りによって原画が台無しになっていることがほとんどない。キャラクターにしても、内面も可愛く描写されていて萌え度が高く、エロゲーとして胸を張って良作と言えるものになったと思います。しかしながら、シナリオはイマイチ戦国モノとしての醍醐味に欠ける内容で、以前に比べると無難すぎる。このシリーズならではの個性が物語から失われている気がしたのが残念な点ですね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 今回は、2以前からキャラやシナリオが刷新され、新作と呼ぶに相応しい変化を遂げていたと思います。
特に、以前は毛利三姉妹が猫キャラだったり、戦国時代と関係ない変なオリジナルキャラがいたりしたのが、
今回はそういう要素が一掃され、ヒロインがほぼ全員史実に存在した人物をもとに作られていて、
戦極姫の良さである、戦国武将の女性化というキワモノ的なネタを使った作品でありながら
わりと真面目に戦国をやっている、という部分を際立たせようという意図が感じられ、
これは過去作よりもさらに戦国ロマンが楽しめる良作になっていそう、と大きな期待を抱いてプレイしました。

 で、結果的には、満足な点が半分、残念に思った点が半分、という感じでしたが…
とりあえず、要素別に感想を書いていこうと思います。



・SLGパートについて

 1~2と同様、天下統一ADVANCEをベースにした戦略SLGになっていますが、
様々な改良が施され、SLGとしての戦略性は向上していて遊びごたえが増しています。
SLGとしてのゲーム性の根幹部分は変わりませんが、細かい部分の改良点がかなり多いですね。
国内地図の情報の見やすさも改善され、地図上の武将の所属勢力の確認もしやすくなり、
ステータス画面が導入されたことによりキャラの育成も分かりやすくなっていますし。
それに、パラメータ強化アイテムの導入によってお気に入りの武将を大幅に強化することも
できるようになっていたり、キャラゲーのSLGとしての醍醐味も確実に増していました。

 何よりも大きな変更点は、大きな改良が施された合戦パートですね。
合戦自体の基本ルールに大きく手が加えられ、1~2では1部隊が敗走することで決着がついていたのが、
今回は決着条件が、敵の大将を撃破するか敵陣を突破することになったため、戦術性は大きく向上しています。
特に、攻城側が敵の大将を撃破すれば、攻城戦なしで城をゲットできるようになったのはゲーム性に大きな影響を与えていますね。
野戦でうまくやれば、固い城でも一回で落とせるというのは爽快感があるので良い仕様です。
 加えて、左右の部隊にも攻撃できるようになったことや、行動順が智謀の高い順になったことなども
単純に合戦を面白くしてくれています。
そして、城ごとに合戦場の広さが三種類設定されており、展開できる部隊数が変化するのも面白い。
合戦場が小さい拠点には精鋭の2部隊を送り込もう、とか、
合戦場が広いから兵数よりも頭数を優先して送り込もう、とか、戦略的に考えて攻める楽しさが生まれていて
試行錯誤する楽しさは前2作よりも明らかにアップしていると言えます。

 合戦の仕様はどちらかというと天下統一Ⅱ系のそれに近いものになっていると思います。
より細かく言えば、Ⅱの合戦に大幅に近づけながらも、初代天下統一系の合戦の良い点をうまく残し、
ⅠとⅡの合戦のいいところをミックスした物に仕上がってるわけです。

 今作は、大雑把に言えば合戦をⅡ仕様にしつつ、SLGはⅠ仕様のまま、といった感じのゲームになっていたと感じました。
そういう仕様にしたのは良い判断だと思います。
仮にSLG部分を完全にⅡ仕様にしたら、SLGとして複雑すぎますし、1プレイに時間かかりすぎますから、エロゲには向かないでしょう。
ただ、合戦はⅠよりもⅡの方が確実に面白い。
つまり、面白い合戦+サクサクしたSLGという、まさにいいとこ取りのゲームになっているわけですね。

 天下統一をベースにしたゲームを、ここまで丁寧に改良してあれば、面白くないはずがない。
天下統一らしい詰め将棋的なゲーム性が存分に満喫でき、またキャラゲーとしても質が高いため
ゲーム性が肌に合えば没頭して何周も遊び込める、中毒性の高いゲームに仕上がっています。
もともと完成度の高い作品を、よくぞここまで改良したと賞賛したい。
3作+家庭用で少しずつ重ねてきた改良が、ここに良作として結実したと言っていいでしょう。
バージョン1.03のパッチを当てればバグもほぼ無くなりますし、またパッチのリリースも速かったのも褒めたいところです。


