夏の田舎を舞台にした良質なキャラゲー 全体的にクオリティーが高いゆえにいくつかの欠点が目立ったのが惜しい
SMEE作品でお馴染みの早瀬ゆうがメインライターの作品ということで購入。あざらしそふとの作品をプレイするのは初。とても空気感の良い作品だった。夏休みに仲良しグループで集まってワイワイはしゃいでいる感じがよかった。全体的にヒロインとの関係構築を丁寧に描いていたのも好感触だ。一般に一番恋愛で楽しい時期とされる「お互い好きだと薄々分かっているがまだ付き合ってはいない」というところの描写がどのヒロインでも良かった。以下共通から攻略順に簡単な感想、最後に総括を。
共通
「都会の生活に疲れた主人公が田舎の人の繋がりを通して幸せになっていく」という流れがきちんと描かれていたと思う。主人公グループ7人組が放課後に集まってワイワイやっている感じがノスタルジーを掻き立てられて良かった。
夜雪ルート 85点
ミステリアス系(?)年上ヒロイン。私がこういう真顔で冗談を言ったりするキャラクターが好きということもあり、プレイしていて楽しかった。付き合うまでの過程、付き合ってから初エッチまでの関係の詰めかたが丁寧に描写されていたのも好感触だ。ただ、夜雪が主人公を気に入った理由は、同世代の男の子と突然同居するようになった和葉と初対面で自分を助けようとしてくれて他の男の子とは違う優しさを見せてくれると言っていたこがねに比べるとちょっと弱く感じたので、付き合うまでに至った動機はもう少し強いものにして良かったと思う。嫉妬して独占欲を出してくる場面が多かったが、これは夜雪のかわいさが際立っていて良かった。そして最後に明かされる夜雪の「周りの期待に応えないといけない」と思ってしまっていることを主人公だけが気がつき、夜雪を支えようとする終わりかたは、夜雪のかわいさと主人公の魅力を同時に表現できている良い終わり方だったと思う。他に良かったことは夜雪の声色が付き合った後では明らかに変化していたことだろうか。共通や他のルートに比べると結構な違いを感じられる。こういうところも良かったと思う。欠点としてこのルートの限った話ではないが、一見すると矛盾しているような描写が出てきて少々違和感を覚えることがあったことだ。例えばこのルートは中盤以降夜雪は運動神経抜群と描写されるのだが、ルートの入る前で「体育が苦手」「ソフトボールで一人だけバットにボールが当てられず練習している」という描写が入っている。これはおそらくルートの終わりに出てきた「周りの期待に応えようとする夜雪の一側面」を表しているのだと思う。つまり体育自体は本来苦手ではあるものの、周りの期待に応えて努力して運動ができるようになったということだ。バットにボールを当てるという動きは全くやったことがないと運動神経が良くても難しいものではあるし、主人公にバッティングフォームを教えてもらってすぐにできるようになっているから、これらの一連の運動神経に関する描写は矛盾しているとは言い切れない。言い切れないのだが、そうはいってもやはり直感的に気になってしまうシナリオ構成になっていることは否めないだろう。要素を取り出すと「体育が苦手」だが「周りの期待を応えなければならないと思っている」から「ソフトボールの練習も頑張ってる」というこの流れ自体はラストで明かされる「主人公だけが気がついた上梨夜雪という女の子の本当の姿」を描写する上で効果的であるだが、冷静に一つ一つ考えていかないと矛盾しているように見える構成がもったいなかったように思える。ここはもう少し工夫して読み手が自然に理解できるようにしてほしかった。欠点をいくつかあげたものの、夜雪がお茶目でかわいくシナリオも安定していて良いルートだった。
和葉ルート 87点
古典的世話焼きツンデレヒロインの和葉。付き合うまでの距離をつめる過程と付き合ってからの関係の進め方が丁寧に描かれていて非常に好感をもてた。このルートも夜雪ルートと同じく初エッチまですぐ入るのではなく長い時間をかけたのもよかった。ツンデレということで素直になれないキャラであるものの、主人公と二人きりの時は甘えてくるというギャップもよかった。そしてその甘えてくる理由も「父親が単身赴任していて甘えられる相手もいない」という理由づけがきちんとしてあるのが良かったと思う。全体的に良かったのだが、一番のシーンは最初の祭りのシーンだ。まず二人で並んで歩いているCGの和葉の表情がとてもよく、デートで緊張しているという感じがよく出ていた。その後の二人きりになって「他の子に優しくしちゃやだ」という場面は非常に可愛らしかった。他にも終盤の結婚式の撮影というくだりも良かった。正式に法律の上で婚姻をしたわけではないが、寂しがり屋の和葉を支えたいという主人公の考えはこのルートで描写してきた和葉というヒロイン像を踏まえてルートの落とし所としてはバッチリだと思う。良いクオリティーのルートだった。
こがねルート 85点
「毎日環境をいじっている謎の女」こと雨晴こがねルート。両親の離婚がきっかけに恋愛に奥手になってしまっているという他のヒロインより少し重いバックボーンが印象的だった。このルートも付き合うまでも付き合ってからも恋愛の過程が丁寧に描写されていたのが好感触だった。付き合う前は一人称が「雨晴」だったのが付き合ってからは「こがねちゃん」になっていたのもかわいかった。ただ、個人的には付き合ってからのしおらしい感じより付き合う前のぐいぐいくる感じの方が好みではあった。主人公のことを「他の男子とは違って自分のことをきちんと分かってくれる」とこがねは評していたのだが、それがきちんとプレイヤーにも伝わるように主人公を描いていたのも良かった。雨晴こがねというキャラクター自体がかなり好みなのもあって満足度の高いルートだった。
