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houtengagekiさんのFloating Material -The hill where the star born-の長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
Floating Material -The hill where the star born-
ブランド
biscotti
得点
52
参照数
2827

一言コメント

お嬢様物のまったり癒しゲーとして見れば、まあまあの作品でした。優しい空間を求めている方なら、そこそこ楽しめるでしょうか。でも、シナリオは残念ながら薄っぺらい印象で、作品としては質は低いと言わざるを得ません。舞台やヒロインの背景設定自体は面白いのに、全然生かされていないのがもったいないです。絵もガタガタだったし、高く評価することはできないですね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 全寮制のお嬢様学園を舞台にした萌えゲー、という感じですね。
雰囲気自体は悪くないです。
ヒロインもサブキャラも全員心優しく、主人公に好意的で、
常にまったりとした空気が漂っている感じ。
空気にトゲがないというか…
そんなわけで学園での日常描写は、なかなか心地よくて癒されます。


 教師である主人公が良くも悪くも誠実で、当初は基本的に学生と恋愛する気がないため、
ヒロインの方から主人公に惚れてアプローチするような傾向が強めです。
自然とヒロインたちの一人称描写が多くなっており、独白シーンが頻繁に出てくる。
このゲームの特徴をまず挙げるとすれば、そのあたりでしょう。
自室で主人公への恋心に悩んだり、主人公に好意を向けられたことに喜んだりする心理描写は
なかなかに萌え度が高くて、見ててニヤニヤできました。
みんないじらしくて可愛いですし、これらの表現はヒロインの魅力を引き立てるのに有効に機能しています。
 ヒロインによりますが、個別ルートに入ったあとは特にヒロイン視点が増えていくため、
コンプした今思い返すと、むしろヒロインが主人公になっているかのようなプレイ感覚の作品という印象を受けました。
ヒロインが主人公に抱く内心での好意の描写というか、そういうのが自分は結構好きなので、
萌えゲーとしては、なかなかに楽しめました。

 キャラクターはみんな可愛いと思います。サブキャラも含めて。
お嬢様らしい清楚さを持ったヒロインなどは基本を押さえてて可愛いし、
そんな中で庶民派な部分が逆に引き立っているヒロインとかもおり、個性がしっかりしている感じ。
 攻略対象のヒロインで特に面白かったキャラは伊歩。
基本的には人当たりのいいドジっ娘お嬢様という感じで、すごくいい子なんですが
いざ恋人になってみると、人前では照れ隠しで主人公にツンツンした言動をしてしまうあたりが良い。
そして、あとでそんな態度をとったことを後悔して落ち込むわけですね。
普通のツンデレキャラと違った変化球気味なパターンで、可愛いし見てて面白かったですw
それが照れの現れなのだと分かっていると、ツンツンした態度も見ててすごく可愛らしいですねー
ツンデレというものは、加減を間違えると単なる不快キャラになってしまうこともあったりして難しいものですが、
このヒロインのツンは全然不快感がなく、ただただ可愛いだけでした。
面白い性格付けだなと感じましたよ。
でも、もう少しじっくりと、そのあたりの描写をしてくれたらもっと良かったけど。
結構あっさり目だったのが残念。

まあそんな感じで、ヒロインの魅力のおかげで日常会話は悪くなかったです。ギャグの寒さを除けば。


 でも、シナリオの方は褒められたものではありません。
ヒロインたちはお嬢様ということで、実家がらみの暗い背景を背負っていたり、
ヒロイン同士も因縁めいた関係を持っていたりする組み合わせがあったりと、
設定自体はなかなか面白いのですが、
それらの要素は作中で有効に生かされてないままに物語が終わってしまいます。

 メイン格のヒロインを例にとると、
ヒロインの背負う事情を解決するため、主人公がヒロインの実家へと赴いて奔走する
といった内容になっているのですが、その奔走の内容は主人公視点で詳しく描写されたりはせず、
学園に残されたヒロインの視点で、主人公の帰りを待ち続ける、といった描写のみ。
お姫様状態のヒロインの切ない心理描写は可愛くていいと思いますが、
これでは緊張感も生まれないし、主人公とヒロインが力をあわせて問題を解決するシーンが
ほとんどないため、カタルシスが皆無です。
シナリオに深みは生まれず、印象的な台詞などはほとんど皆無だった。
この作品、そういう「いつの間にか問題が解決していてハッピーエンド」っていう肩透かし展開が実に多かったです。

