一点突破型。ただし商業作にしては文章が弱い
(良い点)
・会話で雰囲気を作るのは平均点以上。どのヒロインルートに入っても、はずれ、といった感じはしなかった。
・綾瀬(ヒロインの一人)が素敵すぎる。ずば抜けている。私が今迄ここに入力してきたゲームの歴代最高といってもいい。というか綾瀬以外に、単なる可愛いを抜け出して、いとおしすぎるキャラが思いつかない。「しまいま。」の例のキャラくらい?
・主人公の問題は友達皆の問題としてどのルートも解決していた。これは雰囲気のよさに直結していた。非常によかった。
(問題点)
<文章がズボラすぎる。設定があやふやで、最低限きちんとしてほしいところまですら書きとめられていない。>
その影響で、主人公も、「こんなに浅はかでコイツ大丈夫か?」と思う。許容し難いご都合主義といってもいい。一番嫌な感じがした点を二つ。
(1)一番気になったのは父親との関係。この話では、父親が何の職業をしていて、どこに住んでいて、それがどの位続くか全く分からない。主人公には散々嫌われている。知る気がないんじゃないかと思うほど。しかしながら、その一方で、金の方は、定期的にしっかり入っていて、電話連絡も来て、お年玉分も入っている。税金とか水道代とか諸々の日々の手続を主人公がしている記述もないし、父親がそれらはきちんとやってるのだろう。そのくせ、主人公は父のせいで、母は出ていったとしており、離婚の原因に関しては母の方に肩入れしている。問題はこの先である。ヒロインのうち、少なくとも二人のルートでは、半永久的に同棲する決断をする。この際に、父親の許可を全くとらないのである。一時的なお泊りだったらいい。住み込むことに関して、いつ帰ってくるかもしれない父親を全く考慮していない。そこはお前だけの持ち家かよ?と言いたくなる。
(2)チャッピールートの男子同級生。この同級生は、自覚していない当て馬として使われている。主人公の男友達ヤマのいう「ぼやぼやしてるとトンビに盗られる」のトンビ役である。このトンビ、結構狡猾に描かれているのである。皆で勉強会するから来いよ、とチャッピーを誘ってくる。その皆というのを明確にしない。最悪の場合、きちんと確かめなければ、その皆というのは全員男ということもあり得る。そして主人公に対し、敵意を丸出しにしている。その時のチャッピーの断り方は、今日は先約があるからダメ、である。断り慣れた人ならこれでもいいが、このチャッピーというのは押しに弱い。主人公は、この状況に危機感を抱き、告白する。それはいい。問題は、告白したあと、その男子学生にチャッピーがその後どういう態度を取っているのか、一言も描かれていないのである。一文たりとも割かれていない。ある状況に危機感を感じて、何かしたら、その結果がどうなったか確かめなきゃだめでしょ。チャッピーはクラスで大丈夫なの?女友達は描かれていたけど、トンビが来たときにはその肝心の子は影も形もなかったじゃん。チャッピーは一人で、お断りできてるの?あのねちっこいトンビは、「彼氏がいます」と言えば、あっさり引き下がるの?あのトンビが中途半端に悪のリアルさを放ったことで、尚更その抜けが際立って、気持ち悪い。
一般的な御都合主義もたくさんある。例えば、ルートにきちんと入る切っ掛けは、クジでお互いにクリスマスプレゼントをすることになったというもの。これもご都合主義ではある。これは全然許容できる。が、先に挙げた二つ以外にも、大事なところで違和感が出る書き方がしてあって、そのシーンがきちんと味わえない。
たとえば、アヤルート。主人公が親友の名前を呼んだこと、覚えてるよ。というシーンがある。そのあと、「花火また見に行こうね」と続く。しかし、主人公が親友の名を呼んだのは、花火回ではあっても、花火を見た回ではなくて、自分達で花火で遊んだときのことである。それも、綾瀬が立ち去ってから、数ライン下に置かれていて、背中が見えているどころか、その声が聞こえる範囲にいたかすら明確にされていない。綾瀬の態度が変わった云々の記述はあるが、あとで引用するなら、少くとも、綾瀬の背中は見えていた感じの記述をしっかりしておいてほしい。こういう大事なところの配慮が全然足りない。
さらには、小説や映画の内容はかろうじて書いてあるものの、授業の内容、勉強の内容、どう掃除をして、どう屋根の穴を直して、ケーキバイキングのパスタやカレーや綾瀬のハンバーグがどう美味しくて、何てことが一切書かれていないから、一つ一つのエピソードがつるつる滑っていって何も残らない。つまり会話は面白いのだが、それ以外が非常に違和感がある。まるで、曇った眼鏡をかけて映画を見ているような感覚である。
まとめて言えば、文章をきちんと書けば何とかできるのに、その処理をしておかないで、「いや、そこは大丈夫だったんだよ。とにかくおいしかったんだよ、賢かったんだよ、とにかく何とかなったんだよ」とかいうご都合主義が気持ち悪い。
<ほかのルートに行くと綾瀬が可哀想すぎて、そのルートのヒロインに集中できない。>
綾瀬以外のルートも単独でいえば、それなりに可愛いヒロインばかりであり、はずれ感はない。が、綾瀬の主人公に対する献身と愛がすごすぎることが、共通部で完全に分かってしまっている。あんなに自分のことを考えてくれて、好いてくれて、可愛い女の子がいることが分かっていて、それもチャラ男主義でもないボッチな男が、ほかの女の子に目がいくか?私はその状況で、ほかのヒロインに行くのがつらかった。特にハナコルート。普通に単独で立たせればいいのに、中途半端に綾瀬と戦って、綾瀬を当て馬に使った結果、ハナコ自体がさらに霞むという、逆効果を起こしていた。単独で戦えば、2番手にはなっていたかもしれないのに。
(結論)
私はゲームで、何かを人生を学びたい訳じゃない。そんな作品はゴメンだ。ただ、彼女持ちでない身で、彼女持ちの楽しい幸せな気分の一端だけを味わいたい。それだけだ。
突出したヒロインがいる、音楽は標準だが、絵が綺麗(ただしアヤルートのエロ一発目の綾瀬の目はどうにかならんかね)、主人公がまとも、酷く不快な展開がない、という点でこの作品は私の目的に叶っている。けれど、私みたいな目的の人にさえ、この作品を勧めるのは少し躊躇われる。体験版をやってみて、キャラが刺さるなら考慮してみてはどうだろうか。