ものすごく出来のいい萌えゲー、という印象。星空、天体観測というモチーフを生かし切った構成力は素晴らしく、物語を通して星空自体を好きになってしまうような、そんな作品でした。シナリオの根幹にあるのは家族愛なので、暖かい感動を味わいたい方に最適の作品かなと思います。商品としても、大ボリュームの本編に加えてFDも入ってるので、このCOMPLETE版はお買い得であることは間違いないですね。
『星空のメモリア』の本編とファンディスクのセット商品ですね。
これが発売されるまで、本編は中古価格が高騰していましたから、
良い評判を聞いて購入しようとしてもなかなか手が出しづらかったわけですが、
そういう商品は、こうして再販してくれると後発のユーザーにはありがたいことです。
最近は高騰してる作品を再販してくれるメーカーが多くなってて良いですね。
そんなわけで、本編、ファンディスク、それとオマケで付いてきたエピローグドラマCDの
感想をそれぞれ書いていこうと思います。
●本編『Wish upon a shooting star』について
非常に良くできている作品です。
まず、とにかく丁寧に作られてる作品だなと感じました。
プロローグからキャラの魅力をじっくりと引き出しながら自然と感情移入させてくれるし、
恋愛描写、過去エピソードの描写などもしっかりしていて深みのある話になっているし
終盤の盛り上がりもかなりのもので、萌えも物語も存分に楽しめる出来。
設定にはファンタジー的要素もかなり混じってますが、物語の根底にあるのは家族愛であり、
暖かく感動させてくれるお話になっています。読後感がとてもいいですね。
兄妹愛、家族愛などを登場人物の過去や成長を通して深く描いてくれているから、
そういうネタに弱い人なら、涙腺を刺激されまくる質の高いストーリーを楽しめます。
個別ルートの終盤では読んでいて感動できるのに加え、
クリア後にも感慨がじわじわ広がっていく感じがして、余韻が味わい深いのが良かったです。
主人公もヒロインも心理描写が微細でテキストが丁寧なため、キャラクターの想いの深さが
プレイヤーの心を強く打ってくれるし、その意志がすごく尊いものに感じられる。
そのため心に残りやすく、良い余韻を生んでくれていますね。
構成も良く、天体観測や星空を各キャラの過去や背景設定に上手く絡めてあって、
星空というモチーフを印象づけられつつ、ヒロインへの感情移入もしやすくなっています。
明日歩、衣鈴といったヒロインのルートではその点が光っていて、非常にまとまりが良かったと思います。
個別のシナリオについては、たいていはヒロインの成長物語として描かれていたなと感じます。
どのルートも最終的にヒロインの抱えるわだかまりを乗り越えさせることで
感動させてくれる話になってるから、開放感があって気持ちいい。
凄いと思ったのは、わだかまりを抱えたヒロインの弱さが、
見てて非常にやきもきさせられるように出来ていたことです。
見てて自然と、もっと甘えていいのに、という感じに、もどかしく感じられる。
そのため、それが克服されて主人公と結ばれたときの爽快感と充実感が大きいんですね。
シナリオの持って行き方が上手いです。
キャラクターの出来もいいですね。
まず主人公からして良い。やや思考回路が理屈っぽく、作中の言葉を借りると「頭でっかち」ですが、
ヒロインのために頑張れる人間で、好感が持てますし、いい意味で諦めの悪さがあり、見てて応援したくなる。
何より、ここぞという場面で本当にいいセリフを吐くのが良いですね。
ヒロインの抱えるわだかまりを一気に解消させてしまうようなセリフは、
見てるこっちも惚れてしまいそうなぐらいです。
ヒロインは既存のエロゲによくいるタイプばかりで、キャラとしての目新しさはないものの、
心理描写が非常に丁寧であるのに加え、どのヒロインも過去のエピソードを深く作りこんであるために
人物としての深みが植えつけられているので、マンネリ感はありません。
しっかり魅力的なヒロインに仕上げてあったと思います。
ところで、この作品は主人公たちの親世代のキャラクターが多数登場するのですが、
この大人たちの人物像がしっかり作り込まれていたことが、この作品の大きなポイントだと感じました。
主人公やヒロイン達と同様に、その人間模様や生き様が過去エピソードとしてしっかり描かれているので、
主人公達の世代の人間関係を複雑かつ味わい深いものにしてくれています。
例えば、主人公の家庭環境の複雑さはルートによってはストーリーの根幹に関わってくる上、
義理の母である詩乃との関わり方の描写は、主人公の性格上の問題点を描写するとっかかりにもなっていますし、
家族愛というテーマを描く上で重要な役割を果たしていますね。
他にも、大人たちが魅力あるキャラになっていないと無かったであろう感動が、
この作品にはたくさんありました。
そして何より、こういう大人キャラ達を、描写の薄いサブキャラではなく、
一個人として強さや弱さ、過去の傷などを抱えていることを丁寧に描写して作りこんであることで、
「見守るポジションの大人キャラ」によくありがちな、
大人の達観した視点から感じられる鬱陶しさが無い。ここがとても良かったと思います。
