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houtengagekiさんのCROSS†CHANNEL ~In memory of all people~の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
CROSS†CHANNEL ~In memory of all people~
ブランド
サイバーフロント
得点
99
参照数
9177

一言コメント

PS2版・PSP版CROSS†CHANNELに「ANOTHER STORY」と「AFTER STORY」を追加したもの。追加されたエピソードは、ちょうどエロゲでいうファンディスクみたいなプレイ感覚でした。味わえるのは感動ではなく、感傷。CROSS†CHANNELが好きならば、プレイして損はない内容だと思います。そしてもちろん、CROSS†CHANNELを初めてプレイする方にもオススメな商品ですね。 長文感想は追加エピソードについてのみ触れています。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※これはPC版等のCROSS†CHANNEL本編をクリア済みであること前提で書かれた感想なので、
本編未プレイの方は読まないほうがいいです。
追加エピソードのネタバレについては、ある程度自重しています。


 本編はPS2版等、他の機種で発売されたコンシューマ版とほぼ同等の内容です(追加CGは少しある)。
この本編クリア後に、「ANOTHER STORY」と「AFTER STORY」がおまけモードに追加され、プレイ可能になります。

このレビューでは、その2つの追加エピソードについてのみ触れようと思います。


 ANOTHER STORYは「CROSS†'CHANNEL」というシーンタイトルが付けられていますね。
要はファンブックに掲載されていた外伝をゲーム形式でプレイできるようにしたものです。
通称トモダチの塔。
人の消えた世界、通称「B世界」に元々いた方の黒須太一を主人公に、
あの世界の過去に何があったかを知ることができるエピソード。
本編において残された謎…主に、世界に関する謎について多くのことが明らかにされるエピソードなので、
(例えば初日に美希が掃除していた血、霧が発見した白髪の老人の死体、などの謎について答えが明かされます)
ファンブック未読の方には価値が大きいでしょう。
読んだことのある方にとっても、ボイスつきで楽しめるというのは大きいでしょうし、個人的にも嬉しかった。
黒須太一という人間について、その狂気について、より深い描写が楽しめるのも大きいですね。
彼に対する思い入れがより深まります。

 このエピソードがないと、本編においてやや意味の通らない描写もありましたから、
これが収録されたことで、ようやくCROSS†CHANNELという作品はゲームとして完成をみた気がします。
もともと、PC版の製作時に削除されたこと自体がおかしかったですからね、このエピソードは。


 AFTER STORYの方は、しっかりとこの360版用に書き下ろされたものです。
専用のOP・EDムービーも付いており、テキスト分量もなかなかのもので、
本当にファンディスクをやっているようなプレイ感覚ですね。
内容は大きく分けて2つのパートから成っています。
まず桜庭浩の視点で描かれる、放送部員たちが黒須太一がいた頃の思い出を語っていくエピソード。
そして、太一の視点で描かれる「幸せな幻」とも言うべき一週間。

 分量的には、基本的に思い出として語られる、太一による女性キャラたちへのセクハラを中心とした
かなりエロ方向にお馬鹿なドタバタエピソードが中心になっていますね。
なので、後日談を期待している方には少々物足りない可能性が高いです。
一応、設定的には本編の1年後であり、各キャラクターのその後の姿は軽く描かれてはいますが、
本当に軽くって程度ですから。
方向性としては、かなりギャグに力が入っている感じなので、セクハラギャグが好きな方なら笑えるでしょう。


 とりあえず本編の謎について、新たに明らかになった事実などはありませんね。
しいて言えば、本編エピローグ後、太一は一人きりの世界に留まったままである、
ということが確定しましたが、そのくらいです。
それに、物語としても、本編のように心が震えるような感動が味わえることは無かった。
メッセージ性が無いからです。
CROSS†CHANNELという作品は、もうあの本編単体で完成した物語であり、
新たにプレイヤーに向けて伝えるべきメッセージはもう無いということなのでしょう。

