シナリオ、雰囲気、演出、声優、どれも高水準。音楽は世界観に合っていて良い。絵は今風ではないが個人的にはとても良かった。 作り手の意気込みが見える、かなりの力作。エロ描写はそこに至るまでの過程が良く内容も濃い目。 読み手の年齢によって評価が大きく分かれる作品だと思います。30歳以上の方に特にお勧め。 ヒット作によくある絵とシチュ重視、壮大な感動モノやあざとい泣きゲー、○○萌え~等とは方向性が激しく違うため注意。
たぶん、一般的な評価をするならプレイヤーの年齢が25歳なら75点。
ここから年齢がひとつ下がれば-1~2点 上がれば+1点と思います。
20歳なら65~70点、30歳なら80点、という感じで。
なにしろ絵といい内容といい、今風ではないし流行りモノとは程遠い作りですし
この後に書く「真のテーマ」に至っては読み手(特に若い人ほど)によっては
「鬱」扱いされてもおかしくないからです。
では、なぜ私が高得点をつけたのか?
それは以下の理由によって、です。
*ここから重要なネタバレあります*
【プレイ前の方はこの先は絶対に読まないで!!】
なんでこの作品にここまで高い点数を? と思われた方。
あるいは雪影最高! という方向けの内容を書いている・・・はずです(笑)
あくまでも私の個人的な意見ですが・・・
この作品には表と裏のテーマがあると断言します。
表は見たまんま。
ノスタルジックで、伝奇風に描かれた舞台を背景にした
姉を名乗る謎の女性(義理の姉)との恋愛。
裏の、そして真のテーマは「禁忌」でしょう。
トゥルーエンドまで読み進めても回収しきれていない布石から見えてくる真実。
この姉弟は、どう見ても血が繋がっています。
カニバリズム、現代社会に於いて戸籍を持たぬ山の民、近親相姦。
紫子や成美との関係さえも世間から見れば禁忌と言えるでしょう。
この仮説を是とした場合、真の両親が誰か、そしてどのようにして姉弟が生まれ
離れ離れになったのか・・・そこにも赦され難いものがあったはずです。
これらの非常に重たい題材を内包しているのに、さほどの嫌味を感じさせず
手応えがありつつも一気に読めてしまう作りには心底拍手を贈りたいと思います。
私は読み物としては近親相姦の持つ独特のせつなさが大好きです。
祝福されない関係、というものは言い換えると「二人だけの世界」であり
「この辺りで生きているのは私たちだけね」であり
「人間ではない(ロボとかアンドロイド等)ヒロインを愛する」のと同系列であり
「愛するほどに(世間的には)不幸に向かう二人」なのです。
さらにその他の禁忌を絡めることで、その「究極の二人ぼっち」の濃度、純度を
これでもかと増しているわけです。
これだけでも二人ぼっちスキーの私の琴線を叩きまくりなのに
その恋愛対象が、凶悪すぎるほどに可愛くて綺麗な姉さんなわけで・・・
姉さんと言えばこたつみかん!
一緒にこたつに入っているだけでも幸せ、と感じられる雰囲気作りは秀逸ですし
完璧で優しい甘々姉さんかと思いきや、時々見せる可愛い小悪魔っぷり。
ヤキモチを焼いて拗ねるシーン、みえみえの嘘泣き等も嫌味がなく
むしろ姉さんの可愛さに磨きをかけてくれます。
そして究極はやはり、成美が押しかけて来た時にこたつの中で
姉さんがそっと足の指を絡めてきてくれるシーンでしょうとも!!
作者は私を殺す気だ! あぁ、間違いない!!(血涙)
成美のせいで姉さんとくっつけないという欲求不満で悶々としていた我々には
この小さな幸せの破壊力がとんでもなく強烈です。
即物的にキスしたりエッチできちゃうよりも、何倍もくるものがありませんか?