 今回はストーリーモードに限ればクリア条件も石高だけというシンプルなものになっているので、
細かいことを考えなくても大丈夫になっていたり、
一定の条件を満たせば、ユニーク武将が切腹せず必ず降伏してくれるようになるモードが追加されたりと、
2以前で感じていた不満点がほとんど解消されていたのも嬉しい。
不満点があるとすれば、まだまだ情報が見づらいと思えることが多い、ということでしょうか。
国内地図で、どの城がどの勢力のものなのか、程度のことは表示しておいて欲しい。
同人SLGの「戦国史」ぐらいの見やすさは望みたいですね、商業作品なんだし。
そろそろ次回作では画面レイアウトも根本的に刷新して、現代的なものにしてくれてもいいんじゃないかなと思う。



・ADVパートについて

 魅力的な女性化武将たちとのイベントが楽しめるADVパートについても、今回は実に楽に楽しめますね。
特に、2の大きな問題点であった、サブヒロインイベントにランダム発生の物が多くてイベント回収が運次第だった
ということに関して、今回は発生条件がランダムな物はほとんど無くなっているようで、
ストレスをためることなくイベントを楽しんでいけるようになっていて助かります。

 メインシナリオのイベントを追うのも、SLGを進めるだけでほとんどOKというつくりになっているので
普通にゲームを進めているだけでシナリオも自然に楽しんでいけるから、フラグ管理とかに気を使わずに
気軽に楽しめる設計なのはありがたいですね。


 ストーリーモードで攻略することになるメインヒロイン勢のシナリオに関しては、
賞賛したい面と、残念に思った面が同じくらいありました。
まず、純粋にエロゲとして見れば、シナリオの出来は以前に比べて均一化されているというか、
ルートによる出来の差がさほどなくなっており、キャラクターの内面描写もなかなか丁寧で、
キャラ萌えしたいなら充分な出来に仕上がっていると思います。
毛利家の三姉妹や島津四姉妹などは実に可愛らしくて、イベントを見ていると和みますし、
上杉謙信の孤高っぷりや武田信玄の包容力のある当主ぶりは、ヒロインとしての気高さが表現できていて、
恋仲になってデレた彼女たちとのエロシーンを迎えると、何とも言えない達成感が味わえて気持ちいい上、
実に愛しく思えますし、頑張って攻略した甲斐があったと感じさせてくれます。
 まあただ、シナリオの出来にバラツキが全く無いわけではなく、
三好・織田ルートをはじめとしたキャラ描写の上手いルートもあれば、
足利ルートのようにカタルシス皆無の展開の上にキャラに魅力が無い、という酷いルートもありますけどね。
とはいえ、1の頃に比べれば、平均的な質は確実に良くなっていると思います。

 反面、以前のシリーズに比べると戦国モノらしさに欠けていて、それが残念に思った点です。
まずキャラについてですが、ヒロインたちは戦国武将を女性化したキャラクターのはずなのに、
出来の良い一部のキャラを除くと、その戦国武将ならではの何かを感じさせてくれることが少ない。
単に、戦う女の子とのラブストーリーを読んでるだけ、みたいな気分にしかなれない。
ことに、そういう傾向は、サブヒロイン勢に顕著でした。
前作に比べれば、主人公の性格のブレもさほど感じられず、ヒロインたちの描写もなかなか丁寧で
萌えるだけなら充分な出来のイベントが増えていて、エロゲとして見れば平均的な質は上がっていますが
根本的に題材を活かせていないのは残念なところです。
せっかくマイナー武将も大量に女性化して扱っているのだから、史実ネタを上手く織り込むなどして
戦国武将らしさを感じさせてくれるような描写がもっと欲しかった。
まあ、サブヒロインに関しては2でもそういう傾向があって不満だったのですが、
今回はさらにその不満点が大きくなったという感じですね。

 シナリオに関しても、不満点は同じようなものです。
例えば、1~2の武田、大友シナリオなどは史実ネタをストーリーに効果的に盛り込むことで
しっかりと戦国時代を舞台にしたお話らしい重厚感が出せていたと思うのですが、
今作のシナリオにはそういったセンスがイマイチ感じられない。
戦国でなく、例えばファンタジー世界観の国盗りモノだったとしても成り立ってしまうシナリオの方が多かったですから。

 例を挙げると、毛利ルートは仲の悪い三姉妹が主人公とのラブコメを通して
絆を再確認していく話として、なかなか面白い物語に仕上がっていたとは思いますが、
毛利家の話なのに厳島の戦いも月山富田城攻めも、三矢の教えすらもありませんでしたから
正直、戦国もののシナリオとしては拍子抜けした感がありました。
1の時は井上一族粛清なんていう比較的マイナーなエピソードまで盛り込まれていたのに、
今回はほのぼのしすぎていて、萌える以外に楽しみようがありません。

