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hoshikenさんの義妹だからできること、妹じゃないとダメなこと。の長文感想

ユーザー
hoshiken
ゲーム
義妹だからできること、妹じゃないとダメなこと。
ブランド
Mink EGO
得点
82
参照数
2992

一言コメント

どこに視点を置くかによって、見え方がまるで違ってくる。間違いなく言えるのは、これは、妹の、愛情の物語。「この世界は、ウソとニセモノだらけ。あるのは、繋がってるっていう、今この瞬間と───」「あとは、血のつながりという、縁だけ」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品を購入した人は、妹寝取られ、それも“実妹”である唯の寝取られを期待する層が多いのではないかと思う。
自分もその口で、一周目のプレイではある種肩透かしを食らう事となった。
しかし、この作品の本当の主役である彼女の想いを知った上での二周目では、全ての景色がまるで違って見えた。


登場人物と粗筋を振り返ってみる、まずは本編。

【本編の登場人物】
・高藤 翔:主人公。実妹である唯が好き。人口透析患者で余命数年。
・高藤 唯:実妹。実兄である翔が好き。
・高藤 伊織:ぽっと出義妹。
・高藤 ゆかり:翔と唯の養母。
・高藤 不二夫:唯の養父で、翔の主治医。ゆかりと結婚し、翔と唯の義父に。
・高藤 征一:翔と唯の前養父。故人。

【本編の粗筋】
・転校生(伊織)に、唯への想いがバレる。伊織も実兄を愛していた過去があり、秘密の共有を口実に肉体関係を持つ。
・関係を持った後に、伊織が新しく出来る家族、義妹だと知る。
・唯と結ばれる。
・唯と不二夫の密会の様子を、伊織に見せられる。
・唯が翔を避け、無断外泊を繰り返す。
・他の男とSEXをする唯の写真がメールで届く。
・親友と唯のSEX現場を目撃。
・唯の事を忘れるよう伊織に諭されるが、拒絶。
・唯と征一が過去に関係を持っていた動画を、伊織に見せられる。
・唯が昔から自分を裏切っていたと思い、陵辱の限りを尽くす。
・唯の裏切りと思えた行動は、全て伊織によるミスリードと気づく。
・唯とゆかりに包丁を向けた伊織の首を絞めて、殺害する。

ぶつ切りのように本編は終わり、真相が【ことのうらがわ】で明かされる。

【ことのうらがわの登場人物】
・伊織:本作の本当の意味での主役。翔の実妹。
・高藤 翔:伊織の実兄。
・高藤 唯:翔の種違いの妹。
・馨:伊織、翔、唯の実母。
・高藤 征一:唯の実父。大病院の跡取り、唯を溺愛している。
・高藤 不二夫:征一の弟。医者。
・高藤 ゆかり:唯の養母。空気。

【ことのうらがわの粗筋・過去】
・馨に惚れた不二夫が、征一にそそのかされ、馨の旦那を病死に見せて殺害。
・征一が、馨と結婚。征一により、伊織と翔が里親に出される。
・不二夫が、唯を身ごもる馨をレイプする。馨は死亡、生まれてきた唯もその影響で病弱となる。
・征一が、唯に内臓を移植する為、翔を引き取る。内臓移植により唯は健康体となる。翔は病弱となり伊織の記憶を失い、唯を妹と認識するようになる。記憶混濁の詳細は不明。
・過去の悪事を脅迫材料に不二夫を下僕とする。
・唯を偏執的に愛するが手は出さない征一に、唯と瓜二つの演技を武器に近づき肉体関係を持ち、油断させ殺害する。

【ことのうらがわの粗筋・本編の時間軸】
・翔に唯を見限らせ内臓を取り戻すために、不二夫とゆかりを結婚させ高藤家に潜り込む。
・翔の内臓が自身に移植された可能性を疑う唯に、不二夫に観てもらうよう誘導する(唯と不二夫の密会の真相)
・翔と唯のSEX現場の盗撮写真を盾に、匿名のメールで唯を脅迫する(唯の無断外泊と翔の親友とのSEXの真相。SEXについては実際は未遂)
・唯の姿で征一と関係を持ったときの写真や動画で、唯が不義を働いていると翔に勘違いさせる。
・それでも翔の心は唯に向いていると知り、自ら翔の手にかかり、自身の内臓を翔に移植させる道を選ぶ。

ことのうらがわを終えて気づく。本編が伊織の死亡をもってぶつ切りで終わる理由に。
だってこの物語は、伊織の物語なのだから。世界に何もかもを奪われた妹が、ただ一つ信じる絆を取り戻す為の、復讐と愛情のお話なのだから。


既に他の方も語っている通り、この作品は酷く中途半端かもしれない。
寝取られを期待すると、伊織は確かに他の男と関係を持っているがそれは過去の話であり、またそれはあくまで手段であり、むしろ捕食者は伊織である。
唯にしても、本編は彼女の不義の疑いが主軸の一つとなるが、それらはあくまで未遂である。

シナリオとして見た場合も、時系列の甘さや記憶混濁等の設定の説明不足、兄妹の過去の描写が少なく伊織の愛情の源泉の説得力に欠ける等、粗が目立つ。
何より一周目と二周目で違う視点で楽しめるならともかく、二周目でないと良さが分からないなんてのは、作品として落第もよいところだ。

翔の事も好きになれない。“実妹”の唯を想いながら“義妹”の伊織とも関係を続けていた彼に、唯の不義の疑いを責める資格があるとは思えないからだ。
兄に感情移入できない、これは兄妹モノとしては致命的だ。


それでもこの作品の二周目で、伊織という妹の生き様に触れたとき、心を動かさずにはいられなかった。
彼女の兄への想いの源泉は不透明でも、もしかしたらそれはウソだらけの世界で縋るしかなかった幻のようなものかもしれないけれど。
けっして兄妹の物語とは呼べない、妹の、愛情の物語に、心を動かされた。

「わたしも、先輩と同じでした。兄妹なのに・・・・・・実の兄を異性として愛してましたから」
「赤の他人との兄妹ごっこ。それならガマンする必要もないですよね?」
「だって、兄さんとのえっちなんですよ?どんなに願っても叶わなかった兄さんとのえっちが、ついにできちゃうんですよ?」

再開した兄に妹と告げることも出来ず、復讐の対象である唯の代替品として、例えごっこ遊びとしてでも兄妹として結ばれ、
兄妹で仲良く登校するのが、兄妹で仲良くランチをするのが夢だったと、些細な日常に喜ぶ姿に、

「嬉しい・・・・・・お兄ちゃんに、キスしてもらえるなんて・・・・・・もう、死んでもいいや・・・・・・」

激しい情事を何度も重ねながらも、初めてのキスに喜ぶ姿に。

最後の最期まで、本当の妹と気づいてもらえる事もなく、憎まれながら恨まれながら兄の手にかかり、愛しい人の一部になって生き続ける道を選んだ姿に、
涙を流さずにはいられなかった。


各所に粗が目立つものの、他には無い味わいがあるだけに、シナリオ重視で練り直したリメイクを渇望している作品である。



『───あの時、本音と涙をこぼさないでいるのに、必死だったわたし。』
『ようやく逢えたお兄ちゃんに、いますぐ甘えたかった。』

『わたしだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの妹の伊織だよって───』