PC版『ドラクリウス』はシメに問題があったため、やや消化不良な作品になっていましたが、このPS2移植版はそれを補ってくれる質の追加エンドが2つあり、物語としての完成度が高まっています。なので、PC版プレイ済みの方でも、プレイする価値はおおいにあると思います。反面、追加ヒロインは蛇足感が漂う。長文感想ではその点に関する文句が多めになってます。
追加されたのは、メインルートの追加エンドが2つと、新ヒロイン二人が登場する新規サブルートが一本。
メインルートの追加エンドに関しては、終盤で新たに選択肢が設けられており、
そこでPC版のエンドに加えて新エンド2つの、計3エンドへ分岐するようになっています。
今回追加された2エンドは、お茶を濁すことなく、しっかりとドラクリウスという作品世界を締めくくる内容になっており、
片方のルートでは、ヒロインたちの主人公への忠誠心がより印象的に描かれますし、
もう片方のルートは、主人公とラスボスの因果関係について踏み込んだ描写があった上で、
この二人の完全な決着が付いていたりと、なかなかスッキリできる内容だったと思います。
少なくとも、どちらのエンドとも『ドラクリウス』の締めくくりとしてはPC版のエンドより良質なのは明らかです。
PC版のエピローグ・エンディングに肩透かし感を覚えた方は多いと思いますが、
このコンシューマ版をプレイすれば、PC版でのもやもや感はある程度払拭できるはずです。
まあ相変わらず、ベルチェやリカといったキャラの個別エンドはありませんので、
それを求めてプレイするとガッカリするかもしれませんが……
あと欲を言えば、PC版のエンドにも手を加えて、しっかりした流れのエンドにして欲しかったです。
その点さえ改善されていれば、追加エンドと合わせて完成形と呼べたと思いますし。
そんなわけで、メインルートの追加エンドに関しては良い追加シナリオだと思いますが、
問題は、新キャラが登場する新規サブルートに関して。
リアンルートへ分岐する箇所にて、この新キャラ達のルートへ入れる選択肢が追加されていて、
そこそこのボリュームの専用ルートが用意されているのですが……
正直、この新ルートは蛇足以外の何者でもないと思いました。
そもそもが、ドラクリウスは一本の長編として、序盤から終盤まで、キャラの役割・設定といいストーリーといい
ラスト以外はガッチリと固められた作品であり、新キャラを追加する余地など全くありませんでした。
しかも新キャラルートのライターはメインルートを書いた藤崎竜太氏ではない。
そんな有様で本作の新キャラはどういう扱いになっているかというと、
本筋に全く絡むことのない、途中で降って湧いたように登場する新ヒロイン、
という形になっているわけで、これでは、どうしても取って付けた感が出てしまいますし、
この新ヒロインに思い入れを抱くなど、PC版が好きであればあるほど無理でしょう。
個人的にも、こんな新キャラにテキスト費やすくらいならベルチェとかのルート追加してくれ、という思いしか抱けません。
一本のルートとして見れば、決して出来が悪いわけではなく、読んでみると新キャラ達もなかなか魅力的なんですが
やはり既存のヒロインたちと比べると、降って湧いたような登場だけあってキャラとして重みが足らないし、
物語としても一段劣るとしか言いようがありません。
しかも中盤の分岐で突入できるルートなのに、本筋の終盤で登場するボスキャラが出てきたりと
半ばネタバレ気味の内容にもなってしまっていますし、このルートは気軽にプレイすることもできない。
やるなら、本筋クリア後にオマケ程度にプレイするぐらいの気持ちでやることを推奨します。
そもそも、エロゲーをコンシューマに移植する際って、何故ムリヤリ新キャラを追加する風潮があるのかと疑問に思います。
学園ものの萌えゲー等なら、共通シーンで場面を追加できる機会が多いから無理なく登場させることもできるでしょうが、
今作のようなほぼ分岐もなくカッチリ構成された一本道作品で新キャラとか無理がありすぎる。
関係ない他のタイトルを引き合いに出しますが、Ruskの『Aster』という作品に家庭用移植の話が持ちかけられた際、
新キャラの追加を希望されたものの、ライターさんはそれだと後付け感が強くなってしまうから、
という理由で既存のサブヒロインの新規ルートでどうかと交渉し、その結果折り合いがつかずに
移植の話が流れたということがありましたが、この例を見ても、エロゲを移植して発売する会社は
新キャラという要素に強くこだわっているのは明らかだと思います。
昔から、コンシューマへの移植作には追加キャラがいることがかなり多かったですから、昔からそうなのでしょう。
これはやはり、コンシューマ版ならではの独自要素として目立つものが欲しいのでしょうね。
それが新キャラならば、まずビジュアル面で、PC版とは違った新しいインパクトが与えられますから、
特にプロモーションの面では有効だというのもわかります。
しかし、PC版をプレイしたユーザーがそれを諸手を挙げて喜ぶかと言えば、それはどうか。
確かに、思い入れのある作品世界に、新たなヒロインが登場して新しい物語が読めるというのは
魅力的ではありますし、そうした新キャラのルートの出来が良くて成功している作品も相当数あります。
が、どう考えても、本作のような個別エンドに不足感があったり、サブヒロインが魅力的だったりする作品ならば、
サブヒロインのヒロイン昇格や、既存ヒロインのエンド追加などの方が、
PC版からのファンとしては思い入れ的にも喜びが大きかっただろう、と感じたので、残念です。
こうした『ドラクリウス』や『Aster』のような作品は新キャラ追加に適していないのですから、
既存キャラを重視した追加要素を入れての移植のほうが完成度は間違いなく高くなったはず。
新キャラ追加をやるなとは言いませんが、それに適してない作品でまで新キャラにこだわらないで欲しかった。
自分は今回、PC版に比べてこのコンシューマ版には微増程度の点数を付けましたが、
新キャラに回した分のボリュームで、藤崎竜太氏の手によるベルチェやリカの個別を追加してくれていれば、
もっと高く評価していたと思います。
この『ドラクリウス』の移植版は、より良い作品になる可能性があったものが、
蛇足感のある惜しい移植になってしまった感じがして、そう思うと残念でなりませんが、
本筋の補強になる追加エンドが盛り込まれていたというだけでも、良かった方なのでしょうね。
ハーレムを描くことに重点を置いているため、本来、個別ルートは必要ないかもしれない作品でもありますし、
新キャラルートの存在を考えなければ、価値のある移植ではあるのは確かです。
最後に、シナリオ以外の部分について触れておこうと思います。
『ドラクリウス』では立ち絵の無かったサブキャラにも
新規立ち絵が追加されていたりするので、グラフィック面にもパワーアップが見られますね。
マイナス点としては、やはりエロが無いのはこの作品においてはかなり痛いです、
エロシーンにも見所のある作品でしたし。
それと、藤崎竜太氏の特徴でもある下品な台詞回しに、自重が入ってるのも少し残念。
まあ性的な下品さが含まれている台詞などは、さすがにそのままではマズイですから仕方ないですね。
まあ何はともあれ、PC版プレイ済みの方でも、プレイする価値のある移植版ではありますから、
是非とも両方プレイすることをオススメしたいです。
理想としてはやはり、逆移植して完全版を出してくれればそれが最高なんですけどね、この作品は。
仕方ないとはいえ、コンシューマの制約のせいで、消されてしまっている魅力も結構あるので…