(GiveUp) バカ同士の心理戦ほど見るに堪えないものはない。窮地のときほど冷静に、戦場に感傷は邪魔、中途半端な頭脳戦は己の無能を晒すだけ。無能の主人公など見てて不快なだけである。
二章途中で断念。
主人公がヒロイズムに酔っていて、ただただ不快。センチメンタリズムなど戦争においては邪魔でしかない。小説においてセンチメンタリズムは必須ではあるが、過度にそれを行いたいのならば題材を変えるのが無難である。
目的のためにすべてを捨てる覚悟があるという言葉に反してセンチメンタリズムに浸り続けるため、作品の軸が定まらない。また、作品のリアリティのレベルがどこに設定されているかも曖昧。リアリズムの主人公の皮を被ったセンチメンタリストはありがちといえるが、この手の主人公のバランスは非常に難しい。基本リアリストでなければセンチメンタリストの側面は引き立たない。基本センチメンタリストで、たまにリアリストというのもありで、この作品は後者の主人公をつくろうとしていると思うが、残念ながらそれにも成功していない。なぜならこの主人公がただの善人で他者を切り捨てることが出来ないからだ。
読者を驚かすための意図的な情報の隠蔽に関しても隠し方が下手すぎる。最も気になったのは1月副隊長が糸と戦う場面で、主人公が戦闘を観察しようとしなかったこと。主人公の目的を考えるならば敵方の要人の能力が判明しそうな場面であれば、多少のリスクを取っても知ろうとするべきである。後々、驚かすため出来るだけ手札を明かさないという意図が透けていて興醒めだ。これならば手札をさっさと明かしてしまい、その後は驚くべき運用により読者を驚かすというほうを狙うほうが確実におもしろい。最も、これは言うは易く行うは難しというものだろう。だが、そこまでつくりこめない限り、この作品がおもしろくなることもないと思った。騙し合い化かし合いをするなら知恵を絞り考え尽くさなければならない。間抜け同士の騙し合いで楽しませるつもりならば、全年齢対象でやるほうがまだ勝算があっただろう。総じて未熟と判断せざる得ない作品である。
唯一、褒められる点はキャスティング。特に卯衣さんには驚かされた。イントネーションの置き方が非常に上手く、聴いているだけで心地が良い演技をしていた。たった数年で凄まじい上達をしたことに称賛を送りたいほどだ。それと主人公のオンボイスというのもいい選択だったと思う。音が乗ったことで救われたプレイヤーも多いことだと思う。この作品を評価している人たちの中にも、主人公に声があったがために評価できたという人もいるだろう。この魅力のない主人公が魅力的に見える要因があるとすれば、それは声をおいて他にないと思う。
最後に言っておきたいのは、作品の方向性は間違っていると思わないということ。個人的にこの方向は好みであるし、そういう作品を好む層も増えてきている印象もある。だが、この手の作品は作りこむのに相当の時間が掛かるし、頭も相応に必要だ。それ故に未熟という表現を用いた。熟するのに時間は掛かると思うが、いつかだれもを黙らせる作品をつくりあげることを願っている。