 そのかわり味わえるのは、ちょっとした感傷です。
描かれているのが思い出中心で、放送部員たちとの触れ合いの日々の楽しさ、
それがどれだけ幸せな思い出だったか、その再確認のようなお話ですからね。
 そして太一視点での1週間、特に屋上でのエピソードは、
プレイヤーに向けて、各ヒロインや友貴、桜庭との触れ合いを追体験をさせてくれたような感じがして、良かったです。
幻のような幸せということで、ちょうど本編における1周目「CROSS†CHANNEL」に
近い性質があったと思います。

 しかし太一視点のヒロインとのエピソードが、部員たちの思い出話と内容的にかぶっていて
少しひねりを入れたようなものになってただけなので、2度同じ話を読まされた感じがしたのが
少々しつこく感じたので、そこは少しどうかと思いましたけどねw
純粋にお話として見ると、決して質が高いと言えるものではなかったのが惜しいところ。
本音を言えば、少しくらいは感動させてくれるような展開も欲しかった。
あとは、曜子ちゃんを大きく扱ったエピソードが無かったのが少々不満かな。
せっかく子守唄という小道具を出してきたのだから、それにまつわる二人の幼い頃の話とか入れてくれればよかったのに。

 でも、エンディングを迎えたときは本当に感傷的な気分に浸ることができて、すごく良い気持ちでした。
本編をクリアしたときの余韻とはまた違った読後感。
ああ、これでもうCROSS†CHANNELという物語は改めて完全に終わってしまったんだなあ、と
胸にしみわたるような、寂寥感に満ちた感慨がありました。
プレイヤーが見ることができるのはここまでで、これ以後も、あの2つの世界で、
彼らは人生を送り続けていくことでしょう。

 このAFTERの価値は、個人的に思うに、あのCROSS†CHANNELの世界に、改めて別れを告げることができるということです。
それも、本編の時とはまた違った、思い出に浸りながらの、穏やかな別れ方をすることができます。
寂しいけど、とてもスッキリと終えられる。
CROSS†CHANNELが好きなプレイヤーならば、この別れの気持ちは味わっておいて損はありません。


 個人的には、感傷的な気分を高めてくれたエンディングテーマにも賛辞を送りたい。
エンディングテーマと言ってもCROSSINGではなく、AFTER STORYのEDである「時間の雲」の方です。
その時点でプレイヤーが味わっている感傷をさらに胸に染み渡らせてくれるような、
切なく盛り上げてくれるメロディが実に良かった。終わりにふさわしい曲だったと思います。
歌詞はあまり印象に残りませんでしたが、曲は文句なしに良かった。
CROSSINGのように歌詞をロミオ氏が書いてくれてたら最高だったと思うので、少々もったいないですが。


 しかし、この360版、メニューを開くとテキストの既読率が%表示で確認できるのですが、
通してプレイしてみたところ、本編の分量が全体の80%程度で、ANOTHERとAFTERが残りの20%程度だったのですが
これ狙ってやってるんでしょうかね。
なんとなく、この数字の符号にも感傷を覚えたりもしました。

まあ要するに、ANOTHERとAFTERのボリュームはそんな感じです。

 最後に、点数についてですが、このレビューで付けている99点という点数は
本編を含んだこの商品全体に対する点数でして、追加部分単体だと80点というところです。


 しかし本編について改めて思いますが、このCROSS†CHANNELは18禁でないと充分に描ききれない部分が多く、
コンシューマだと大事な部分が結構カットされてしまっているので、
プレイしていてもどかしく思えてしまうことが多いです。
特に、霧ルートで主人公が自分の過去を語るシーンや、終盤の送還パートにおける曜子ルートなどが
描写に重みがなくなってしまっていたり、エロシーンが無いせいで流れが意味不明になっていたり、
そのあたりがもったいない。
ゆえに、どうしてもコンシューマ版にはPC版より少し低い点数を付けざるを得ないです。
できれば、この360版はPCに逆移植してもらいたいですね。
CROSS†'CHANNELが収録されているこれが18禁で改めて発売されて、ようやく
このCROSS†CHANNELという作品は完全な形になるだろうと思いますから。