本っっ当にもったいない作品です。設定といいキャラといいテーマといい展開といい、感動できそうな素材は充分に揃っているのに、とにかくシナリオの勝負どころで盛り上がりに欠けており、良作と呼ぶには今一歩の出来に留まってしまっていて……ヒロインとの甘々なイチャラブ描写や、主人公と姉のちょっと危ない姉弟漫才などの日常のユーモアある会話シーン等、見所は多いのですが、もっといい作品になれる可能性があったと思うので、もどかしいです。
人間が大好きで、人間として生きたいと願ったヴァンパイアの少年の物語ですね。
4人いるヒロインの各ルートは、それぞれ色々な幸せの形が描かれていまして、
キャラの設定や個性が活かされたシナリオだったのが良かったですね。
人間とどう共生していくかというテーマを、ヒロインと愛情を通わせる様子を通して
消化しつつ、うまくまとめられていて、なかなかの佳作に仕上がっています
良い点
・キャラクター描写が上手く、ヒロインの萌え度が高い
・日常会話にキレがあり、キャラ同士のかけあいにユーモアがあって楽しい
まず褒めたい点としては、主人公、ヒロイン、親友といったメインのキャラクター達がとても魅力的なことですね。
全員、自然と好感が持てるような性格をしていて、嫌味が全然なく、接していて心地いい。
みんなとても良い子でしたよ。
そういうトゲのない女性キャラたちと楽しく日常を送ったり、甘々な恋愛をしたい人には向いてます。
みんな適度にユーモアあって、会話はクスリとできて楽しいですしね。
主人公も味のある性格をしているからモノローグも読んでて面白いのもグッド。
ヒロインの中で特に印象的だったのは、主人公の姉の霧。
弟を溺愛しているキャラなのですが、危ない冗談を主人公と交し合うシーンが
多くて、なかなか笑えました。この二人のやりとりは特に面白かったですw
それでいて、シリアスなシーンでは主人公を本当に大切に思っていることが上手く描写されるので、
今までどれだけ弟のことを想って生きてきたかが分かり、その情愛の深さがどのルートでも印象的で、
包容力のある、本当に良い姉キャラに仕上がっていると思います。
主人公もそうですが、普段のおどけた感じと内面のシリアスさがキャラに深みを与えてくれているというか、
このへんは、沖水ミルというライターさんの持ち味が出てると思います。過去作もそんな傾向でしたしね。
他のキャラも、小春は気さくな女友達として、接していて気楽な雰囲気がとてもいいし、
後輩キャラの真亜沙も、登場時はミステリアスな割にすごくいい子だし、
個別でのデレが甘々すぎて破壊力大きいw
メインヒロインの聖来もスタンダードなヒロインながら好感の持てる子でしたし、
キャラには本当にハズレがありませんでした。
そして何より良かったのが、どのヒロインもラブラブな空気になった時の
甘々っぷりが素晴らしく、主人公のことが好きだという気持ちの強烈さが
すごく伝わってきたということです。
特にエロシーンでは、ヒロインがだだ甘な感じでエロに溺れてくれる様子を通して、
どれだけ好きなのかが伝わってくるような感じでして、
エロシーンをうまく使って情愛の深さが伝わってくるように表現してくれていたのが
素晴らしかったですね。
この点は、ライターさんが過去作と比べて大きく進歩していたと思います。
そんな感じで、萌え度が非常に高いので存分にニヤニヤできたのがナイスでした。
個別ルートに関しては、前述の通りヒロインごとに個性を生かした展開が描かれていますが、
中でも、小春ルートが一番しっかりした内容だったと思います。
人間の女の子との恋をして、どう一緒に生きていくかということが
読み手に納得のいきやすい形で描かれていて、幸せな結末は見てて気持ちよかった。
人間とヴァンパイアのカップルとして理想に近い生き方を見せてくれるから、スッキリするんですよ。
ちなみに小春は主人公に対する心情がひたむきで真っすぐなので、主人公のことを好きだという気持ちが
すごく伝わってきますし、告白シーンやエロシーンでは見てて本当に可愛く感じられますね。
このルートは恋愛描写とテーマがバランスよく混じり合った、とても良い話になっています。
お話としてはメインヒロインである聖来のルートの方が、伏線を消化し切って綺麗な話に
まとまっていたとは思いますが、小春ルートはお互いを支え合いながら共生していくという結末が
非常に美しく、幸せそうに感じられたので、このルートが一番作品のテーマを体現していると感じられました。