プレイヤーの視点、つまり主人公の立場から見て、親しみと大人らしさを同時に感じられるから
終盤、家族の情を感じさせてくれるシーンにおいて、その情を読み手も受け止めやすく、
素直に感情移入できて感動できる。
ここまで大人キャラの内面を作りこんである作品はなかなかありませんし、
それがこの作品をプレイして一番関心した点です。
家族愛の味わいに大きなプラスを与えてくれていますね。
ことに、実妹である千波のルートなどは、それのおかげで感涙モノの出来になってましたし…
大人たちの人間としての深みが、主人公やヒロイン達のキャラクターにまで
深みを与えてくれている気さえします。
そんなわけで、お話としては高品質なのですが、欠点もあります。
展開自体は共通、個別ともにきわめて平坦で、しかも描写が細かくてテキスト量がかなり多いため、
起伏の乏しいシナリオを長時間読まされることになるというのが少々キツい。
最後には感動が待っているとはいえ、日常のノリが肌に合わない人は最後まで耐えられないかも。
実際、ルートによっては冗長感がひどい物もあり、自分も全体的にはかなり楽しんでプレイできたものの、
途中何度か寝落ちしてしまったことがありました。
全体的にテキストにしつこさを感じることは多かったですし、もう少しスリム化して欲しかった…
あと、個人的にはこもも、こさめの巫女姉妹のルートは他に比べてイマイチ感情移入しにくかった。
共通ルートで感情移入させられていた要素、つまり主人公の過去や天クルの天体観測などのことが
この二人のルートのシナリオの内容にはさほど関係しないのが大きいですね。
主人公が部外者のようになりがちでしたから。特にこももルート。
星天宮関連の設定が物語の本筋において必要性が薄いっていうのもあるかな…
それでも名シーンなどはあるし、標準的な萌えゲーのクオリティは軽くクリアしていますけどね。
以下、特に印象に残った千波ルートと「展望台の少女」ルートに関して、個別に感想を。
千波ルートは前述した通り、家族愛の描写が深くなされていて、兄妹愛を描いた話としても
深い情を感じさせてくれて、そういうのに弱い人なら泣けると思います。
千波は普段、テンションがやたらと高くてウザ可愛いところが魅力ですし、
見てて明るい気分にさせてくれるヒロインですが、
ふとした拍子にしおらしい態度を垣間見せるから、その落差がシリアスシーンにおいて効いてますね。
馬鹿なところも可愛いし、保護欲を刺激される妹です。
ただし、兄妹での恋愛について、周囲の人間関係との葛藤や背徳感などを
描くつもりはないようで、そのへんは期待しないほうがいいです。
このルートはあくまで兄妹愛を描いた話であり、エロゲだから仕方なくエロ入れたっていう感じ。
こうしないとエロゲのルートとしての体裁が整わないから仕方ないのですが、
このルートに関しては純粋に兄妹愛モノとして完結する物語として見てみたかった。
おそらくトゥルー扱いである「展望台の少女」ルートに関しては、
ほとんど全ての伏線を回収しつつの大団円で、とても深い充実感を味わわせてくれて
締めくくりに相応しいクオリティだったと思います。
他のルートはどちらかというとヒロインの成長物語としての側面が強かったわけですが、
このルートは展望台の少女と同時に、主人公に関しても深く掘り下げられていく話ですし、
洋と少女の二人の間にある困難は、ややベタではあるものの感動を誘われる題材で、
この作品の特徴であるテキストと描写の丁寧さのおかげで、泣ける出来になっていますね。
このルートの終盤は本当に良い。
優しさゆえの残酷さや、強がりが崩れるときの描写などは、すごく涙腺を刺激される。
ヒロインと同時に主人公の過去が完全に救われるのはこのルートだけかなと思えましたし、
最後に配置されているのも納得の内容。
攻略順がある程度固定されているのも、「展望台の少女」と結ばれることの困難さを
システムとしても表現しているようにも感じられるし、
ルートを消化していくことで段階的に彼女へ近づいていくように感じられたりと、
ゲーム全体の構成も達成感を底上げしてくれていて良かったと思いますね。
ただ、このルートの最後は、見たかったシーンが省略されてしまっていたので少しだけ不満が残りましたが。
ちょっとツメが甘いですね、あれだけ過程のテキストは細かく丁寧だったのに、
一番感動できそうなシーンを省いてしまっていたのは。
終わり方自体は、見ているこちらが幸せな気分になれるような、きれいなものでしたから
余韻は素晴らしかったですけども、画竜点睛を欠いていたかなと感じられたのはやや惜しい。
最後に、この作品、BGMがかなり良質です。
単体で聴いて名曲、というよりは、シーンや作品の雰囲気を押し上げる効果のある曲が多く、
しんみりしたシーンや盛り上がるシーンでかかる曲は、卑怯なくらいこちらの涙腺を攻撃してくるw
絵もシナリオも良質な作品ですが、演出などもしっかりと作品の質を高めるために機能していて
とてもよかったと思います。
●ファンディスク『Eternal Heart』について
ここからは、展望台の少女について本編のネタバレを交えて書きますので、
本編未プレイの方はご注意を。
結論から言うと、ファンディスクとしての質は非常に高いです。
