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houtengagekiさんのSteins;Gateの長文感想

ユーザー
houtengageki
ゲーム
Steins;Gate
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
93
参照数
1203

一言コメント

時間物のSFエンターテイメントとしての面白さが存分に詰まっている傑作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 時間ものならではのワクワク感と、それと対になるような、得体の知れない現象に対する恐怖感を
どちらもよく表現出来ています。
タイムマシンって夢の発明だけど、いざ出来てしまうと、
とても恐ろしいものでもあるんだな、ということが実感できてしまう。
 途中から即物的な恐怖も襲ってくるようになるし、様々な方向からプレイヤーに緊張を迫ってくるから
読んでいて飽きないし、むしろ先が気になってどんどん読み進めてしまう。
実験を繰り返しながらタイムマシンの開発が進んでいく過程も実に面白い。

 発明や実験のワクワク感と同時に、とある組織の闇の部分が暴かれて行く過程を織り交ぜることにより
恐怖感を煽ってくれる構成が実に上手くて、エンターテイメント性を大きく高めてくれています。
後半になると、タイムマシンという発明の恐ろしい側面が顕著になり、
主人公たちの前に理不尽とも言っていいくらいの救われない状況が襲いかかってくるわけですが、
それに対して、決して勇気からではなく、仲間のためにあがき続ける主人公には感情移入しやすい。
ヒロインとの関係を掘り下げながら、ひとつひとつ壁を越えて解決への糸口を探っていく過程は、
前半とはまた違った緊迫感と寂寥感に満ちていて、とても良かったと思います。
そうしてひとつ壁を乗り越えた時に味わえる、「たどり着いた」という達成感が実に強烈でしたし、
そして、その先にどういう展開が待っているのか、すごくワクワクしながら読んでいけますし。
ことにトゥルーエンドルート終盤の展開の熱さとスリリングさは特筆もので、盛り上がりが半端じゃなかった。
タイムパラドックス特有の怖さ、緊張感も上乗せされ、読み進める手が止まりません。

 こうしたSF的なストーリーが、あくまで等身大の青年たちの物語として作られていることと、
舞台が秋葉原であり、主人公たちも普通のオタクのような日常を送っていることもあって
身近な感じがして感情移入を手伝ってくれるのも実にいいと思います。
それでいてスケールの大きさも同時に感じさせてくれるのが、絶妙だなあと思うわけですよ。


 携帯電話による分岐システムも面白いと思いました。
ヒロインたちとのメールのやりとりによる分岐は、単純な選択肢よりも、
プレイヤーと主人公がシンクロしているように感じられる。
決断力と判断力を求められているようで、没入度が高まったし、演出としても斬新で素晴らしい。
ただ…どうやればどう分岐するのか、というとっかかりが無さすぎるのは問題ですけどね。
難度が激烈に上昇してしまっている。
攻略見ずにトゥルーにたどり着くのは至難の業なので、このあたりはもう少し融通をきかせて欲しかった。

 ちなみに、それ以外のシステム面はイマイチかな。コンフィグの貧弱さが残念。
設定できる項目が少ない…
メッセージ送ったら音声が止まるように設定したかったけど、できなかったし。
キャラ別に音声のボリュームを設定したいとも思った。フェイリスがうるさいからw
そんな感じで、基本システムに関しては実のところあまり高く評価できません。
セーブスロットも少ないし。
良いゲームだけに、この辺は残念に感じました。



 ※以下はシナリオの詳細部分へのツッコミを含むのでネタバレ満載です。ご注意を。
















 物語に関して不満点を挙げるとすれば、
SERNに関することの決着があっさりしすぎていると感じた。
あれだけ悪事を働いて、主人公の周囲の大切な人たちに不幸をもたらした組織なんだから
SERN本体に一矢報いるような描写があっても良かったんじゃないかな?
もしくは、勝手に自滅して酷い目にあうとか。
そういった形でプレイヤーにすっとした気分を味わわせて欲しかったかな、と。

 あとは、世界線収束についての設定に少し疑問点が。
まゆりを始め、オカリン、桐生萌郁など、人物の死が特定の年月日でないといけないように
因果ができているというのなら、フェイリスの父親の死については何故改変が可能なのか?
タイムマシンに関わる人々の死が世界線の収束に重要な要素であるという説明で何とかなるのかもしれないが…
逆に、フェイリスの父親の死は世界戦の収束に影響しない要素であるということか。

 しかし、物語後半、特に9章において、死が特定年月日でないといけないという設定が
突然確定要素になったように思えるんですよね。
それまではオカリンも死を恐れながら試行錯誤し続けていたから緊張感があって面白かったのに
死による強制終了が絶対ありえないのだということになってしまったため、
少し拍子抜けというか、緊張感が薄れてしまったのは残念。
死については、まゆりと紅莉栖以外は確定要素にすべきではなかったのではないか、と思う。
人間なんてちょっとしたことで簡単に死ぬんだし、死ぬ日でなければ殺そうとしても絶対に殺せない
という設定はちょっと不自然すぎると思う。ここだけは違和感を覚えてしまいました。

 まあ、そんなふうに突っ込みどころもいろいろあって、むしろ
あえてぼかしたまま放置している部分も多く見受けられる作品でもあります。
考察の楽しみを残そうと考えたのかな、と感じますね。
疑問点はプレイしていて結構浮かんでくるのですが、それでも、それが些細な問題だと感じてしまうぐらい
ストーリーはぐいぐいプレイヤーを引っ張っていってくれる力があるので、
最終的には力技でねじふせられたような感じの読後感でした。
けなしているわけではなく、そのくらいエネルギーのある話だったのです。
 タイムマシンの理論も、素人目に見ても「それは超理論すぎるだろ」と突っ込みたくなるような
物ではありますが、それでも時間跳躍という事象の楽しさを考えれば些細な問題。

 時間モノのSFが好きならば文句なく楽しめると言っていいほどの、優れた作品だと思いました。
演出も総じて良かったですしねー、特に世界線移動の際の演出…
表示されるダイバージェンスメーターの数値の変化によって見せるというのが上手いです、
その数値の正体を知らない序盤でも「よく分からないけど何かが変わったんだ」と
非常に印象的に感じられる見せ方ですしね。

にしても、メールによる過去改変は、このゲームの特に面白い部分だったと思います。
世界線が変わるたび、どこが変わったのかとワクワクするし、おかげで日常にちっとも飽きがこなかった。

後半、世界線を元に戻していく過程でヒロインたちとの印象的なシーンが
消えていってしまうということも、切なさを感じさせてくれるので、感動ゲーとしても優秀ですし…
とにかくSFエンターテイメントとして優秀でした。それに尽きます。