 そういう展開でないヒロインもいますが、やはり山場でキャラ設定が丁寧に生かされるシーンは
ほぼ無いと言っていいでしょう。
比較的マシだったのは、しっかりとヒロインが成長した姿を見せてくれた伊歩ルートや、
主人公とヒロインがちゃんと向き合って問題を乗り越えていた桜のルートでしょうか。
この二人のルートはテキストの印象が違ったので、サブライターの手によるものかもしれません。
 とはいえ、この二人も含め、面白いと言えるルートははっきり言って皆無。
全体的に、主人公の教師としての言葉が薄っぺらくて説得力が無いのも厳しいし、感動のしようがありません。
これなら、単純にキャラ萌えを重視したイチャラブゲーにでもした方が良かったのでは、と思ったぐらい。
何しろ序盤~中盤は比較的楽しめるクオリティでしたからね。
生かすことができないのなら重い設定など不要ではないでしょうか。


 あと全体的に、伏線や設定の使い方が筋道立ってないというか、唐突すぎる部分が多かった。
特にひまりルートは唐突な展開ばかりでひどい出来でした。
例えば、主人公の女性不信という性格設定は冒頭か序盤で説明しておくべきだったと思う。
そうしておいて、女性不信の原因となった裏事情だけを後から説明すれば良かったのに。
ヒロインと恋愛関係になる段になっていきなり披露されても唐突感しかありません。
 それに、主人公がひまりを好きになる描写に関しても、理由自体は納得できても
主人公の心理の移り変わりをしっかり描写できてないから、これも唐突に感じる。
昨日まで恋愛感情など一切持ってなかった男が、突然ヒロインを好きになって
告白したようにさえ感じた。
こうなると展開に説得力が出ませんから、物語に感情移入しづらいです。
ひまりルートが筆頭ですが、唐突感はどのルートでも散見され、
個別が微妙な出来になっている原因のひとつと言えるでしょう。

 題材自体は悪くないのですが、ライターさんに構成力と文章力の両方が足りないと思います。
もう少し設定を生かすことを考えながら、筋道を立ててシナリオを書いてくれれば、
もっといい作品になった素材だと思うんですが…



 絵的には、イベントCGに一部やたらとデッサンが崩れているものがあったり、
他のCGに比べて塗りが稚拙な物が混じっているのが気になりました。
ちょっと安定感がないですね。
よって、テキストの質の低さとの合わせ技により、エロの実用性も低めになっております。
ブルマずらし挿入があったのは評価に値しますが、そのくらい。
それにしても、何だかサブキャラの方がデッサンしっかりしてるように思える…


 あとシステムについて、ちょっと…
スキップについてですが、今どき既読と未読を区別せずのオールスキップしか出来ないのは
正直どうかと思いました。2人目以降の攻略に著しく快適さを欠いてしまいます。
それ以外にも、設定できる項目の少なさはかなり不満でしたし、
スタッフロールをスキップできないのと、誤字脱字の多さもキツイ。


 まとめますと…
正直、作品としての質は低めで、絵やキャラクターがよほど好みというのでなければ、
はっきり言ってオススメできません。
自分は体験版で雰囲気が気に入ったので買いましたが、正直言って序盤が一番面白く、
後半に行くほどガッカリしたという印象で、ちょっと残念ですね。
萌えゲー、癒しゲーとしてとらえれば悪くない部分もあるので、駄作とまでは言いませんが。
個人的には伊歩がとても可愛いキャラだったのが救いですね。



 ところで余談ですが、同僚の西崎先生が超可愛いんですが、何故彼女は攻略できないのでしょうかw
ちんまいロリな容姿でフォーマルな格好した先生だなんて、ものすごい狙いすましたキャラなのに!
しかも先輩教師としては結構頼もしかったりするあたりは素直に魅力的だし、
それでいてやっぱり生徒たちには同級生みたいな接し方をされてしまってうわーんって感じになるのが超かわいいです、はい。
彼女を攻略できたなら、それだけで60点台は付けたのに!
実際、攻略対象が学生ばかりの中、主人公と同じ立場の彼女を攻略できたなら
メリハリがついて作品の魅力が増したと思うんですけどねー、惜しいところです。
 西崎先生を攻略できるFDを出してくれるなら3000円までは出すぞ!
ブルームハンドルがいつもやってるFDみたいなのでいいから。よろしくお願いしますメーカーさん。