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highcampusさんの素晴らしき日々 ~不連続存在~の長文感想

ユーザー
highcampus
ゲーム
素晴らしき日々 ~不連続存在~
ブランド
ケロQ
得点
91
参照数
1325

一言コメント

名作。「終ノ空」未プレイ、ケロQ作品も初めてという状態でプレイした。そのため何もかもが新鮮で、良いゲーム体験ができたと思う。この路線で本作以上の作品を作ることはケロQ自身にも難しいのではないだろうか。本作をプレイし終えた時にはあまりにも満足しすぎてエロゲ界から成仏しかけたものの、僕の中のユイにゃんがドロップキックしてくれたおかげで現界し続けることになった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず感心したのは、このゲームがウェルメイド、よくできているということだ。クオリティを証明する適切な方法が見つからないけれど、CG枚数や主題歌・BGMの曲数、テキスト容量などの数字からも力の入れようが計れるし、少しプレイすれば絵や音、シナリオ制作に手間が掛かっていることが分かる。
もちろん、ウェルメイドであればそのゲームが面白いとは限らない。僕が本作に惹かれたのは、「幸福な生」という人類にとって普遍的なテーマを、現代に生きる人間の感覚で書いていることだ。作中の暦は2012年であり、携帯電話やインターネットといったガジェットも効果的に使われている。視点人物のモノローグにも、(単にインターネットスラングを使うということにとどまらない)現代的な感性が見られて好感が持てる。
シナリオを全て読んでいくと、一体何が現実で何が虚構なのか分からなくなってしまう。しかし、これは「何を信じていいか分からない」という不安を呼び起こすものではないだろう。「自分が信じたいと思ったなら何を信じてもいい」という肯定的な捉え方をしたいところだ。
昨今、いわゆるグランドエンディング・Trueエンディングとしてゲームのシナリオにただ一つの正しいルート、「正史」を求める声が増えつつあるようだ。しかし、僕は本作が示したようなシナリオ構成から感じられる余韻をこそ評価したい。「世にも奇妙な物語」を語り終えたタモリがニヤっと笑った時のような気持ちの良い気持ち悪さがそこにはある。
最後に、音楽に評価点を入れたので好きな曲を挙げておこう。BGMでは「夜の向日葵」、ボーカル曲では「ナグルファルの船上にて」が素晴らしい。
前者は本作冒頭、屋上で由岐がタバコを吸うシーンで流れるのだが、あの場面はビジュアル、テキスト、ボイス、音楽が完全に噛み合っていて素敵だった。
後者からは、ハッピーエンドの切なさを感じる。幸せに至った物語は、それ以上語られる必要がなくなるから終わっていく。分かってはいても、物語の終わりはいつだって切ない。それがどんなに幸せな終わり方であろうとも。この曲を聴いているといつも、幸せがちぎれて消えていくイメージが頭に浮かぶ。