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hidamalarさんの蒼の彼方のフォーリズムの長文感想

ユーザー
hidamalar
ゲーム
蒼の彼方のフォーリズム
ブランド
sprite
得点
73
参照数
1850

一言コメント

エフェクト作画、原画家、キャラデザイナー、演出、特に彼らの力がこの作品を十二分に引き出した。ラスト戦、素晴らしい仕事だった。素晴らしい物を見せてもらって興奮した。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 ビジュアルノベルという立ち絵+文章のシステムの新たな活かし方こそエロゲが抱える問題であり、解決しなければ展望が開けない最難関の課題だ。フライングサーカスという題材、これを体験版でプレイして私はこれはビジュアルノベルでやるべきものだとはっきり確信した。だが、真新しいというわけではない。空を飛ぶスポーツを派手な演出で仕立てあげるというのは、数多くの空中戦を演出してきたエロゲの歴史において決して新しいものとは言えないだろう。もちろん、歴史の浅い架空スポーツを作中につくりあげ、歴史の浅い競技だからこそ起こる既存の常識を打ち破るイノベーションを軸としたストーリーは真新しく興奮できた。だが、それはシナリオ上のミクロな新機軸でしかない。練達のエロゲーマー、もしくは物語を多少なりとも分類、分析できるものならばこれを真新しいとは思わないだろう。
だから、正直に言うのならばシナリオ上で私の想像を超えるものを見せてくれることは残念ながらなかった。キャラクターもシナリオも型にハマっていて私を十分に満足に至らしめることはなかった。もちろん、シナリオが下手だというのではない。みさき/明日香が陰/陽の関係性を見せたように、『蒼の彼方のフォーリズム』(以下蒼かな)は人の性格の描き出し方が大変興味深い。人が自己の中に持っているコントロール不可能な素質的な感情の持ち方によってキャラクターの性格と描かれ方が全く違っている。楽しさを胸に刻み先天的にも楽しむ素質を持ったものは力強く楽しさを叫び昌也を引っ張り上げ、心に嫉妬と不安を消すことが出来ない者は昌也と一緒になることで飛ぶためにもがき苦しみ空へ這い上がる。キャラ毎にシナリオ上のテーマがあり、そのテーマは人間の感情に寄り添ったものから生み出される。キャラが型にハマっていると前述したが、そこから出立してなお型を破るため人を描き出そうとするこの意志は重く軽視していいものではない。また誰と一緒にいることでどのような未来が生み出されるか、ルート毎の結末の微妙な差異は現実に生きている私たちにとって非常に重要な問題だ。大きな差異を出さずに微妙な差異を出したシナリオは、人の意志と未来偏在性の関係を絶妙に浮かび上がらせている。すべてのルート分岐がある作品にはこの問題が提示されるが、あおかなで体感したことは個人的にはクリティカルな回答でおもしろい。
 ここまであおかなの主にシナリオを中心とした点を書いてきたが、あおかなの最大の魅力は個人的には間違いなく画だ。繊細なラインに絶妙なバランスで描かれたキャラデザは間違いなく現代のキャラデザの最先端をいっている。そしてSprite最大の魅力ともいえる安定してきめ細かいグラフィックと背景。原画の良さを全く崩さないままに丁寧に仕上げられた完成された画には、ビジュアルノベルで最も重要な立ち絵画面(単純に立ち絵シーンが最も見ている時間が長いため)を飽きさせずに見ていられるかわいさときれいさがある。個人的に特筆したいのは睫毛。上睫毛は均一に塗らず削ったようなラインを細かく入れている。これは目を大きく美しく引き立たせている。下睫を描かないことも無駄に目を強調せず大きくしない、この作品にマッチした繊細な仕上がり要因となる重要なデザインだ。品を崩さないように最新の注意を配ったデザインだ。これは身体の描き方にしても同じことが言えるが下品になるかならないかの瀬戸際を超えないようにしている。真白の身体の描かれ方がそれを最も顕著に示しているだろう(子供っぽい身体つきだからという理由を排した上で)。
 最後に明日香ルート、ラストの戦闘の素晴らしさに言及しておこう。私はラストバトルのみにおいては歴代傑作と並びうるポテンシャルがあったと感じている。ビジュアルノベルの傑作の多くはラストシーンでシナリオによって読み手を引き込みそれに合った演出をして傑作として完結する。このときの演出は最良であることが望ましいが傑作と呼ばれるものでも多くは演出の力不足によってそれが達成されないというのが実情だろう。それほどビジュアルノベルの演出は手を加えにくく細心の注意を払って見せ方を考えなければならないものだと考えられる。ラストシーンの演出であっても動画を使わない場合、カットで割るようにアップなどの処理をした原画などを用いて文章を進む毎に画面を編集し演出するのが一般的だ。だが、やはりそれだけで読み手の感情を引き出す画面作りは難しく音楽とシナリオの力が合わさらなければ満足のいくラストを演出することは難しいだろう。だが、明日香ルートのラストにおいて演出は間違いなくシナリオ以上の力を引き出し魅せるものをつくっていた。フライングサーカスに革命的なことが起きているイメージをエフェクト作画で完璧に表現しきっていた。丸い円が描かれたエフェクト作画の美しいイメージが今も瞼の裏に焼き付いていて離れない。またそれを彩る音楽もハマっていた。ラストバトルの演出の素晴らさを見終えたときあおかなをプレイして良かったという満足感に包まれ不満な部分すらも覆い隠された感じがあった。ゆえに私の採点は甘いと自覚している。明日香ルートを最後にプレイした偶然がこの作品を最高のものに彩った最大の要因であるかもしれない。
ヒロインのルート分岐でみさきの抱えていてものが気になって仕方がなく腹に一物を抱えたヒロイン順にプレイしたが(みさき→ましろ→りか→あすか)結果的におもしろい順番でプレイ出来たと思う。ヒロインの攻略順による体感点数の上下は個人によって差が大きいものだ。最良の攻略順は必ずしもシナリオの開示度によらず、自身の感性によるものほとんどだと、ある程度経験を重ねたエロゲーマーであれば共通認識になっている信じている。そのため推奨攻略順などはないと言っておく。
私にとって最大の僥倖はあおかなスタッフがみさきを愛してくれていると感じられたことだ。彼女を好きだと言えるスタッフが多そうなところで私の感性とハマる部分があって、これもまた私が楽しめた重要な要素であったことを記しておく。それと、サービスのためのセックスは入れないほうが賢明であると思う。セックスによってヒロインの一面を描き出そうとするのならばもう少し練って欲しい。ビジュアルノベルのセックス問題も永遠の、そして最大の課題の一つだ。

さて、もう一回みさきちゃんルートをプレイ。みさきちゃんは忘れられないヒロインの一人になりそう。みさきルートとラストバトルはほんとに好きって言える。ましろルートももう一回やりたいルートだ。ましろかわいいもので。みさきとましろの声優さんグッジョブ!まじグッジョブ!