(この辺り、たぶん若い人には理解しにくい気がします)
また、姉さんと紫子は声優さんが見事に合っているんですよね。
今となっては他の声優さんじゃ絶対駄目だと断言しちゃうくらいに。
おっと、姉さんの素晴らしさを語り続けるといつまで経っても終わらないので(汗)
あとは気付いた点を箇条書きで。
トゥルールートに入る迄、たぶん(自力攻略をしていた)ほとんどのプレイヤーが
「ここに出るはずの選択肢が出ない!!」とやきもきしたと思います。
(「もう我慢できない!」しか選べないアレです)
ゴールへの分岐がそこに見えているのに選べない、あのもどかしさ。
それは姉さんが欲しくてしかたなくて胸を焦がす修くんの気持ちと
我々プレイヤーの気持ちを見事にシンクロさせてくれる心憎い仕掛け。
田舎、雪国、そこかしこに懐かしさを感じさせる古臭い友情ドラマ。
そういった脇の要素もいい意味でベタに描かれています。(これも若向けでない理由)
音楽も効果音も、単体では目立ち過ぎない程度に。
けれどゲームを盛り上げるのに過不足なく機能し、良い仕事をしています。
一部の立ち絵がイマイチだとか複線の一部が解り難いとか未回収とか・・・
違和感を感じたのは序盤の成美と紫子くらい=後半は問題ないし姉さんは良いので問題なし!
解り難いとか未回収とかは、テーマが禁忌なのでわざと伏せてあると判断。
むしろ行間を読むとか、想像する楽しさを味わえるので+要素でしょう。
(これも若向けでないと思える理由のひとつ)
いい加減長くなったので、そろそろ終わりますが・・・
重いテーマを重すぎない見せ方で提供している。
適度に配置された謎とそれが氷解してゆくまでの展開も良く、読後感には大満足。
姉さん(と、紫子)が魅力的すぎること。
即物的な快楽よりもじわじわと間接的に感情の起伏を与えてくるねっとりとした作り。
様々ないぶし銀の、職人的手法を重ねて丁寧に作り上げたシナリオ。
ツボを押さえて質、量ともに申し分ない、必然性を強く感じるエロ。
これらによってコツコツ積み上げた世界で描かれる究極のふたりぼっち。
アラを探せばいくらでもあるでしょうが、それらがほとんど気にならなくなるほど
姉さんをいとおしいと感じ、この世界に惹き込まれた私が居ます。
そしてデビュー作なのに、あえて流行りに背を向けこんな危険なテーマに挑み
高いレベルで作品として仕上げた作り手の気骨は高く評価されるべきと信じます。
声に一色ヒカルを採用しヒロインとして紹介されている成美が
本当に嫌な奴として描ききってあるという媚びない姿勢もまた素敵。
その上で、何があっても全てを赦し主人公を守ろうとする紫子も良し。
本当は満点をつけたいところですが、トゥルーエンドのエピローグが
ほんの少し物足りなかったので1点だけ引いて、99点と評価しました。
最後にこれだけは云いたい!!
雪影は、オンリーワンと言える作品だと思います。
姉、雪国、ノスタルジー、などの雰囲気だけなら似た作品は今後も出てくるでしょう。
けれど、「禁忌」に正面から挑み、赦されない関係を丁寧に作品に昇華させ
面白い読み物として仕上げられた本作に、本当の意味で近い作品が
今後出てくる可能性はとても低いと思います。
なぜならば雪影は、発売後すぐに中古価格が暴落し
2年を待たずして1500円以下で売られているからです。
総出荷本数は判りませんが、売れなかったか人気が無かったのは想像に難くない訳で
そんな作品の二の轍を踏もうとするメーカーは大馬鹿か無謀な勇者のどちらかです。
だからオンリーワン。
大好きなのに、もう似た作品にはたぶん出会えない。
それだけに誰がなんと言っても私は賛辞を贈りたい!!
姉さんに出会えた雪影と作者にありがとう!!
・・・ところで。
親愛なるSilver Bullet様。
雪影の次の作品が魔法少女モノってのはどういうことですくわッ!?(血涙の大河)
流行りの絵師を連れてきて、いかにも今風な媚び媚び作品を作って
なりふり構わず露骨に路線変更した上にやっぱり売れてなさそうなのって・・・