全体的には、主人公が吸血鬼ゆえに、人間社会での生活に困難や苦痛が伴い、苦悩するシーンが多いのですが
そんな彼をヒロインが救っていく話、という印象を、クリアした今は抱いています。
ヒロインに攻略されるゲーム、みたいな。
ちなみにヒロインによっては、単純に幸せな話ではなく、やや鬱になってしまいそうな読後感のエンドもあるため
完全なハッピーエンドが好きなプレイヤーにとっては、少しつらいかもしれません。
……とまあ、良い点を中心に挙げながら振り返るとそういう褒め言葉中心の感想になるのですが……
実のところ、この作品、良いゲームだとは素直には言いがたいです。
上の方で、小春ルート以外にはあまり触れていないのも、それ以外のルートは
ダメ出ししたい点が多かったせいでして…
悪い点
・後半の展開があっさりしていることが多く、盛り上がりに欠ける
・演出力の不足と、やや一本調子のシナリオのせいで少し退屈に感じる
実際のプレイ感覚としては、キャラが魅力的なので序盤のキャラ同士のかけあいは楽しいものの、
中盤~個別と読み進めていくうちに一本調子な展開に飽きが来て、やや退屈に感じてしまいました。
その上、ラストも盛り上がりに欠けるため、イマイチ感情移入しきれません…
描写のバランスも悪く、主人公の苦悩描写が細かくなされているわりに
クライマックスにさしかかって、さあ盛り上がるかっていう場面では
すごくあっさりした展開ですぐ終わったりするので、その落差で拍子抜けしやすいし、
演出が薄すぎることも相まって、緊迫感があるはずのシーンや
切ない気分になれるはずのシーンでも、気分がイマイチ盛り上がらない。
エピローグも描写が薄いから「これで終わり?」という気分になりやすく、読後感がいまひとつ。
(特に小春ルートはいい話なだけにエピローグのあっさり具合がもったいなさすぎる)
とにかく勝負どころでのテキストの薄さと展開の淡白さが致命的です。
何故このシーンに力を入れないのかと、読んでてもどかしく思えてしまうことが多々ありました。
はっきり言いますと、作品として全体的に練りこみ不足です。特に後半。
ストーリーや設定は魅力的なものがあり、
うまくやればすごく感動できそうな素材で溢れている作品だというのが
やってて分かるだけに、本当にもったいない。
このライターさん、ももえろ濃霧注意報の時も感じましたけど、
テーマや設定は魅力的なものを用意できてるし、キャラクター描写も嫌味がなくて魅力的ですし
日常会話のキレの良さなど、テキストのセンスもそれなりにあると思います。
それだけに、仕上げが雑なことが多いのが非常に惜しいです。
以前と同様、今回も素晴らしい素材をイマイチ生かしきれておらず、
日常会話やイチャラブが最大の見所みたいなゲームに仕上がってしまっているのはもったいなさすぎる。
それと、LAPIS BLUe.でシナリオ書いてた頃の作品は構成がダメでも
先が気になるくらいワクワクさせてくれるものがシナリオにあったと思うのですが、
今回は後半に行くにつれてだんだん退屈になっていったのも残念でした。
個人的にこの作品にはとても期待してたので、前よりも質が落ちてると思えてしまったのは残念です。
ただ、いろいろダメ出しはしましたが、この作品、佳作レベルと言っていい面白さは充分ありました。
クリア後にじわじわ感慨が湧くような後味はありましたし、魅力も多かったですしね。
イチャラブの甘々さを楽しみたい人には、素直にオススメできますし。
でも本当、もっとできるはずのライターさんだと思っているので、多くを求めたくなりまして、
文句が多くなってしまった次第です。
とにかく次以降の作品はもっと練ってくれることを期待したいです。
あと演出のダメさのせいで印象が薄くなってるシーンも多いので、
周りを支えるスタッフにも、次回があるなら奮起して欲しいです。
最後にグラフィック面についてですが、
立ち絵、イベントCGともに、かなり良いと思います。とてもエロ可愛い。
原画は適度に肉感的で可愛らしいキャラデザインができていますし、塗りも原画にマッチした艶やかさ。
エロシーンの雰囲気が甘々でしっかりエロかったこともあり、この絵の質の高さも合わせて
なかなか実用性があったのは嬉しかったです。
この原画さんは以前にも沖水さんと組んで廉価抜きゲーを出してましたが、あの時よりもさらに良くなってますね。
かなりの逸材だと思いますし、是非今後も起用していって欲しい。
今回、塗りとの相性が非常にいいので、できればまた同じスタッフで今後も見たいですね。