名作になり損ねたゲームの典型的な例かなと。
日常会話と後半の設定だけなら90点つけてもいい作品。
そう感じるぐらい、読んでてすごく面白いです。
だからこそ、仕上がり具合が本当にもったいない作品でした…
さてこの作品、設定を見る限りエロ重視のゲームにしか見えないし、
実際、エロはなかなか充実しているのですが…
でも、ただの抜きゲーみたいなタイトルと裏腹に、
センスの光るテキストのおかげで、かなり読ませてくれる作品になっていました。
特に日常は本当に面白かったです。
人を食ったような発言を繰り返して真意を隠すような主人公の言動は、
独特のセンスにあふれていて、彼の台詞を追っているだけで楽しくなってしまいます。
これはちょっと並みのライターには表現できないと思います。
たまにメッセージ性のある台詞などもまじえてくるあたり、知性的な感じもして読み応えありますし…
それに、主人公だけでなく、ヒロインやサブキャラ達もそれに負けないぐらい
個性的で魅力があるから、キャラ同士の会話が本当に楽しいものになっていますね。
ノリが合うかどうかは人によるかもしれませんが、このノリのおかげで
共通ルートが全然飽きないし、むしろニヤニヤしながら読める。
その共通ルートが楽しいだけに、後半のシリアスな展開への移行時に
より緊迫感のある空気が作れていると思います。
後半のSF的展開は、段階的に、主人公が精神的に追い詰められていくような心理描写の流れも巧みですが、
それも主人公やヒロインのキャラが日常の段階で個性的に、しっかり出来ていたからこそ
より質の高い緊迫感を生み出せているのだと思いますし、とてもいいことだと思います。
そこまでは本当に良かったんですけどね…
後半から終盤にかけて、非常に残念な出来になってしまっていることが、本当に惜しまれます。
なにしろ終盤に詰め込んで説明しすぎで、せっかくの凝ったSF設定が
駆け足で流されてしまっているのが心底もったいない。
大ボリュームをもてはやすつもりはないけど、
この作品は明らかにいろいろ足りてないと思います。
結里のルートに全部まとめて真相解明の説明を突っ込んでいるような状態なので無理が出ているし
ラストは本当に説明だけで終わってしまうほど駆け足なので、感慨を味わう暇もない。
もう1ルート、真ルート的なルートを設定して
そこでいろいろ世界観について突っ込んだ描写をしてくれればよかったのに。
そんなわけで、真ルートとして流花ルートを配置する等すれば、
もう少し奥深い作品になったのではないかと思う。
流花はプロローグの時点からモノローグで世界の秘密を握っていることを匂わせているし
日常でも含みのある台詞を連発するため、底の見えにくい、ミステリアスなキャラに仕上がっていましたし
普通に考えてここまで魅力的なキャラの専用ルートが存在しないこと自体ありえないわけですし。
なぜ、結里ルートのサブヒロイン扱いという位置づけにされているのか。
結里ルートが、結理と流花を同時に攻略するようなルートになってしまっていることで
ヒロインへの思い入れが固定しないし、詰め込みすぎの一番の原因になっていると思います。
流花のルートを配置しさえすれば、結理ルートに詰め込んだ物を分散することができただろうし、
もっとじっくりと感動できるような描写もできたはずですし、
欠点はすべて解消することができたと思うんですが…
そもそもゲーム全体のボリュームを見ても、正直食い足りないですし、
もう1ルートぐらいは絶対必要だったと思います。
正直なところ、これは未完成なゲームなのではないか、とさえ思いました。
あの色々と謎を匂わせているプロローグに、本編のラストが繋がっていないことを考えても。
あのプロローグが、ラストにおいて帰納法の形で帰結するように、流花シナリオを最終として
組み立てられているのだろうと、てっきり思っていただけに残念です。
最初に、日常と後半の設定だけなら90点つけてもいいと書きましたが…
風呂敷を広げる過程が見事であっても、たたむのが下手なのでは、90点はやれませんね。
風呂敷をたたむまでがエロゲですからね。
まあでも、終盤が残念だったとはいえ、それでも日常と設定、キャラクターの魅力
これらだけでも、それなりに高く評価すべき作品だとは感じています。
これを書かれたライターさん、今後に期待の持てる人だと思うので注目していきたいですね。
すごくいいセンスを持っているクリエイターさんだと思いますし。
並大抵のことでは、あの主人公の性格や、楽しいかけあいは書けないと思いますので。
こうやって批判をつらつらと書いてしまったのも、
それだけもったいないと思ってしまったからこそですし。