 新規追加された三好ルートにしても、松永久秀というツンデレ腹黒ヒロインの掘り下げはよくできており、
三好長慶の苦労人らしい良い人っぷりも萌えますし、
元ネタのイメージに近いキャラ描写も比較的できているルートでしたから、
キャラゲーとして見ればかなり優れたシナリオですが、
でも、京を舞台に細川氏や将軍家を巻き込んだドロドロの権力闘争などは描写されておらず、
三好家らしいシナリオだったかと言うと、物語の面では少々物足りなさが残るところでした。

 シナリオに戦国らしさが感じられるのは、本能寺がストーリーのターニングポイントとして設定されている織田ルートや
当主キャラクターが戦国キャラらしく立っている上杉、武田ルートなどぐらいでしょうか。
特に織田ルートはシナリオのボリュームがあからさまに他に比べて大きく、描写も良くて、
本能寺の際の各キャラの内面描写にはグッとくるものがあり、シリアスに盛り上がってくれて面白かった。
光秀の葛藤といい、信長の最期といい、よく表現したものだと思います。
それに、織田信行という妹キャラについて、最初は存在意義に疑問を持っていたのですが、
終盤のイベントでは重要な位置を占めるキャラクターとして実に上手く使われており、見ていて感心してしまいました。
全体的に、このルートは各キャラが魅力的かつ役割をしっかり果たしていて、かなり良い出来だと思いました。

 上杉、武田は前述したようにヒロインとしての出来が良く、謙信・信玄が元ネタの武将のイメージを保ちながら
女性化されている感じがするため、織田ルートほどではないにしろ戦国らしさを楽しめるルートになっています。
ただ、この2ルートに関しては、上杉・武田両家のライバル関係がイベントでまったく表現されていないのが
かなり物足りなくもあり、やはり残念な点も内包していますが…


 純愛・萌え方向の完成度は平均的に上昇したものの、戦国モノとしての質は低下した、
というのが自分がプレイして感じた印象です。
特に今回、自勢力と他家が絡んだイベントが圧倒的に少なく、川中島や厳島をはじめとした、
各大名の代表的な合戦すら描写されていない。正直言ってこれが実に寂しくて、戦国的な盛り上がりに欠けています。
まあ、ゲーム部分との兼ね合いから、他家が絡むようなイベントを導入するのを避けたのかもしれませんが…
例えば、川中島などがイベントとして実装されていたとして、
上杉家でプレイして武田家に攻めこんでイベントを起こそうと思っても、
武田家の重要武将が他勢力によって戦死させられていたせいで発生しなかった、
などということも当然ありうるわけで、フラグ管理が難しいということもあるでしょうし。
ただ、だからといって合戦イベントを表現しない方に走ってしまっては、
むしろゲーム性がシナリオを表現するにあたっての足かせになってしまっているということになるわけで、
この作品のコンセプト的に本末転倒になってしまうのではないでしょうか。
シナリオとゲーム性が相互にゲームとしての面白さを高めあっている状態が理想的だと思いますし、
そこは妥協せずに頑張って欲しかったなと思います。

 ていうか、足利家ルートなどは主人公勢力が来るまで敵勢力を動かさないように設定できているんだから、
他のルートでもこうすれば良かったのに…

 まあしかし、その点を除いても、史実ネタの少なさは不満として残りますが。
本能寺だけでなく、桶狭間や一向一揆との戦いが描写されていた織田ルートは頑張っていたと思いますが、
他のルートでもこのくらい戦国らしさを感じさせて欲しかった。
ぶっちゃけ、織田家の話は、他の戦国ゲームや、小説やドラマ等の色々な媒体で語りつくされてもいますし、
むしろ地方の大名の話で史実ネタを織りまぜてくれた方が新鮮でいいんですけどね。
2の大友ルートなんかは、特にそういう醍醐味があって面白かったですし、
そういったマイナーどころを取り上げてくれるあたりも、戦極姫シリーズの良さだったと思うんです。
マイナーな武将を色々と登場させてくれていることも含めてね。

 何が言いたいかというと、ゲームとしての完成度がここまで高まった今だからこそ、
1および2において評価の高かった武田・上杉・大友・毛利ルートを担当されたライターである
Oじろー氏に復帰してもらって欲しいです。
あの人ほど戦国ネタを活かしたエロゲシナリオを上手く書ける人は自分の知る限り他にいない。
正直、3が過去作に劣っている点があるとすれば、シナリオの戦国モノとしての重厚感、その1点だけなのです。
それを解消できるOじろー氏の起用を心から望みたい。
そうなれば、このシリーズは良作から名作にまで進化できる可能性を秘めていると思うのです。
1ルートだけでもいい、Oじろー氏の担当ルートが、次の戦極姫には是非欲しいです。



