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heniさんの1分の2恋ゴコロの長文感想

ユーザー
heni
ゲーム
1分の2恋ゴコロ
ブランド
天ノ葉
得点
43
参照数
1208

一言コメント

雑で浅い作りや不具合がこのゲームの長所全てを台無しにしている。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※【シナリオ、テキスト】、【月凪の描写、設定について】、【CG】、【その他】、【まとめ】の順番で書いています。


【シナリオ、テキスト】
 フルプライスにして、全てのルートをクリアしたとしても10時間程度のボリューム。その内容はと言うと、とにかく薄く、一つ一つのシーンが非常に短いです。掛け合いは長ければ良いというものではありませんが、本作は必要最低限か、それ以下のことしか話していない印象しかありません。「え、終わり?」と言いたくなるくらい短く、それでいてテンポも悪いです。故にキャラクター性や設定、シナリオ、何れも描写が圧倒的に不足しており、特に何の盛り上がりも感慨もなくゲームが終わります。
 急に話が変わったり、次のシーンへ移行したりということもかなり多く、特に共通パートの序、中盤が顕著です。まだ会話や展開がありそうな所で場面転換するので、これからやってみようかなと思っている方は、普段エロゲをプレイしている時の感覚は捨ててください。突然何日も吹っ飛んだり、風邪で寝込んでいたのに復帰後誰もそれに触れなかったりしますので。
 視点変更も頻繁に行われるのですが、ウィンドウの色が変わる、暗転後に「○○視点」と表示されるといったサインが一切ないため、場面転換同様、最初の内は「?」となります。

 本作におけるメインテーマ「家族の絆」についても描写が極めて薄く、とても描ききれていません。本作の「家族の絆」は、陽凪の抱える、とある事情が中核をなしています。既プレイ者ならわかっていただけるかと思うのですが、陽凪の事情と、それに対する主人公と月凪の苦悩は非常に重いものです。どのルートでも何かしらの形でこれが関わってきて、最大の山場となります。さぞ濃密に描かれるのかと思いきや、それまで同様にあっさりしていて、陽凪や月凪とちょっと話しただけで解決します。メインテーマがこれでいいのかと猛烈な違和感を覚えます。
 その後は恋人としてルートヒロインと結ばれますが、少し会話して2回Hして終わりです。なのでイチャラブを期待するのもやめましょう。

 バリバリの妹ゲーに見える本作ですが、途中で妹の陽凪と月凪が実は従妹であったことが判明します。この設定は、「従妹なんだから付き合えるじゃん?」という方向性にしか使われません。実妹ではなく従妹だからこそ活きるシナリオや関係性とも思えず、このような設定にした理由がよくわかりません。

 誤字脱字も目立ちます。中でも特徴的なのが、台詞の途中で唐突にスペースが入る時がある(例:「関西の りがある」。前後関係から察するに「訛り」)ことですね。それ以外も指示文らしきものがそのままであったり、台詞と地の文が同じウィンドウに収まっていたりします。一番酷いのは、コンフィグのキャラごとの音声設定で、月凪のところの名前が「天風陽凪」となっていることでしょうか。キャラの名前間違えますかね、普通……



【月凪の描写、設定について】
 4人いるヒロインのうち、月凪以外の3人に関しては「描写が薄い、浅い」で済ませることが出来ますが、月凪だけはその描写や設定がマイナスに突き抜けてしまっています。
 ゲーム開始早々、我々は主人公一家の経済事情を物語る侘しい食事をまざまざと見せつけられます。その際月凪は、両親を亡くした後学校をやめてまで自分たちのために働き、ご飯も作ってくれる主人公に「甲斐性なし」、「(頑張ってると言われ)結果がでなければ意味がない」と全力の煽りをぶつけて来ます。いや、やりたいことはわかるんです。小生意気で素直じゃない妹というキャラ付けをしたいのはわかるんです。しかし、そのやり方が明らかに間違っており、養われている身として超えてはいけない一線を超えた発言をしてしまっています。しかも月凪は、ギリギリの出席日数を計算して学校をサボるという、引きこもりに片足を突っ込んだ状態であり、そんな設定のキャラにこのような煽りを言わせるセンスを疑います。
 この手の暴言はその後ほとんど言わなくなりますが、ゲーム開始直後だけに強烈に印象に残ります。

 本当に酷いのは陽凪と月凪のルートに入ってからです。実は月凪は、死んだ父親(主人公にとっては叔父)から一軒家を相続しており、学校をサボってはそこで本を読み漁っていたことが判明します。主人公はルート突入後に初めてそれを知ります。姉の陽凪も知りません。
 非常に疑問なのが、何故それまで主人公に言わなかったのか、ということです。作中での月凪の発言から察するに、この家は持ち家です。一方で、主人公たちは現在住んでいるアパートに引っ越した理由が親から受け継いだ家の家賃が高くて払えないというもので、現状も作中描写を見る限りとても金銭的な余裕があるとは思えません。それなのに、家のことをバレるまで一切言わない月凪の神経は理解しがたいものがあります。主人公を嫌っている設定でこれならまだわかりますが、月凪ルートでは、昔から主人公に恋をしていたことが明らかになります。なので尚更、月凪の心情が不可解なものになります。相続した家に住むなり売るなりすれば、主人公の負担は少なからず減るはずですが、何故その発想に至らず、ひた隠しにしてきたのでしょうか。陽凪のとある事情に考慮した可能性はあるものの、主人公に隠す理由にはなっていません。
 終盤になり、月凪が医療系の学校を志望するに当たって学費が必要だねという話になった時にようやく「家を売れば……」とポロッと言いますが、遅いの一言につきます。ちなみに陽凪ルートと小雪ルートでも月凪が進学する話題が出るものの、こちらでは持ち家については一切触れられません。
 以上のことを鑑みると月凪は「青春を捨て毎日従妹である自分たちのために働いてくれる主人公を余所に、自分は学校をサボって誰にも教えてない持ち家でこっそり本を読んでいる」そして「経済事情に文句は言うが、その解決策足り得る持ち家については一切言わない」キャラということになるのですが、作ってる人達はそれでいいと本当に思ったんでしょうか。

