多忙の合間を縫ってようやくコンプ。数少ないコメントも厳しいのが殆どですが、俺は良作だと思いましたよ。あまりの低評価に苛立ちを覚えながら我慢してきましたが、コンプを機に書き込みます。
随所に伏線をちりばめて、それらをすべて回収した上でストーリーの盛り上げに活かす事に成功していると思います。どうでもよさそうな出来事が後になって重要な伏線になっていた事が多々あったのには唸りました。伏線にもならない些細な疑問もその場できっちり消化されています。「己が心情や心意気を貫く、スケベで意地が悪いが、一本筋の通った骨のある男」(千歳シナリオでの霧絵の発言より)という評価が似合いの主人公の性格も揺らぎありません。
・・・これらは綿密なディレクションの賜物だと思います。だからこそかえって「凡庸だ」という評価を呼んだのでしょう。しかし俺はこれを凡庸だとは思いません。齟齬らしい齟齬の見られないシナリオのゲームを作った事自体を評価すべきだと思います。
基本的な流れはどのルートも「気持ちを確かめ合うが、大きな試練が立ちはだかり、それを乗り越える」という、あまりに王道すぎる展開ですが、主人公「相楽仁」のパーソナリティーがそれを非凡なものにしています。
攻略した順に各ヒロインルートを検証します。
相楽美咲・・・伏線の回収面では弱いルートです。義理とは言え兄妹として育ってきた二人が男女の関係になった事で周囲の目に晒されます。それは美咲の親友かりんの助力もあって解決に向かいますが、非凡なシャーマン能力を自身も知らず秘めていた美咲は・・・
仁の不屈の闘志も見所ですが、「家族」について考えさせられるシナリオです。
霧絵・・・弱っていた子狐を保護したら、それは土地神だった・・・。小さな衝突を繰り返しながら仁と霧絵は惹かれあってゆく。やがて、封印されていた蛇神が復活の兆しを見せた事で霧絵はある覚悟を決めますが・・・。
土地を守る神のとしての宿命が重く圧し掛かるシナリオです。愛する者を守るために霧絵が見せた覚悟と、それを止めようと最後まであがく仁の奮闘に胸が熱くなりました。元の姿を取り戻してからの霧絵は姉御肌の振る舞いを見せても、根は子供っぽいのがイイ!
綺沙羅・・・霧絵を姉と慕うがゆえに仁を敵視していた綺沙羅ですが、二度の決闘を経て綺沙羅は仁を主と慕うようになります。やがて恋仲になる二人ですが、人命救助のために綺沙羅が取った行動のために・・・。
オヤジが退魔師であるという設定を最も上手く使ったシナリオです。おかげで極上の親子ゲンカを拝む事が出来ました。綺沙羅自身も一度信じた相手にはとことんまで尽くす大和撫子である面が魅力的です。
鏑木千歳・・・恋人同士かどうか微妙な関係のまま別れた二人。帰郷した仁は再会した千歳に以前の想いを甦らせますが、振られた事にわだかまりを拭えません。実は千歳が仁を振ったのは神社の巫女としての宿命が理由で・・・。
このシナリオでは友人キャラの真が生きてきます。生まれた家の宿命を是としてきた真、宿命に疑問を感じながらも従ってきた千歳、そして宿命を真っ向から拒絶してわが道を進んだ仁・・・と、三者三様のドラマが見られます。そして、自由を切り開くために宿命と戦おうと決意した仁と千歳の奮闘は感涙物です。
各ルートとも、攻略から外れたヒロインたちが頼もしい友人としてサポートし続けてくれます。そして、憎み蔑んできた父親とも・・・。
脇役もかりん、ばっちゃん、オヤジ、真、西園寺、榊、駒宮、八百屋のおっちゃん・・・と、それぞれ個性を放つ面々です。一部過去作品で見たような名前もありますが・・・。
全体的な雰囲気は田舎を舞台にしたほのぼの系ですが、終盤はかなり緊迫します。それでもラストはどのルートも暖かいです。何より、ヒロイン同士が全員仲良しなのが好ポイントです。とらハシリーズや家族計画のようなファミリーっぽい雰囲気が好きなものでつい甘くなっちゃうんでしょうけど・・・。
エロシーンは純愛系の標準的な回数ですが、結構ディープです。
マイナス5点の理由は余りに注目度が低い事です。俺はこの絵柄に納得して購入しましたが、せめてもう少し一般受けする絵柄だったらもっと多くの批評を受ける事ができたのに・・・TT 仁村氏を温存したいメーカーの事情は理解しているんですが・・・。
絵師の画風がどうしても許容できない人にはお勧めしませんが、ストレスの溜まりにくい快適なテキストを読みたい人は興味を持って欲しいと思います。