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heniさんのPia♥キャロットへようこそ!!4の長文感想

ユーザー
heni
ゲーム
Pia♥キャロットへようこそ!!4
ブランド
カクテル・ソフト
得点
75
参照数
820

一言コメント

 褒める所はあまりない。しかし私にとって、かけがえのないゲームになってしまった。※長文感想はメインヒロインのゆなについてダラダラと語っています。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※【ゆなルートについて】、【はるなルートのゆなについて】、【ゆなルートについて②】、【まとめ】の順番で書いています。


【ゆなルートについて】
 私がこのゲームについて語ろうとする時、メインヒロインの「滝川ゆな」を抜きにすることは出来ません。私にとって彼女は、それほどまでに魅せられたヒロインだからです。

 ゆなは、主人公が成り行きでアルバイトすることになったファミレス「piaキャロット」で、数年ぶりに再開した幼馴染です。
 主人公とゆなは、お互いを知り尽くした幼馴染ならではの、軽妙で息の合った掛け合いが光ります。その中で、ゆなは時折「太一(=主人公)は変わらないね」と嬉しそうに言います。しかし、ただ一つだけ、以前と変わったことがありました。

 それは陸上についてです。主人公とゆなは、小さい頃から一緒に走る仲でした。主人公はいつもゆなより早く、ゆなにとって目標となる存在でもありました。それ故、二人にとって陸上は二人をつなぐ絆と言っても良いくらい大切なものでした。そんな二人は中学、高校と陸上の道に進みます。ですが、主人公は半年ほど前の大会でアキレス腱を切ってしまい、そのことが原因で全力で走ろうとすると心がブレーキをかける、イップスという病気になってしまったのです。結果、大好きだった陸上を諦めてしまいました。今も陸上を続けているゆなと再開してからは、「また走れるようになるかもしれない」と希望を持ち、リハビリと称して二人でランニングを初めます。リハビリを通じてイップスを克服し、以前の自分を取り戻す……それがゆなルートのテーマとなります。

 様々なレビューを拝見していると、「ゆなルートは走ってるだけ」という意見を目にします。確かに、ゆなルートに限定して言えば、イベントの多くをリハビリで占めていることもあり、単に走ってるだけという印象は拭えません。最初から好感度が高い故か、段々と恋愛関係になっていく感じでもなく、恋人になってからはイップスの克服が本格化し、イチャイチャすることもほぼないため、尚更です。可愛いけど特別な感じはないな、というのが初回クリア時の感想でした。私のその評価が一変したのは、ゆなルートから派生する、隠しヒロインのはるなのルートをプレイしてからでした。


【はるなルートのゆな】
 はるなルートは、キャラクター描写の上手さが他8ルートとは一線を画しています。ゆなルートもそうなのですが、本作の個別ルートは全体的に描写が拙く、また主人公とルートヒロイン以外はほぼ登場しないのです。しかしはるなルートははるなの他、主題となる陸上に欠かせないゆなと、主人公とゆな共通の幼馴染である春雅にもスポットが当たり、何れも魅力的に描かれています。

 はるなルートでは、そもそも主人公が走るのが好きになったのは、ゆなではなくはるなに起因していることが判明します。そして、現在病気で手術が必要なはるなを勇気づけるために、主人公はイップスを克服して陸上の世界に戻ることを決意します。
 しかし、早く勇気づけなければと焦ったためか、ペース配分も考えず無茶苦茶に走り出します。そんな主人公をゆなは咎め、「本気で走ってるの?」と問いかけます。これは主人公の走りの本質に「楽しさ」があることを知ってるがゆえの発言で、主人公もその真意に気付き、冷静さを取り戻し考えを改めることになりました。
 しばらくして、はるなの存在を知り、同時に失恋をもしたゆなは主人公に、寂しそうに、そしてどこか嬉しそうに言います。「太一が以前のように走ってくれるなら、どんな理由でもいいよ。それが、例え私じゃなくても」「本気で走る理由を見つけてくれたことが嬉しい」と。また、失恋を春雅に心配されて「太一は今も私の憧れ。だからいいの」と返します。

 私はこれらの言動を見て「本当にゆなは主人公のことが大好きなんだ」と、思い知らされました。ゆなルートでは、主人公の走っている姿に恋をした程度に思っていました。しかし、彼女にはそれ以上の秘めたる想いがありました。心の底から、楽しそうに走っていた主人公の姿が好きで、これからもそうやって走れるようになって欲しい……素直に、そしてひたむきにそう思っているのです。例え恋破れたとしても、それを一番に願っています。
 このように、本人以上に主人公のことを見ていて、理解してくれている。陸上を愛していることを知っている。だからこそ、主人公が間違っている時は咎めてくれるのです。
 主人公をいかに好きであるか、主人公と共に走った日々がゆなにとってどれほど大切なものであったか。ゆなルートでは知ることの出来なかった、彼女の本当の気持ちは私の認識を変えました。

【ゆなルートについて②】
 私ははるなルートをクリアしてすぐ、ゆなルートの二週目を始めました。するとどうでしょう。初回プレイ時では何となく読んでいた掛け合いやリハビリ描写に、ときめきを感じるようになりました。