 一つ言っておくと、別に月凪が嫌いというわけではありません。クールな皮肉屋に見えて、周囲の人間に対して不器用ながらに優しさを見せる姿には、素直で天然な陽凪とは違った魅力があります。ですが、あまりにもこの設定が酷すぎるという話なのです。
 もちろん、これがシナリオ展開やキャラ描写に活かされていれば文句は言いません。しかし、この持ち家がシナリオ上でどういう意味を持つかというと、実のところシリアスシーンへ移行するためのきっかけ程度でしかありません。正直、この設定が存在しなくても話は進められたとすら思います。つまるところこの設定は月凪というヒロインにとってマイナスにしか作用しておらず、従妹設定と同様に完全に無駄な要素となっています。コンフィグで名前を間違われるわ、描写が酷いわ、このゲームを作った人達は月凪に恨みでもあったんでしょうか。



【CG】
 総数55枚という、フルプライスにしてはずいぶん少ないCG数に加え、2016年とは思えぬ差分の少なさが目立ちます。現代のエロゲでは常識的に用意されている射精差分が、陽凪のフェラチオ、みのりの2回目の本番にしか存在しません。射精差分がこんなにないエロゲは久方ぶりですね。
また塗りもかなり雑、かつバラつきがあります。わかりやすい所で言うと乳首の色が若干黒いかと思ったら次のCGでは変に白いなど、統一感を全く感じさせません。

 じゃあ可愛くないのか?というと決してそんなことはありません。どのキャラも「おっ、可愛い」と思える瞬間が確かに存在します。私は割烹着を来た陽凪のCGが特に気に入っていて、滅茶苦茶可愛いと思ってます。
 立ち絵のバリエーションがかなり多く、髪飾りなどの小物がよく変わるのも魅力です。髪型や服装の着こなしから小物まで、相当な拘りが感じられますし、立ち絵を見てて飽きません。特に陽凪と月凪は小物が変わる頻度が高いのでチェックしてみると面白いですよ。
 しかし、立ち絵の指定をミスっているのか、会話中に突然服装や髪型が変わる時があり、バリエーションの多さを台無しにしています。

 ちなみにSD絵は各ヒロイン1種類ずつしかなく、立ち絵の代わりにしか使われません。



【その他】
 本作はオーソドックスなADVですが、UIに00年代初頭の気配を感じさせます。今時クイックセーブとクイックロードが存在しないのは流石に驚きました。また、セーブ、ロード時の現在のページ番号がわからなかったり、フォントがものすごく見にくかったり、所々で地味にマイナスを積み上げています。

 BGM自体は比較的安定したクオリティで、OP曲も良いと思います。ですがどうにも使い方が下手で、シリアスなシーンで明るい日常やデートのBGMを使うという摩訶不思議なセンスを発揮しています。

背景もかなり低レベルです。特に、襖だけがあらぬ方向に曲がっている自室と室内全てが傾いている喫茶店は見ているだけで気持ち悪くなってきます。ちなみに、そういう場合は視界をメッセージウィンドウがギリギリに見えるくらいまで下げれば大丈夫です。



【まとめ】
 本来学校に通っている年齢の主人公が妹のために日々働くという設定自体は、個人的には嫌いではありません。四人のヒロインが全く可愛くないと言えば嘘になりますし、ヒロインに次いで出番が多いバイト先の店長もおちゃめでいいキャラをしています。
 絵についても、上手さという点では特別言うことがありませんが、ヒロインを語る上で最も重要な可愛さという意味では充分な魅力があります。立ち絵のバリエーションの豊かさも、飽きさせない仕掛けとして見事だと思っています。
 やり方次第ではそれなりに面白いゲームになれる可能性はあったと思います。

 しかしその他のほぼ全ての要素により、これらが無に帰しています。メインテーマすらおざなりなシナリオ、総数も差分も少なく塗りが雑なCG、ノスタルジーすら感じさせる化石UI、誤字脱字の多さや立ち絵の表示ミスなどちょっとテストプレイすれば気付きそうな不具合。
 その何れも延期したからこそのものを感じることは出来ません。本作は一年以上延期したはずですが、どこにそんなに延期する要素があったのかイマイチわかりません。
 特に月凪の設定はちょっと考えれば無理があることがわかるはずで、根本的なセンスの無さを疑わざるを得ません。
 なので、「このゲームのヒロインをより魅力的にするためには?」と問われれば、原画家さんと声優さん以外の全てを総とっかえするのが一番簡単だと私は答えます。

 感想は以上となります。ここまで読んで下さった方がいらっしゃいましたらありがとうございます。参考にしていただけたり、共感していただければ私としては嬉しい限りです。