「夏休み」という言葉について認識を改めさせられるようなメッセージ性の強い作品
プレイ中に感じたこと
この作品は全体的に「逃げることは無駄じゃないんだ」というようなメッセージ性があった。
どうしても嫌な現実からは、逃げても、大丈夫だよっていってくれるようなやさしさを感じた。
逃げてしまったけど、夏休みを通して逃げた場所で、逃げた経験が逆に力になって、今後の原動力になるような。
作中では、鳥がさらに羽ばたくための、羽休めのようなものと述べられている。
つまり、「夏休み」という言葉にはそういう意味が込められている。
この作品のテーマでもある「子供の頃に感じたようなどこか懐かしくて新鮮な夏を体験する」ということは、本来の気持ちを思い出すためのことなのだと思った。
主人公が本当は水泳が好きなのだということ。
主人公がそうであるように、本気で取り組んでいれば、いつのまにか「好き」が「好き」だけじゃいられなくなって、辛い思いをしてしまうこと。
主人公は「同じ結果になったとしても、水泳をやっていた」と言っていた。
つまり「夏休みの過ごし方を思い出した」というのは、忘れていた本来の水泳への気持ちを思い出すことなのだと感じた。
作中にあった「行先はわからないけど、そのまぶしさを求めて鳥が羽ばたいていく」っていう描写が素敵だった。
上述した話と同じになるが、
うみルートでは、主人公が水泳部の活躍をテレビで知って、自分のやってきたことが否定されたように感じたけど、「頑張ったんだね」の一言で救われている。
静久ルートも同様だし、うみちゃんのSSでも、うみちゃん自身が似たようにそれで救われている。
頑張ったねというのは、本来の自分を取り戻してくれるようなそんな優しい言葉なんだなと感じた。
目の前の現実がつらくて、バラバラになったような自分を見失ってしまう状態から、かつて頑張っていたころの本来の気持ちを思い出させてくれるような。
作中でも「自分を見つけてくれたようだった」と主人公が感じている。
プレイし終わって、感じたこと
基本的には前述したようなテーマ・メッセージ性であった。
「summer pokets」というタイトルは、夏の大切な記憶たちという意味合いなんだろう。
子供の頃に感じた眩しい記憶をポケットにしまうけども、
いつのまにか、ポケットからは無くなってしまっている。
だけど、微かに残る記憶の欠片、深くは思い出せないけど、あの時楽しかったよなって気持ちは覚えている。
あの時感じた眩しさがあるから、過去でなく未来へ羽ばたくことができる。
というようなメッセージを最後まで強く感じさせてくれる作品であった。
評価
ライターさんの文章表現がよい。
言い回しも綺麗で、登場人物の感情や情景がよく表現できていると思った。
またテキストも面白く、とても楽しくプレイができた。
しかし一方で、作中で語られない謎はかなり多い。
実際、自分なりに考察しつつプレイしたものの、わからない部分が多く、考察サイトをみてようやくわかるような感じだった。
あえてそう言った部分は語らない事にしているのだろうが、プレイ中のモヤモヤは大きく、考えるよりも感受性を強くしてプレイすることを強いられているようだった。
それでも、ストーリー・シナリオ自体はテーマにとても絡んでおり、そこの部分の評価が大きい。
プレイ中、とくにALKA・Poketsルートはとても感動したし、うみ、しろはの互いを思う気持ちが物凄く伝わってきた。
そういった部分を強調するため、あえて、ある程度謎のことは作中で解説しなかったのかもしれない。
ループや能力がらみで、非常に緻密に練られえているものの、複雑でわかりずらさのあるストーリーであった。
正直、そういった考察はかなりめんどくさい。
しろは・鷗ルートが個人的に大好きなルート。
夏休みの楽しさみたいなのがとても伝わってくる。
新島夕のテキストがハマる。
Poketsルートも好きで、うみちゃんの気持ちを考えるだけで泣ける。
エンディングについても、ハッピーエンドでよかった。
公式サイトにのってるショートストーリーは全部読んで、感動した。
かつてこれほど一貫したメッセージ性のある作品あっただろうか。。
「夏休み」という言葉の深さたるや、それだけで込み上げる気持ちを抑えられない。
ただの夏ゲーではない。
登場人物それぞれの「夏休み」があるんだなと。
立ち向かう覚悟が「夏休みの終わり」を告げることができるんだろうなと。
それを考えるだけで、色んな登場人物のそれぞれの思いが想起されて、
いい作品だなぁと強く感じる。