 「一緒に驚きたいから」という理由でテレビで仕入れた最新情報を語ったり、主人公が気のない返事をすると心にもないことを言って気を引こうとしたり、二人共怖がりの癖にお互いを怖がらせようとしたり、流れ星が見えた時のためにゆなが「また太一と一緒に走れますように」という願い事を言う練習をしたり。そういった、なんということはない掛け合いが、かけがえのない時間のように感じられました。

 リハビリ描写も同じです。二人にとって走るという行為は日常の中で大きな部分を占めていて、「走ってるだけ」というのはすなわち、ゆなと平穏な日常を過ごしてるということで、二人の関係の象徴なのです。ゆながいるから主人公は頑張って、そして楽しく走り続けられるし、ゆなはそんな主人公が本当に大好きで、これが二人にとってあるべき姿で幸せな姿なんだ……そう思うようになりました。

 どんな話題でも主人公と楽しそうに話すゆな。一方で、主人公のリハビリに真剣に向き合ってくれて、かつてのように走れるようになることを願い、その時をいつまでも待ってくれるゆな。私はいつしか、そんな彼女をたまらなく好きになっていました。


 ゆなは「楽しそうに走ってる太一が好き」と語ります。主人公もまた、「俺はずっと、ゆなの笑顔を思い出しながら走り続けていた気がする」と述懐しています。
 しかしイップスが原因で、後半はずっとお互いにギクシャクした雰囲気になってしまいます。主人公は毎日毎日努力し、昔のように二人で楽しく笑い合って走れる関係を目指して走り続けます。そしてエンディング直前になってついに、主人公はイップスを克服します。
 正直、ここの展開は唐突でご都合主義な感が否めませんが、私にとってそれはどうでもいいことです。ここで二人は、本当の意味で笑い合える関係になれました。その事実になぜだか私はやたらと感動して、二人が幸せならそれでいいじゃないか、と考えたのです。


【まとめ】
 客観的に見て、本作は褒められた出来のゲームではありません。同時攻略もできずただの作業と化したSLG要素。立ち絵の表情を変える、花火などの演出だけでやたらもたつき、ロードの演出に5~10秒かかるなど、全くない快適性。伏線のぶん投げが目立ち、付き合うまでの過程がワンパターンで、恋愛に至る心理の変遷も成長もなくユーザー置いてけぼりなシナリオ。有言不実行な面があり一部ルートでは妙に気持ち悪い言動が目立つ主人公。没入感を損なわせる、前後関係と矛盾する台詞の数々。原画家さんのポテンシャルを発揮できたとは言い難い、低品質で差分も少ない立ち絵、CG。私は今までにいくつかゲームの感想文を書かせていただきましたが、それらと同じ基準で点数をつけるなら、40~45点くらいが関の山です。

 しかし、私はゆなを好きになってしまった。ゲームをプレイしていない時でも、ゆなのことを考えるくらいに特別なヒロインになってしまった。それ故、私にとって本作はかけがえのないゲームになったのです。
 何故、決して個性が強いとは言えないゆなを好きになったか、彼女との掛け合いをこんなにも愛しく思えるのか、私自身も理解しきれてはいません。恋心の一言では説明しきれない程の、主人公を想うゆなの純粋な気持ちに惹かれたのは間違いありません。しかし、言葉で説明しようとすればするほど、気持ちの全容を伝えられていない、もどかしい感覚が残ります。
 ただ、どういうヒロインであるかを説明することは出来ます。私はゆなに、所謂「萌え」的な感情を一切持ち合わせていません。ですが、いつまでも下らない話で盛り上がっていたい、楽しそうに走っている姿をずっと見ていたい、そういう日常を大切にしたい……そう思えるヒロインなのです。だから、私はこのゲームについて聞かれたらこう答えます。「ゆながいるから良ゲーだ」と。

 ここまで入れ込めるヒロインがいるのだから、本当は80点以上をつけたいという思いがあります。しかし二つだけ、どうしても見逃せないポイントがあったため75点に落ち着きました。
 まず、ゆなに後日談が存在しないこと。ようやく笑い合える理想的な関係になれたのに、私はその後を見ることが叶いません。しかも後日談がないのが9ヒロイン中、ゆなとさゆりだけなので、何でないのかとさすがの私もキレそうになりました。なお、さゆりも後日談がないのが不自然な終わり方です。
二つ目は、ゆなと主人公の昔のエピソードについての描写が少なすぎること。はるなはふんだんに幼少期のエピソードが散りばめられているため、尚更そういう印象を受けます。私はもっと、かつての走っている二人の姿を見たかったです。幼馴染という属性を活かし切れていませんし、私はもっとゆなを好きになれたのにと残念に思います。


 感想は以上となります。無駄に長い文にもかかわらず、ここまで読んで下さった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございます。私はキャラクターの魅力を人に伝えるということがどうにも苦手で、四苦八苦しながらこの感想文を書きました。なので自信はないのですが、私の気持ちが少しでも伝わってくだされば、嬉しい限りです。





【追記】
2017/01/06 
 この感想文を投稿した後もプレイを続けていて、気付いたらゆなルートを累計10周以上やっている自分がいました。そんなこともあって改めて点数を見直し、投稿時の70点から75点に変更しました。これくらいのめり込めるヒロインに出会えた時、エロゲやってて良かったと思いますね。