最高のゴールデンタイムを経て、ハッピーエンド
※ 完全なネタバレになってるので、オールクリアされていない方は見ないことを推奨します。
【本作の本質】
そもそも本作は、ヒロインの死を悲しむゲームではないと思う。
根拠としては、主人公と理亜が映画を見るシーンで「人が死んで感動」という展開に理亜が否定的であること、
また「生きてるオレだけを見てて」という発言が挙げられる。
これは本作の本質が「死」ではなく「生」にあるという、我々プレイヤーへのメッセージに思えてならない。
事実、理亜が死ぬ瞬間の描写は無く、葬儀も理亜の母親と短い会話をしてすぐ終わる。
描写が薄いというよりは、まるで書く気がないとしか思えない。
故に死そのものよりも、理亜がどんな人生を送ったか、が重視されるべきなのでないだろうか。
それを踏まえた上で、私は最終盤において描かれたある日常について語ってみたい。
【理亜ルートエピローグの前半】
ここでは理亜が死ぬまでの日常が淡々と描かれており、このシーンこそが、私にとってこの作品の全てである。
二人でとりとめのない話を楽しむ……だけではない。
シルヴィが王女様特権を振るったり。玲奈とダラけたり。エルが生真面目だったり。
茜にスポーツに誘われたり。バカ言ってはミナに呆れられたり。
そんな、ここまでたどり着いたプレイヤーが散々見てきたような日常が、静かに描かれている。
ただ一つそれまでとは違う点がある。理亜も当然のようにその中にいることだ。
思えば、理亜は隔離された存在だった。基本的に主人公と絢華以外とは会話しない。
個別ルートに入れば多少はあるものの、シルヴィ絡みはともかくそれ以外は溶け込んでいるとは言い難い。
それ故に、主人公には「理亜といる日常」「他のキャラといる日常」という、基本的に重ならない二つの日常があった。
しかし、このエピローグはどうだろうか。自然に理亜がその両方にいて、主人公と全ての時間を共有している。
そのこと自体が既に感慨深く、それでいて「他のキャラといる日常」も理亜が加わった以外は今までと何も変わらない。
この「変わらない」ことこそが、この一連のシーンで重要である。
【淡々とした日常の意味】
前項の通り、この日常は淡々と、それまでと変わることなく描かれている。
全くドラマチックでないし、理亜の現状を踏まえて悲劇的な雰囲気に持っていくこともしない。
しかし、だからこそ良い。そんな淡々としながらも、暖かい日常を理亜と主人公が送っていることに意味があるのだ。
この日常は、主人公が恋人として理亜を想い、「生きてる」彼女と接し続け「カッコつけた」証だからである。
常に死と隣り合わせている理亜ではなく、「生きてる」存在として共に過ごしたからこそ、何もドラマチックではないのだ。
主人公だけではない。事情を知る周囲の人々もそのように理亜と接している。
それが先に述べた「変わらない」ことに繋がっている。
主人公が「カッコつける」のとは違うが、周囲の人々の姿勢もまた、非常に「カッコいい」ものがあると私は思う。
故にこの今までとさほど変わらない淡々とした日常は、主人公を筆頭とし、皆が「カッコよかった」が故の、最高のゴールデンタイムなのである。
理亜は最後に主人公にこう言い残す。「すべての時間がゴールデンタイム」だと。
彼女は常々、ゴールデンタイムは限定的なものであるかのような発言をしていた。
理亜ルートのエンディング直前まではそうだった。
何が彼女を変えたかと言えば、エンディング直前で初日の出を見ながら主人公が同様の発言をしたからだろう。
しかしそれだけではなく、それを裏付けるかのような、エピローグ前半の日常があったからこそ、最後にそんな日常が過ごせたからこそ、彼女は心の底からそれを信じられるようになったのではないだろうか。
【金色に満ちた人生】
結局この日常は、作中で理亜が語ってきた金色、ゴールデンタイムといったものの本当の姿を、彼女やプレイヤーに伝えるために存在したのだと思う。
当たり前のように過ぎていく日常もまた、金色に輝いていると。
最後に描かれる淡々とした日常は、まさにそれを体現したものだったのだ。
最後まで自分のために「カッコつける」主人公と共に日常を過ごせ、その中で人生の全てが金色だと知ることが出来た彼女の人生は幸せだったに違いない。
これはもう、ハッピーエンドと言う他ないだろう。
故に本作はヒロインの死という悲しみに暮れる物語ではなく、理亜が金色に満ちた人生を送ったことにしみじみと感じ入るゲームなのだと思う。
死の直前に淡々とした日常を描写したことの意味を考え、私はそう結論するに至った。
【最後に】
実の所本作は目につく欠点もないわけではないのだが、エピローグを終えたらそれらについて語る気が完全に失せてしまった。
それだけ、この淡々とした日常……最後にして最高のゴールデンタイムに心奪われてしまったのである。
さて、感想は以上となります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
共感を得られたら嬉しい限りです。