その他
CGのクオリティーは傑出している。私が今までプレイしたゲームの中でぶっちぎりのナンバーワンだ。キャラクターデザイン、洋服や水着や浴衣のデザインもかなりかわいらしく、CGは構図も面白いものが多かった。CGでいうと表情の表現は例えば同じ照れ顔でもその場面に応じた細かいニュアンスの違いが感じられるもので素晴らしいクオリティーだったといえる。ボイスお気に入り登録機能がついているのはありがたい。ありがたいが、この形式だとたまにボイスだけ聞き返そうと思いゲームを立ち上げた時タイトル画面からボイスを聞き返せないのが面倒なので、できればそれができるようにしてほしいところ。また私の環境だけかもしれないが、ボイスお気に入り登録の挙動がおかしくなることが多少あった。システムボイスもよく、特にこがねのものはどれも面白くてかわいかった。
欠点・改善点
全体的には良質な作品なのだが、それゆえにシナリオ面でいくつかの欠点が目立った。まず夜雪ルート感想でもあげたように「よくよく考えると矛盾していないのだが読んでいるとちょっと気になってしまう」ような描写がそれなりにあった。これ以外だとこがねの勉強の描写もそうだろう。確かに「テストの点数がいい」ことと「課題に取り掛かるのが面倒」だと思いサボるという描写は矛盾はしない。しかし読み手としては「あれ? 雨晴って勉強できるんじゃなかったっけ?」と思ってしまうものなので、例えば「雨晴テスト前は頑張るんでテストの点数はいいんですけど勉強するの自体は嫌なんですよねえ」みたいなセリフを入れるなど、読み手が自然に読める工夫が欲しかったところだ。次に「ルート間で似たようなくだりが多い」ことが挙げられる。主人公やヒロインが分裂するくだりなど、「これ他のルートでも見たな?」というのがそれなりにあった。各ルートのプロットの海に行ったり祭りに行ったりというのはメタ的に見ると田舎という舞台を設定したことや背景のコストの関係で仕方ないので、こういう細かいやり取りはヒロイン毎の差異が欲しかった。主人公が全てのルートでヒロインに「スペックが高いのを自覚しろ」というのもそういう感じで気になった。もっともこれはルート間で主人公は同一人物な以上意図的にこうしているのかもしれないが。この辺りの欠点は改善しようと思えばいくらでもできたところだと思うので勿体無かったと思う。ルート間に同じような流れが多かったことで、3人しかヒロインがいないのに後に攻略したヒロインはシナリオに新鮮味がなくなってしまうということになってしまっていた。またこれは完全に私の性癖の話なので点数には反映させないが、せっかく陰毛オンという設定をつけたのにその陰毛が薄く、なおかつ見えない構図のえっちCGが多かったのは勿体無いんじゃないかと思った。コンフィグでオフにできるのだからもっと濃くして良かったのではないかと思う。
SMEE作品との比較(SMEE作品のネタバレはないので未プレイでも読めます)
追記:2022年10月28日
ネタバレはないと書きながら他作品のネタバレになりそうな文言があったので表現を一部削除・修正
メインライターの早瀬ゆうがSMEEのライターだったということでよくこの作品を「ブランドが違うだけのSMEE作品」と言われているのを見るが、個人的にはSMEEとは結構な違いがあるように感じた。アマナツのSMEE作品と比べた良い点としては「ヒロイン間の絡みが個別ルートでもあること」と「恋愛の過程の描写が丁寧なこと」が挙げられる。SMEE作品は個別ルートに入ると他のヒロインがあまり出てこない作品が多く、なんなら他のヒロイン自体全く出てこないこともある作品も多いので、「ヒロインが魅力的な分、ヒロイン間の絡みがもっと見たかった」と高評価レビューをしている人でも書いていることが多いのだが、この作品では共通に入ってもヒロインとサブキャラと主人公の7人組の絡みは多く描かれていて、そこは良い点だと思った。また恋愛描写については個別ルートの感想で言及しているようにどのヒロインもかなり丁寧に描写してあり、ここもSMEEとの違いを感じた。もっともSMEE作品に比べてアマナツでここの描写が丁寧なのはおそらくフルプライスでヒロインが3人だけというゲームなので必然的に各ヒロインを深掘りする必要があるからということがあると思うが。SMEEは基本的に4,5人はヒロインがいるので、ここの分量の差は出てくるのだろう。他に感じたSMEEとの差は「ギャグがそれほど尖っておらずマイルド」であるということがある。この関係で主人公はSMEEの主人公に比べて常識的なキャラになっておりモブキャラもそんなに特徴があるキャラがいなかった。SMEEのモブはかなり個性的なキャラが多いので、そこの差は感じた。どちらが好きかは好みの問題だろうが。ただ、どっちも恋愛ものとしてのクオリティーは高いので、アマナツが気に入った方はSMEE作品も触れてみることをオススメする。個人的に1番好きなのは「Making✳︎Lovers」。SMEEではないが早瀬ゆう作品ではロープライスでとっつきやすい「日向千尋は仕事が続かない」もおすすめ。
総括 86点
前述した通り惜しい点はあるものの、全体的にキャラゲーとして良質な作品だった。どのルートも安定したクオリティーで楽しんでプレイすることができた。あざらしそふとのゲームははじめてプレイしたが、おそらくヒロインとの関係性を丁寧に描くところが特徴のメーカーなのだと思う。そこはかなり好感触だったので、他のゲームもプレイしていきたい。