夢、メア二人のヒロインのアフターストーリーを中心とした構成のファンディスクですが、
ファンディスクの類にありがちな蛇足感がなく、
かゆいところに手が届いた感じの内容で、
本編でわずかに物足りなかった部分を物語的に補ってくれているし、
本編の感動をさらに増幅させてくれる効果も持たせてあって、素晴らしい出来。
本編で感動できた人ならばプレイすることを全力でオススメしたいです。
構成は、夢とメアの長編アフターストーリーをメインとして、
他のヒロイン5人のショートストーリーが入っています。
まず、夢アフターに関してですが、このシナリオでは
本編のレビューでも書いた、夢ルートのラストにおいて省略されていたシーンを
しっかりと補完してくれていまして、非常に良かった。
おかげで感慨が補充されて、本編へ感じていた少しの不満も消え去った。
この時点でファンディスクとして非常に空気が読めている内容だと言っていい。
とても素晴らしいと思います。
よって、上の本編レビューの夢ルートに関しての不満点は、このファンディスクを合わせて
プレイする場合、気にする必要のない不満点になる、ということになります。
このアフターストーリーでは、夢が洋に対して素直になっているシーンが存分に味わえますので
本編で感じさせてくれたもどかしさを完全に解消してくれますね。
本編では困難を乗り越えるまでのストーリーでほぼ終わってしまっていましたから、
二人がお互いに甘え合う姿を見せてくれるのはとても良いです。
見てて充実感でいっぱいになるし、幸せな気分にもなれる。
それにメアも含め、それからの未来も幸せなものになるだろうと感じさせてくれる三人の姿は
この作品のテーマである家族愛の集大成と言っていいくらいの物で、
見ているこちらにも本当に暖かな気持ちを与えてくれました。
おかげで、とてもすっきりと気持ちいい気分で、この物語を読み終えることができた。
「幸せな後日談」を描いたアフターストーリーとしてはエロゲ全体で見ても稀有と言っていいぐらい、
本当に素晴らしい出来です。
もう一本の長編ストーリーである、メアのアフターについては、
本編のメアルートがオマケ程度の内容であったこともあり、
それを補うかのごとく、イチャラブ成分が濃かったですね。
時系列的に考えて、夢アフターよりもこちらを先に読んでおいたほうが良いようです。
しかし、本編のメアルート同様、やはりこれもメアルートでありながらメアだけの話ではないんですよねw
本編で登場しつつ投げっぱなしだった「飛鳥伊麻」についての物語も同時に描かれますから、
感慨が分散しがちな内容になっていたのがやや残念ではあります。
まあしかし、メアとの恋愛描写はとても微笑ましく癒される出来になっていました。
本編でメア分が足りないと思った方は、このアフターで存分に補充できることでしょう。
ショートストーリーに関しては、明日歩や千波の物は本編の感動を増幅してくれるような
良い出来になっていますね。ほかのヒロインの物も、まあ及第点の出来で、
本編後のひとこまを垣間見たい方には嬉しい内容の物が多いです。
何はともあれ、2本の長編アフターも、ショートストーリーも、
プレイすると本編への印象まで高くなるのが素晴らしいと思います。
夢アフターが突出して素晴らしいと感じましたが、
全体的に見てもファンディスクとしての出来は相当なものでしょう。
まあしかし、このFDは最初から作るつもりだった物なんでしょうね。
本編で、伊麻に関する別に必要性のない伏線をわざわざ張って放置していたあたりからも、
それは伺えます。
●ドラマCD『光のリレー』について
最後に、このCOMPLETEに付属してきたドラマCDについて。
内容は、ファンディスクのメアアフターの後のエピローグドラマということで…
アフターシナリオの更にアフターっていうのも凄い話ですね。
メアルートは夢が幸せになれるかどうかが不透明であることが、どうしても引っかかるわけですが、
このドラマCDではその点がある程度フォローされている感じがしました。
ドラマ部分は40分ほどで、夢、メア二人とのイチャラブな一日は本編同様に萌え度が高いですし、
お話としての後味もいいですから、星空のメモリアという作品に思い入れのある人なら、
聴いて損はしないレベルでしょう。
加えて、オマケとして収録されている各ヒロインのピロートークが実に素晴らしい。
聴いててニヤニヤできること請け合いですw
ただし、本編とFDを個別に買ったユーザーが、このドラマCDだけを目当てにCOMPLETEを買う
というのは、そこまでするほどの価値があるかは微妙なところかもしれません。
よほど作品に愛があるのでなければ、本編とFDだけでも充分でしょう。
そんなわけで、長々と感想を書いてきましたが、
星空のメモリアという作品をフルプライス一本の値段で味わい尽くせる本商品は、
かなりお買い得と言えます。
これから星メモに手を出したい方には最適でしょうね。
ああ、それにしても、この作品をプレイしたら
大人になってから全然興味がなかった地元の星空を、夜に外に出るたびについ見上げるように
なってしまいました。
プレイすると星空が愛しく感じられるというか…
子供の時に星空に感じていた果てしなさやロマンを再確認させられるような、そんな作品でした。