・グラフィックおよびエロシーンについて

 CGの出来は、過去作を知っている身としては驚くほど安定しています。
過去作では塗りが原画を殺してしまっていることがかなりありましたが、今回はちゃんと商業レベルの塗り。
ことに上杉家、大友家、毛利家の絵に関しては、原画の良さを引き立てていると言っていいほどの出来ばえですね。
まあ、原画陣の人数が多いため、質のバラツキはどうしてもありますが、好みの問題と言えるレベルに
落ち着いてはいると思います。

 エロは、メインヒロイン勢もサブキャラも、ほぼ純愛系の和姦ばかりですね。
一部、タコに絡みつかれたりレズヒロイン二人に混ざっての3Pとか変化球も色々ありますが。
 ただ、足利家ルートだけは別で、陵辱シーンが大多数を占めています。
このルートの陵辱シーンはかなりの数あって、なかなかそそるものがあるのですが、
だいたいは主人公によるものばかりで、内容も快楽堕ちばかりで変化に乏しく、
ワンパターンだった感があります。
1の陵辱シーンのように、敗れた女性君主が敵兵に輪姦される、みたいなシーンなどもあったほうが
戦国らしさが出ていて良かったと思うので、好みの問題かもしれませんがこの点も過去作に劣る感じがします。



・まとめ

 3はエロゲーとしては確実に1、2と比べて優れた作品へと進化を遂げており、
細かな不満点は依然として残るものの、賞賛されていい出来だと思います。
特に、ゲーム性の練り込み具合や、キャラクターの萌え度の高さは1~2と比べて明らかな進化。
魅力的なキャラクターが実に多く、イベント回収で飽きることがありませんでした。

 この出来ならおそらく、だいたいのプレイヤーは、3作を全部プレイすれば3が最も良い出来だと感じると思います。
ただ思うのは、それだけに、1や2が内包していた光る部分すらも
3に劣るものとして埋没していってしまうとしたら寂しいなあ、と、個人的には複雑な思いがあります。

 とにかく、もう少しSLG部分とシナリオに連動性を持たせて欲しいということと、
シナリオからもうちょっと戦国らしさを感じさせて欲しかった。
個人的なことを言えば、正直、ゲームとしての出来は過去最高ですが、思い入れは2の頃よりもかなり低くなってしまいました。
1~2の良かった点が自分は大好きだったのですが、それが今回かなり失われていると感じたためです。
次回作もたぶん出るのでしょうが、とにかくシナリオについて、萌え意外の部分の底上げを願いたいものです。

 あと最後に余談ですが、足利家ルートについて。
他のルートは好みの問題だからともかくとして、このルートだけはストーリー展開が本当に酷いと思います。
ていうか、義輝エンドは何を考えてあんなラストにしたのでしょう。
途中で分岐する三好長慶、松永久秀のサブエンディングの方が後味が良いっていうのはどうかと思います。

↓そのへん、ネタバレを含めて突っ込みたいので、ちょっとスペースを開けます。





























 高橋椿という黒幕的なキャラクターがいますが、彼女は長慶エンドなどでは悪役として消滅するんですよね。
正直、義輝エンドもそのようにすべきだったんじゃないかと思います。
彼女に主人公も義輝も洗脳されたままで、なあなあなハッピーエンドもどきの終わり方では後味が悪いだけです。
このせいで、足利義輝というキャラクターにもひとかけらの魅力も感じられなくなってしまっている。
あれだけ史実で魅力的な存在感を持っている人物だというのにです。
最後に洗脳が解けて、改めて真に心を通わせた主従となって終わり、みたいにしてくれればなあ。
今回も家庭用に移植するなら、そういった後味のいい別エンドは導入してもらいたいです。
それだけでも大きく化けるルートだと思うので。
今のままでは義輝や幽斎が報われないキャラすぎる。

 あと話は逸れますが、三好長慶が本当にいい人で可愛すぎるので、
移植版では恋人になれるエンドを作って欲しいw
姉的な存在としても良いキャラですが、やはり結ばれたいなと。
こんなに守ってあげたくなるような姉キャラは久々に見ました。
個人的に本作で一番気に入ったキャラですねー、
武将としてのりりしさと精神的脆さのバランスが、絶妙な萌えを生み出していますよ。